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廣末、飯田ら育てた大久保GKコーチが “最後の選手権”。青森山田は恩師のためにも日本一掴む

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青森山田高のGK陣と大久保隆一郎GKコーチ(右から2人目)が優勝を喜ぶ。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.14 選手権決勝 青森山田高 3-1 流通経済大柏高 埼玉]

「(黒田剛)監督と大久保さんは絶対に胴上げしようと言っていた。できて良かったです」。青森山田高のGK飯田雅浩主将(3年)は、2度目の全国制覇を成し遂げた名将とともに大切な存在を胴上げできたことを喜んだ。

 日本一に輝いた16年度選手権の“主役”GK廣末陸(FC東京→山口)や、GK田中雄大(相模原)らを育てた大久保隆一郎GKコーチが今年度限りで青森山田を離れ、愛知県内の大学サッカー部の指導者として新たな挑戦をスタートする。

 大久保GKコーチは自身も青森山田OBで、05年インターハイでは2年生守護神として青森山田初となる全国制覇。大学卒業後に青森山田のGKコーチとなり、8年間、教え子たちの指導に情熱を注いできた。

「彼らが本気だからボクも本気だし、ブレずに指導してきました。ボクが指導者になったのも、日本一にするということと、Jで通用するGKをどれだけ育てられるかということからでした」。自身は身長173cmの小柄なGKで、プロになる夢を叶えることはできなかった。その夢を教え子に託し、今年の飯田を含めてシュートを止めるだけでなく、ゲームをコントロールできるGKを育ててきた。

 飯田はプレミアリーグEAST第17節の清水ユース戦(1-2で敗戦、初黒星で優勝の可能性が消滅)後、大久保GKコーチから涙ながらに言われた言葉が強く印象に残っているという。「エスパルス戦の後に涙ながらに言ってくれた『試合をあきらめるな』『何事に対しても全力で挑め』『絶対に勝たせるGKになれ』という言葉は自分の中でも響きましたし、一生忘れることはないと思います」。今大会3回戦前のミーティングで黒田監督が選手たちの前で大久保GKコーチにとっても“最後の選手権”になることを説明。選手たちは、日本一になって恩師を送り出すことにもこだわってきた。

 飯田は準々決勝の試合終了間際に相手との1対1をビッグセーブ。さらに相手選手との激突しながらゴールを死守するプレーがあった。そして、準決勝ではPK戦で再びチームを勝たせるビッグセーブ。大久保GKコーチの指示でPKの跳躍する方向を決めた飯田は、「大久保コーチと一緒に勝ち取った勝利でもありますし、これまで支えてくれて感謝しかない」。優勝後に改めて感謝の言葉を伝えると、返ってきた言葉は「オマエが頑張ったからだよ」。大久保GKコーチは、飯田やセカンドGKの三文字瑠衣(3年)と一年間関われたことが幸せだったと語り、飯田は憧れの存在の前で「チームを勝たせるGK」に少し近づけたことを喜んでいた。

 教え子たちの力で「日本一のGKコーチ」になった大久保GKコーチは、新天地で「青森山田というブランド力を抜いた時に、どれだけ指導力が残るか」に挑戦する。近年は青森山田に憧れ、有力なGKが自然と集まってきていた。その環境に甘えるのではなく、指導者として貪欲に学び、成長すること。そして、「大久保コーチの下で成長したい!プロになりたい!」と言われる指導者になって、一人でも多くのJリーガーを育てることを目指す。

「将来的にはJのGKコーチもやりたい。夢を持ってやっていきたい」という大久保GKコーチは、青森山田の“後輩”たちへ向けて「日本一私生活からきっちりやっている学校だと思うし、そこは(黒田)監督の方針でブレないと思うので、しっかりと信じて監督について行ったら絶対に結果は生まれると思います。『本当に辛い、辛い、辛い、でも一番オレたちが辛い思いをしているんだ』というハングリー精神から、『絶対に負けねーぞ』という気持ちにもなってくると思うし、信じて監督・スタッフについて行って欲しいと思います」とメッセージを送った。

 大久保GKコーチの下で成長した廣末は、昨年12月に青森山田に日帰りで訪れ、飯田らを指導して帰京したのだという。プロで活躍することはもちろんだが、そのような母校愛も持つ人間に育ってくれていることも大久保GKコーチは喜んでいた。その恩師の下で3年間成長してきた飯田は「(大久保GKコーチには)サッカー以外の面でも、私生活の面でも多くのことを学びました。一番信頼できる人ですし、自分もああいう大人になりたい」。今春、青森山田を“卒業”する3年生たちと大久保GKコーチ。それぞれが次のステージでの目標へ向けてブレずに挑戦し、互いに良い報告ができるような日々を過ごす。

(取材・文 吉田太郎)

●【特設】高校選手権2018

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