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「環境を変えるだけではぬるい」突然の引退決断、異色のJリーガー井筒陸也はどうやって育ったのか/ロングインタビュー第2回

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初芝橋本高の主将時代、全国高校サッカー選手権の抽選会に出席したDF井筒陸也

 24歳の若さで現役プロサッカー選手を引退し、会社員とアマチュア選手の“二足のわらじ”生活を送るという決断をしたDF井筒陸也。J2徳島の3年間で通算54試合に出場し、契約延長のオファーも受けていた第一線のJリーガーであったことを考えれば、きわめて異例の選択だ。インタビュー第2回では、そんな男の過去と、現実と理念を追う生き様に迫った。(第1回はこちら)

—これまでの経歴を見れば、初芝橋本高、関西学院大とずいぶん違うカルチャーの組織に所属していますよね。今回の決断は、そのあたりとも地続きな気がします。
「違う文化にいたことで、人間的な幅が広がったなって思いますね。中学の時の話もすると、大阪府4部のチームで死ぬほど弱いベンチャーチームだったんです。僕が幼稚園の時に立ち上がって、そこから上がってきた中では一期生という感じでした。(※中学時代までは大阪府堺市のエルバFCに在籍)

 近くにガンバ大阪の下部組織があって、『ここは何かしらの欠陥がある選手が集まってる』『産業廃棄物』とか言われていたくらいのチームで、監督からは『考えてやんないとガンバには勝てないぞ』『勝てないから来たんだぞ』と伝えられていました。その一方で『お前ら、中学3年間ではどんなに努力しても勝てないけど、ひょっとしたら高校とか大学くらいになったら追い抜けるかもしれないぞ』とも。

 考えるという意味では、練習はいつもメニューが決まっているんですけど、監督から常に『メニューの裏をかくようにプレーしろ』『常識みたいなことやってもガンバには勝てないから』と言われていて、実際にルールの裏をかいたらめっちゃ褒めるんですよ。そういうところで育ったのが原体験としてあって、そこで気づいたんですよね。自分は欠けてるんだな、だから自分の頭で考えようって。

—その後は……。
「高校に行ったら行ったで、めちゃくちゃ地獄みたいなところで(笑)。県外に通っていたので朝4時に起きて、帰ってくるのは夜11時みたいな。雨の予報だって分かっているのに、朝にグラウンドの水を抜いて、やっぱり昼から雨が降ってきて、結局、水が溜まってるから練習は外走りみたいな生活でした。

 1年生から学年キャプテンでしたけど、仕事しようぜって言っても誰も全然やんないし、キャプテンだから聞けよって言っても『何でお前の言うこと聞かなあかんの』って聞いてもらえなかったり。そいつらって、今まで喧嘩の力でナンバーワンになってきたヤツなんで、大事なのは実力なんですよ。キャプテンっていう肩書きじゃなくて、そいつが強いのか強くないのか、やってんのかやってないのか。ドライなんですよ。

 普通の大人って、そういうこと言わないじゃないですか。とりあえず言われたことやったうえで、後から裏で文句を言って…みたいな。でも、そいつらは普通に面を向かって言ってくるし、『俺は言われてもやんない!』って感じで。それが自分にとってはすごく良くて、たぶん陰口だったら気づかなかったので(笑)。

 なので、とりあえず自分がまずサッカーで上手くなることが大事だなと思って、めちゃくちゃ練習しました。2年生くらいからレギュラーになって、チームの仕事とかもまず自分が一番初めにやる。そして、授業中も絶対に寝ない。成績も3年間ずっと1番。そうしたらだんだん言うことを聞いてくれるようになってきて、いやいや遅いやろ!って(笑)。そういう実力社会というか、人間はそこでしか動かないのをめちゃくちゃ感じたので、そこは彼らに感謝ですね。いまはあんまり会わないですけど(笑)」

—大学ではどうでしたか?
「大学に行ったら行ったで、周りがめちゃくちゃ真面目でした。逆に自分は高校時代にそういう経験をしたので、強烈になりすぎていて。大学ではみんな何も言って来られなくなって、逆にスキを作る必要あるなってことを学びました。ただ、みんな人間的にまともなのが多かったんで、プラスアルファをしやすかったですね。変なことで揉める機会が少なかったし、おかげでクリエイティブなことができた。逆にプロに入ると実力重視なので、高校時代に似ていました。

 また、自分は住むところも田舎から都会、都会から田舎、田舎から都会だったので、そういう意味でも、世の中にはいろんな人がいるなってことを感じました。いろんな人といろんなことやっていったほうがいいなって思っていて、ずっとそういう成功体験もあったので、それが今回の決断にもつながっています」

—環境を変えることで得るものがあったって気持ちが強いんですね。
「ただ、環境を変えるだけではぬるいと思っていて、『自分探しの旅に行きました』って行っても、絶対に何も変わんないじゃないですか。だから、環境を変えるって言うと誤解されがちなんですけど。

 自分が面白いなって思う人のうちに、清水隆史さんという経営者(株式会社プロコミット代表取締役社長)がいるんですが、六本木のオフィスで進路相談してもらった時に、『良いチームを作っていきたいので、コンサル会社で経験を積みたいんですよね』って話をしたら、『それは間違いないんだけど、“コト”に向かっている必要があるよ』と言われたんです。

『コトに向き合う、何か目指しているコトに死ぬほど向き合って、その中でいいチームを作ったり、自分たちのありたい姿を実現する必要あるよ』って。『こうありたいという理想を目指すだけなら、みんながニコニコしていて、何もかもそれいいよねってやっていればいいんだけど、向かっているコトがあるからこそ、共存するのが難しいんだよ』って言われました。

 だから、環境も変えた上で、コトに向かってチャレンジしていかないといけないし、新しい環境に自分が浸っているだけで、それこそ『インドに行ったら何かが変わる』みたいになっても仕方がない。何かコトにトライするからこそ意味があると思うので、しっかりとした理念を持っているサッカーチームでチャレンジして、コトに向き合っていきたいと思いました。

 これから東京に来てチャレンジするにあたって、どこか一つの企業に入っても成長はあると思うんですよ。人脈もできるし、情報も増える。でも、そこで常に何かと向き合って、死ぬほど達成したいコトと理念のどちらにも向き合っている必要があると思いました。そういう意味ではスポーツって価値があると思いますし、自分はスポーツを続けていく必要があると思っています。なので『コトに向き合う』という考え方はインパクトがありましたね」

—たしかにスポーツってそういう文化ですよね。
「サッカーの現場は差し迫った困ったことがいっぱいあるんですよね。勝負の世界なので『この試合は絶対に勝たないといけない』とか、『体調悪いけど試合で頑張らなきゃいけない』とか、あるじゃないですか。スポーツってそこがいいなと思っています。

 ビジネスだったら、先に論理があって、だったらこうなるのかな…とか、みんな頭が良いから考えていくけど、スポーツは目の前の試合で『とりあえずやんなきゃいけない』というのが良いことだと思います。あとは、普段からやっていないことがバレやすいのが良いですよね。ビジネスだったら状況が違ったので…とか、時代の流れが…とか言い訳できますけど、サッカーはそのワンプレーでスライディングできるか、ってところで結果が変わってきたりするので、そこがいいなって思います」

『コトに向き合う』——。スポーツの価値を通じて豊かさを想像し続けるという理念を持つ『Criacao』でサラリーマン生活をしながら、同社のサッカーチーム(関東2部)でボールを蹴り続けるという選択をした井筒陸也のキーワード。第3回ではプロ時代に経験した『コトに向き合う』体験、そして今後の展望を問う。

(インタビュー・文 竹内達也)
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