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「アンプティサッカーを知るまで、鉄道しか追わなかった」。東日本リーグの開幕ピッチに立った10歳の少年の夢

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久保満寛は、かつて吹っ飛ばされた日本代表の若杉幸治(右)と堂々と対峙

[1.26 アンプティ東日本リーグ FCアウボラーダ 3-0 ガネーシャ静岡 (兼松株式会社都賀グラウンド)]

 下肢や上肢に切断障がいを持つ人がプレーするアンプティサッカーの東日本リーグが26日、開幕した。公式試合を増やし、伸び盛りの選手や将来性豊かな若手の成長を促す目的で新設されたリーグ戦で、強豪・FCアウボラーダに所属する10歳の少年が躍動した。試合時間50分のうち37分間プレー。後半5分までに3-0と大きくリードすると、フィールドの他の5人の選手が、久保に繰り返しパスを出し、シュートを打たせた。放ったシュート2本のうち、1本はバーに当て、その瞬間、天を仰いだ。

「(ゴールに)行ったかな、と思ったら、ちょっと高すぎました。僕は公式戦でゴール決めたことがなかったので、決めたかったです。出場できた時間は、これまでの公式戦で一番長かったと思います。まさか自分でもこんなに長く出られるとは思わなかった」

 はにかんだ少年の名前は久保満寛。小学5年生。平成20年、2008年生まれの10歳だ。身長は130㎝、体重28㎏。「いつもクラスで並ぶと一番前です。せめて真ん中ぐらいにはなりたいんですけどね……。一番大きい子は、身長は152、3あるから」。苦笑いを浮かべながら話す表情に、不思議と悲壮感は漂わない。サッカーが十分にできた喜びに満ち溢れている。

 久保によると、生まれる前から左足の骨の未発達が原因で、生まれたときから左足は右足の半分ぐらいの長さしかなかったという。「自分の今のこの足の状態が基準だと思っていたので、ほかの人を見て『何であの人たち足が2本あるのかな』と思っていたぐらいです」

 スポーツにあまり興味がなく、鉄道好きの友だちと一緒に山手線を乗ってぐるっと一周するようなことが好きな子だった。普段、左足に装着する義足についてお世話になる店員さんを通してアンプティサッカーの存在を紹介され、アウボラーダの練習の体験会に参加。それまで本格的にスポーツに取り組んだことがなかった少年が「アンプティ熱」にうなされた。

「僕の友達は少し足が遅くてすぐにつかまっちゃうような子でしたが、その子から『サッカーをすれば足が速くなれるよ』と言われてやってみたら、すごい楽しかったんです」

久保は味方の選手が負傷で倒れると、真っ先に駆け寄った

 久保は2016年11月、8歳のときに練習に参加し、翌2017年、9歳で迎えた5月の全国大会、レオピン杯で公式戦デビューを果たす。アンプティサッカーは「クラッチ」と呼ばれる杖を巧みに操作しながらドリブルやパス、シュートをするため、生まれつき杖を使って生活している子供のほうが、後天的に負傷や病気を理由に杖を使うようになった大人より高いパフォーマンスを出せる可能性を秘める。そのことが、10代の選手でも大人と渡り合える理由のひとつだ。 

「その試合でガネーシャ静岡で日本代表の若杉(幸治)さんに吹っ飛ばされちゃいました。自分がボールをドリブルしていたら、若杉さんがボールを奪いに来て、奪われたボールと一緒に僕が飛んでしまいました(笑)」

 地面にたたきつけられても、30歳以上年齢が離れた同僚のおじさん選手から時折、怒声を浴びても、久保はこのサッカーを続けたい。なぜだろうか。

「確かに体力差は他の選手や健常者とも違ったりしますが、同じ境遇にいる人とこうしてサッカーをしていると、同じようにやれるという『安心感』につながるというか……。僕に両方の足があって健常者だったら、人並みの普通の人生を送れたかもしれませんが、普通の少年サッカーとか、健常者がやるバトミントンやバレーには、実は全く興味がなくて。今、こうなったからこその人生があると思っています。これからも、出来る範囲で体力をつけて、他の人にはできないことをやってみたい。このサッカーで日本代表として、できるだけ早くワールドカップ(W杯)に出場できるように頑張りたいです」

 久保が目指すW杯は最速で2022年に予定される(開催国未定)。その時、まだ14歳だ。ハンディを抱えたからこそ広がった世界で、久保は大きく羽ばたこうとしている。

(取材・文 林健太郎)

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