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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:閃光少年(昌平高・小見洋太)

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昌平高FW小見洋太は昨年のNB CUP U-16で得点王に輝いている

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 後半も終盤に差し掛かったくらいだろうか。全速力で相手ディフェンダーへプレッシャーを掛ける姿に、スタンドから「まだ走れるんだ…」と思わず驚嘆の声が漏れる。献身的なプレーに自然と視線がその坊主頭へ引き付けられていく。「もっと技術の部分で上手くなりたいですし、まだまだ決定力も足りないので、そういう所を磨いていきたいなと思います」。そう言ってはにかむ笑顔は、まだまだあどけない16歳の少年そのもの。タレントの居並ぶ昌平高でも異質の個性を有する小見洋太が今、いよいよ表舞台に躍り出ようとしつつある。

 7‐0、9‐0、6‐0。3試合の合計は22得点無失点。埼玉県の高校サッカー新人大会に臨んだ昌平は、初戦から圧倒的なスコアを積み重ねて決勝進出を果たす。主力がほとんど入れ替わりながら、この凄まじい結果を残してきた過程で、紫藤淳、大竹琉生、大和海里という3人の2年生と並んで、初戦から3試合続けて得点を奪ってきたのが1年生の小見洋太。4‐2‐3‐1のシステムを敷くチームの“1”を任された小柄なストライカーだ。

 プレースタイルは“直線的”。「上手さだけでテクニカルな状況が目立つだけより、縦の推進力とか、そういう所も今年はできるかなと思っている」と藤島崇之監督も口にしたように、昨年より縦へのパワーとスピードが増した感のあるチームにおいて、単騎で走れる小見のスペースへ供給されるフィードも多く、全力でボールを追い掛ける姿が印象に残る。加えて、守備時はプレスのスイッチとして、前線から相手のボールホルダーを果敢にチェイス。やはり、全力でボールを追い掛ける姿が印象に残る。

 自身の役割もしっかり把握できている。「自分がセンターバックのパスから裏に抜けて、ボールを受けて起点を作って、海里くんとか須藤(直輝)とかのドリブルを演出して、そのあとにゴールに近寄って、最後は自分が決めるという感じです」。2列目に並んでいる紫藤、大和、須藤はタイプこそ違えども、いずれも全国レベルと言って差し支えないドリブラーたち。「基点になるだけで他の選手がほとんどドリブルで行ってくれるので(笑)」、自らのランニングが相手に与える圧力も考慮した上で、とにかく前へと走り続ける。

 2年ぶりの優勝が懸かった決勝の正智深谷高戦。小見は開始1分も経たない内にスピードで魅せた。大和のスルーパスを引き出すと、一気に加速してエリア付近へ。決定的なピンチになり掛けたシーンに、たまらず相手ディフェンダーはイエローカード覚悟でファウルを犯したが、キックオフ直後のフルスロットルぶりに、この1試合への覚悟が窺える。

 以降も攻守へ全力で走り回るプレースタイルに、少しずつスタンドにも彼の“ファン”が増えていく様子が見て取れる。目立つ坊主頭ということもあってか、とりわけ子供たちからプレーへ歓声が上がっていくようになる。そのことを伝えられ、「小さい子は結構好きなので嬉しいです」と照れ笑いを浮かべる表情は、まだ子供のような幼さを残していて微笑ましい。

 少し押し込まれる展開にもかかわらず、大和と紫藤の連携で前半の内に先制点を奪うと、1点をリードした後半4分に小見へ決定機が訪れる。中央で前を向いた大和は、「自分でターンした時にシュートが第一の選択肢にあったんですけど、洋太の方がフリーで見えて、『あそこに出せば決めてくれるな』って信頼感はあるので」と後輩へスルーパス。かなり強めのボールを抜群のトラップで収めた小見は、冷静にボールをゴール左スミへ流し込む。

「結構パスが速くて浮いていたんですけど、準備はできていたので良いトラップをして、あとは空いている方に流し込めたので良かったです。グラウンドも天然芝でフワフワだったので、『人工芝だったら流れていたかな』というのもあるんですけど、まあ、良かったです」。これで新人戦は初戦から4戦連発。昨年度は森田翔や西村悠希、伊藤雄教など複数の選手が入れ替わりながら務めていた1トップのポジション争いへ、シンプルに結果という形で堂々と名乗りを上げていく。

 ただ、観客を最も沸かせたシーンはディフェンスで。相手のセンターバックがサイドでボールを持つと、逆サイドにいた小見は大きく迂回するような曲線を描いて、後方から全速力で忍び寄る。結果的に察知され、“作戦”は成功しなかったものの、「アレは足音を立てないで行くヤツですね(笑) 自分とかもやられるとやっぱり嫌ですし、ディフェンスにああいう守備をするともう蹴らざるを得ないので、時々やります」と本人が明かせば、「体のサイズがない分だけ、いろいろ考えて工夫すると。そういう所の工夫は楽しいかなと思いますね」と指揮官。ディフェンス面で歓声を浴びるストライカーは、決して多くない。

 後半39分に交替でピッチを引き上げる際には、スタンドからも拍手が送られる。3‐0と勝利を収め、埼玉での“一冠目”を手にした昌平の中でも、「動き出しとゴール前での冷静さが特徴だと思います」と自らを分析する11番は、大きな存在感を見る者に残して、自らの自信とスタッフ陣からの信頼を手に入れたのではないだろうか。

 元々は大宮アルディージャのジュニア出身。親の勧めもあり「自分は結構ドリブルが好きなんですけど、LAVIDAはドリブルとパスをうまく使い分けながら行けるので、自分の好きなことができるLAVIDAを選びました」と言及したように、中学時代は昌平と重複するスタッフが指導に当たっているFC LAVIDAで“足”を磨く。「指導者がだいたい変わらないので、結構自分のプレーもわかってくれていて、やりやすい部分もあります」と本人。昌平にとっては最長で6年間に及ぶ育成のスパンを考えても、ある意味で“昌平らしくない”小見がどういう形で成長していくのかは、1つの指針になり得るのかもしれない。

 気になったのは、その坊主頭。決して何かを“やらかして”そうなった訳ではない。「もう小さい頃からずっと坊主で、逆に長いと重く感じるので、ちょっと伸びてきて耳とかに触るだけでも、もうかゆくて『嫌だな』みたいな感じなんです(笑)」。3年前の全国総体4強を支えた、塩野碧人を彷彿とさせるような風貌が懐かしい。そう言えば、塩野も見た目のいかつさと笑顔のカワイさのギャップが魅力的だった。昌平と坊主頭の伝統は、ここにも息衝いている。

 同級生の10番の存在も大きな刺激になっている。「須藤は高校選抜とかも選ばれて、『凄いな』と思う部分もあるんですけど、『負けてられないな』って想いもあります。やっぱり代表を狙っていけるように、そのためにはまだまだ足りないですけど、そういう高い所を意識してやっていきたいです」。取材対応を終えた小見と、彼を待っていた須藤が連れ立って帰っていく光景に仲の良さが窺えたが、慣れない会場ゆえに勝手がわからず、右往左往しながらようやく見つけた出口からニコニコ去っていくあたりに、高校1年生の日常を垣間見る。彼らの切磋琢磨もチームを活性化する要素として必要不可欠だ。

 藤島監督は彼についてこう語る。「もちろんまだまだできないことはありますけど、ちょっとアイツしかできないことがあるというか、テクニカルには見えないですけど、なんかツボを心得ているというか。面白いですよ」。まだまだできないことがあるけど、彼しかできないことがある。テクニカルには見えないけど、なんかツボを心得ている。その文字が勝手に旋律を奏で出しそうな期待感が、指揮官の紡いだフレーズに滲んだ気がした

「もっと技術の部分で上手くなりたいですし、まだまだ決定力も足りないので、そういう所を磨いていきたいなと思います」。そう言ってはにかむ笑顔は、まだまだあどけない16歳の少年そのもの。彼しかできないことがあって、なんかツボを心得ている。タレントの居並ぶ昌平高でも異質の個性を有する小見洋太が今、いよいよ表舞台に躍り出ようとしつつある。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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