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デフフットサル日本代表・東海林主将の採用担当者の証言「彼のおかげで社内の人間関係が濃くなった」

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東海林直広(右)を採用した阿部浩治GM(左)

 デフフットサル日本代表の東海林直広主将は2017年1月、仕事と練習の両立を目指して、中古車などのTV、インターネットオークションを運営する「㈱オークネット」に就職した。東海林は大学卒業後、別の会社に就職したが、残業に追われ、練習時間の確保が思うようにいかずに同社に転職した。同社の採用を統括する人事総務部の阿部浩治GMが経緯を明かす。

「本当に偶然なんです。障がいを持ちながらアスリートとして頑張っている人の雇用に特化した会社からセミナーの案内のファックスがある朝、届きました。そのセミナーで話を聞いたのが最初のきっかけで、東海林君もそこに登録していました。当時、私は障がい者の採用に壁を感じていました。障がいのある方を採用したいが、どなたでもいい、というわけにはいかない。弊社は会員サービスをしているので、対人関係は避けて通れません。ハローワークを通して採用活動もしましたが、なかなか成立しなかった。それでも何人か採用にこぎつけましたが、1年持たずに辞めてしまうジレンマに陥っていました」

 障がいを持つアスリートを採用して、社内にどんな変化が生まれたのだろうか。

「私は(東海林の)上司であるという以前に、1人のファンとして応援しておりますが、普段一緒に働いている人間が試合で勝ったり負けたりする姿を、我々も一緒に喜んだりすると、彼の困難を少し共有できる気がしたんです。それが社内の一体感を生み出すと考えました。彼が入社して間もない2017年5月頃、デフフットサルの日本代表が韓国と親善試合をしたんですが、その時期に弊社内で月1度、全社員を集めて行う朝礼を彼の壮行会にするため、日本代表のユニフォームを着て登場してもらった。するとすごく盛り上がったんです。社内でもトップアスリートを採用したとは公表していなかったので、『東海林君って、日本代表で活躍しているの?』と周りの社員がびっくりした。親善試合は平日に行われましたが、部の垣根を越えて応援に来ました。普通だったら絶対にネットワークが広がらない場所で、点と点がつながった感じです。東海林の“困難を乗り越え活躍する姿”はまさに『ダイバシティ』、彼の存在により多様性を受け入れる社内風土も醸成されていると感じます」

日本代表では、川元剛監督(左)の指示を手話で通訳する

 人事総務部で労務管理をしている東海林の働きぶりはどうなんだろうか?

「素晴らしいですよ。面接のときからそれは感じていました。日本代表の主将という立場もあって責任感があるし、社交性もすごくある。彼の仕事は、社員の日々の勤退管理です。当然、月始めは大変。先回りしてこちらをやったほうがいい、とかメリハリが必要なんですが、その辺のコントロールが非常にうまい。フットサルの試合で培った『野生の勘』みたいなことがビジネスでも生きているのではないかな」

 聴覚に障害があることが仕事に影響を及ぼしていないのだろうか?

「実は、(東海林は)採用面接のときに『電話はちょっと難しいです』と話をしていた。でも入社早々、彼は会社のビジネスフォンに機械(受話器と本体の間につける拡張器のようなもの)をつけて、外線でも普通にとるんです。これまでも聴覚に障害のある方を何人も見てきましたが、彼らは話をしながら相手の口の形を見て理解する。でも電話はそれができないため、電話を怖がる人は多いんです。それでも彼は電話とりにいくんですよ」

東海林が会社で使用している電話。受話音量増幅器(左)をとりつけ、音量を調節する

 東海林以外にどんな障害を持った人が入社しているのだろうか?

「アスリート採用では卓球選手がいて、その社員も聴覚障害を抱えています。それ以外はメンタル面や知的な障害を抱えた方です。聴覚障がい者の採用を各部署に相談に回ったとき、IT開発部門の部署が積極的に手を挙げてくれました。『今の時代、健常者同志でもコミュニケーションがとりづらい。ウチのメンバーも障がいのある方とのコミュニケーションを学んでくれれば、別の仕事でも活きてくる。ぜひ受け入れたい』と。お客様やユーザーが望むものを作るプロセスにおいても、最後はコミュニケーションを通した関係性が大事になってきますから」

 その部署はどんな変化が生まれたのだろうか?

「たとえば部署内でシステムの内容を具体的に説明するとき、障がいを持つ彼にもわかるように話をしなければいけませんので、その準備をするわけですが、結局、人に説明をするときは、自分が本当に理解を深めないと説明できないことに気づいたようです。その結果、部署内のやりとりがより濃密になって理解が深まっている、と聞きました」

 今後、障がい者の採用で新たに考えていることはあるのだろうか?

「偶然なんですが、アスリートでは身体障害の方は、聴覚障がい者しか出会っていません。そうでない人が採用されたら、また社内に違うことが起こるかもしれませんが、そこは走りながら考えるしかない。ただ、会社の空気をかえるという面ではいい方向に来ています。東海林君を採用する前に、悩んでよかったと思います」

(取材・文 林健太郎)

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