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「お父さんのカッコいいところ、見せたい」。ブラサカ日本代表・アブディンの夢

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アブディン・モハメドは日本代表・上林コーチ(右)と一緒にランニング

ブラインドサッカー日本代表強化指定選手に初めて選ばれたスーダン出身のアブディン・モハメドが11日、千葉県内で行われた代表合宿に参加した。なぜか、苦笑いを交えて自ら切り出した。

「いきなり遅刻しちゃったから、えらそうなことは言えないんですよ。初めて強化指定選手になったといっても、挑戦する資格をもらっただけです」

 この日、つくば市の自宅から千葉にやってきたアブディンは初めて水色のトレーニングスーツに身をまとい、すべてのメニューを消化。川村怜や佐々木ロベルト泉など、代表の常連選手がスムーズにできることをなかなかうまくできない。でも、明るく一生懸命やろうとする姿によって、遅刻したことを忘れさせるような穏やかな空気が流れた。午前中の全体練習後には代表コーチの助けを借りてグラウンド周辺を何周も走った。

 スーダンで生まれ、12歳の時に視力を失い、1998年1月、19歳の時に鍼灸を学ぶ目的で来日した。その後、スーダンではなかなか学べない国際平和を学ぶために東京外語大に入学し、日本でブラインドサッカーをはじめた。当時所属していたたまハッサーズで日本選手権3度の優勝にも貢献。しかしその後、空白の期間があった。2015年、逆走してきた車とぶつかる交通事故に逢い、不運にも右ひざを強打。今もひざを保護する金属状のものが入っている。プレーを再開できたのは2016年末。昨年秋から練習生として日本代表合宿に呼ばれた。この日の練習でも時折、右ひざを気にする仕草を見せたが、シュートがジャストミートしたときのインパクトは、他の代表選手にはない迫力だ。

アブディンは古傷の右足で思い切りシュート

「時々、激しい運動をすると痛みが走るときがありますよ。最初は『もう一度やるのは怖い』と思ったんですけど、サッカー、好きだからつくばのチーム(Vivanzareつくば)でやっていて楽しい、と感じるようになったんです」

 2017年から学習院大で国際政治などを教える特別客員教授の肩書を持ち、13日の練習後、仕事のために一足早くチームを離れる。2年前に日本人に帰化し、君が代も歌えるアブディンには夢がある。

「東京五輪は目標にしています。3人いる子供たちにお父さんの格好いいところ、見せたいからね。子供たちには代表に本当に選ばれたら言おうと思っています。でも今回、初めて(代表の)ウエアをもらったから、それは見せようかな」

 40歳のオールドルーキーはいたずらっぽく笑った。

(取材・文 林健太郎)

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