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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:インパクト(清水エスパルス・金子翔太)

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清水エスパルスMF金子翔太は開幕戦で北川のゴールをアシストした

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 目指していた数字には到達した。結果は十分に出してみせた自負もある。だからこそ、自らが欲する地点へ辿り着くために必要なものが、より明確になったのかもしれない。「目標はもう日本代表です。もう二桁得点とかじゃなくて、代表。そのためには、やっぱりゴール数、アシスト数もそうですけど、毎試合の“インパクト”が必要なんじゃないかなと」。金子翔太。23歳。技術と献身を兼ね備えたアタッカーは、“インパクト”というラストピースを手に入れるべく、2019年シーズンを歩み出した。

 2018年9月。金子は新たなモチベーションを駆り立てられていた。時は森保一監督率いる新生日本代表が立ち上がったばかりのタイミング。中島翔哉。南野拓実。堂安律。同年代のアタッカー陣が生き生きと躍動する姿を目にして、今までとは違う感情が自身の中に湧き上がってくる。「この間の代表戦を見た次の日は『ボールを蹴りたい』と思って、いつもより早く練習に行っちゃいました」。生来持ち合わせている“サッカー小僧”としての表情が覗く。

「拓実くんはアンダー世代の代表でずっと一緒にやっていましたし、中島翔哉くんも僕の1個上でずっと見ていた選手で、試合を見ていて僕も楽しかったですし、刺激にもなりました」。身近な選手たちのプレーに、自身のスタイルを重ね合わせていく。「僕はどちらかと言うとドリブラーというよりはチームの基点になるような、仕掛けるというよりは香川選手みたいに間で受けて、味方と共存しながらというタイプなんですけど、今回みたいに海外でやっている選手を見たら、『今はトレンド的に前線の選手もああやってガンガン仕掛けていかないとな』と思いました」。

 話を聞いたのは第28節のFC東京戦。この時点で金子のゴール数は9。目標としていた二桁ゴールには、あと1点に迫っていた。「もちろん焦らないでやっているんですけど、9点というプロに入って初めてこの立ち位置に来て、得点に飢えているというか。ゴールへの欲と冷静さは紙一重だと思うんですけど、ゴールへの欲の割合が今日は上がっていましたね」。

 結果が出てきたことは、自らの評価軸も見直すキッカケになる。「今までどちらかというと献身的に、チームのために基点になったり、守備を頑張ったり、ハードワークして走ったり、スペースを空けたりという部分をやってきたんですけど、やっぱり結果的に点を取らないとそっちの部分も評価されにくくて、点を取っているからこそ、そういう他の部分が評価されると思うので、ハードワークして守備も助けるという自分の持ち味も生かしつつ、ミッドフィルダーの選手の中では一番点を取りたいですね。もっと上を目指したいですけど、とりあえず欲と冷静さの折り合いをうまく保ちながら試合をやりたいです」。

 ある選手との“競争”にも話が及ぶ。「航也も今日は点を取って、どっちも9点と9点なので、お互いに『残り6試合で二桁には乗せたいね』と話しています」。北川航也。仲の良い1つ下の後輩。なかなか公式戦の出番を得られない時間を共有し、同じような時期から出場機会を得るなど、切磋琢磨してきたライバルだ。「アイツも公式記録とかチラチラ見ているんで、意識はしていると思います。ただ、先に二桁を取った方がPKを取ったら片方に譲る、というのは公約として決めているので、僕が早めに二桁を取って、アイツにPKを譲って、『ごめん!』みたいなことを言わせたいと思います(笑)」。

 確たる結果を積み重ねてきたからこそ、見えてきたのはその先の景色。二桁得点と日本代表。どちらも手の届く位置に迫ってきているような状況ゆえか、いつも通りのクレバーさの中に、いつも以上の熱量を秘めるような口調だったことが、はっきりと記憶に残っている。

 10ゴール7アシスト。2018年シーズンは、最終節でゴール数を念願の二桁に乗せた。ミッドフィルダーを主戦場に置く選手として、リーグ最多の数字。目指していた境地へとうとう辿り着くことに成功する。ただ、前述した昨年9月のFC東京戦から、最終節まで得点に見放される時期が続いていた。

「『自分の長所は何なのか』という面で、昨年はちょっとそのことを考え過ぎてパフォーマンスを崩した時期もあったんです」。“そのこと”とは、日本代表のゲームで目の当たりにした“個の推進力”。欧州でも活躍するアタッカー陣のプレーを見て、個人での仕掛けを意識するあまりに、少しだけ自身の持ち味を見失い掛けたことで、肝心の結果が付いてこなくなる時期を経験した。

 それから半年に及ぶ月日は、改めて自分を再確認する時間になった。「第一に代表の彼らにない良さは、例えば守備のハードワークとか、走ったりとか、周りの選手をうまく生かしたりとか、もちろん個で行くのも前線の選手は大事な所だと思うんですけど、今日のアシストみたいにうまく自分で連携やコミュニケーションを取って、周りも生かすのが自分の特徴だと思うので、そういったプレーをより出していきたいなと。“汗かき役”じゃないですけど、そういうのも今の代表には必要かなと思います」。

 2月23日。エディオンスタジアム広島。2019年シーズンのJ1リーグ開幕戦で『今日のアシスト』は生まれた。同じシャドーを任された中村慶太のパスを、金子がダイレクトで左へ落とし、北川が左足で冷静にゴールへ流し込む。「アレが本当に典型的なマニュアルじゃないですけど、フリックしたりとか、誰かがフリックした所に自分が入っていくとか、自分がターンしてとか、いろいろなバリエーションが出てくると思います」。見事な連携をしっかり得点に繋げる。「多分今日はアシストしたんで、アイツもお返ししてくれると思います(笑)」。そんな“アイツ”の存在も、金子にとっては今まで以上に意識せざるを得なくなってきている。

 昨年10月。金子も「正直代表には程遠い環境だった」と振り返るエスパルスから、岡崎慎司以来となる日本代表に選出されたのが北川。スタートは追加招集だったが、アピールに成功すると以降もコンスタントに呼ばれ続け、年が明けて開催されたアジアカップでもメンバー入りを果たす。「航也が入って、本当に嬉しさと悔しさの両方がありますけど、たぶん悔しさの方が割合的に大きいですね」。正直な想いを口にする金子。身近な存在であることが、より複雑に心情を揺り動かす。

 とはいえ、そこは盟友の晴れ舞台。北川が出ている代表戦は欠かさずチェックしている。「全部見ています。親心じゃないですけど『ちょっとやりにくそうにしているな』みたいな(笑) でも、“今日のアシスト”みたいなのがすべてじゃないですか。航也はたぶんああいう動きをしていたと思うんですけど、チームメイトが自分でガンガン行くタイプですからね。ああいうパスが代表でも欲しいと思うので、そこは逃さないようにしたいなと思っています」。彼の生かし方を語る言葉に、育んできた信頼と友情が透けて輝く。

 今月で生まれてから7か月になる愛息の存在も、小さくない活力となっている。「子供のことはよく聞かれるんですけど」と切り出しながら、「例えば試合でうまく行かなかった時とか、負けた時とかに家に帰って子供の顔を見るとすべて忘れるというか、そこのスイッチが完全にできていて、オンとオフの切り替えじゃないですけど、その“癒し”はかなりありますね。メチャメチャデレデレしてます。めっちゃ可愛いんで!」と饒舌に語る表情は父のそれ。子供のため。家族のため。戦い続ける理由も増えていく。

 改めて自らの武器について尋ねてみる。「僕は攻撃だけやるような選手じゃないですし、ハードワークできるのがプレースタイルなので、パッと見たら10ゴール7アシストという数字が目立つかもしれないですけど、自分の中では守備をしたり、フリーランで走ったり、そういう部分の方が見て欲しい部分で、その中で数字を残すのが目指す所かなと。だから、今年もそのスタイルは変わらないと思います」。

 改めて今年の目標について尋ねてみる。「目標はもう日本代表です。もう二桁得点とかじゃなくて、代表。そのためには、やっぱりゴール数、アシスト数もそうですけど、毎試合の“インパクト”が必要なんじゃないかなと。わかりやすく言うと、伊東純也くんが毎試合相手に与えるダメージは大きいし、敵チームから見てもチャンスメイクの数もやっぱり凄いし、僕は個でバッと行くタイプではないかもしれないですけど、そういう場面も増やしたり、味方と共存しながら相手にダメージを与えるような選手、相手に『コイツ嫌だな』って思わせるような選手になりたいですね」。

 青いユニフォームを纏った選手たちに刺激を受け、悩んで考えた末にはっきりと気付いたのは、自らが持つ武器の大切さ。走って、守って。点を取らせて、点を取って。すべてをこなしたその上で、見せ付けるべきものはもうわかっている。金子翔太。23歳。技術と献身を兼ね備えたアタッカーは、“インパクト”というラストピースを手に入れるべく、2019年シーズンを歩み出した。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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