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ベニテス以来最も嫌われたチェルシーのボス、サッリはなぜファンに見放されたか

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マウリツィオ・サッリ監督の危機?

 ラファエル・ベニテス以来、チェルシーマウリツィオ・サッリほど嫌われた監督はいないだろう。

 ブルーズのサポーターは、このイタリア人の頑固な、いや頑なとも言える戦術的アプローチに幻滅させられている。FA杯で敗退し、プレミアリーグでも急激に順位を落としているのはその戦術のせいだとサポーターは感じているのだ。

 最近のボーンマス戦(0-4)とマンチェスター・シティ戦(0-6)は歴史的な大敗だったが、ウィンターシーズンを通してみてもチェルシーの状態は総じて悲惨なものだ。カラバオ杯決勝での望外なパフォーマンスを除いたとしてもここ数試合は低調だった。

 ロマン・アブラモビッチオーナーの下では、多くの監督が招かれ、そして最後には人気を落としていった。

 例外的に、ベニテスはすぐにファンの軽蔑をもって迎えられた。そのスペイン人がリバプール時代に彼らに放った辛辣なコメントを忘れていなかったからである。

 それとは対照的に、夏にサッリがチェルシーに来た頃は、誰もが彼の成功を望んでいた。ブルーズのファンは、ジョゼ・モウリーニョアントニオ・コンテのような現実路線でのフットボールに見慣れていたため、スタンフォード・ブリッジではしばらく披露されていなかった、ポゼッションサッカーのビジョンにすっかりと魅了されてしまったからだ。

 しかしそれから8か月。いやわずか8か月すら経たないうちに、その夢は潰えてしまった。

 18日に行われた、FA杯ラウンド16のマンチェスター・ユナイテッド戦で敗戦した時、「ファック・サッリボール」と叫ぶチャントがスタンドから聞こえてきた。これほどチェルシーファンが監督の戦術について激しく楯突いたのは初めての瞬間である。同時に、指揮官がファンから見放された決定的な出来事であった。

 もちろん、良質なフットボールを見たくないわけではない。だが、サッリが自身を「夢追い人」と言うなら、彼は断崖絶壁で徘徊する夢遊病者なのではないか、とサポーターは感じ始めてしまったのである。

 サッリは、彼の戦術論のみでチェルシーの浮沈を決めようとしている。どのゲームも同じ4-3-3のシステムで、たった14人の中心メンバーだけを起用し続けていることは問題だろう。

 加えて、彼が批判されているのは、守備的MFとして世界最高の評価を得るヌゴロ・カンテをより攻撃的な役割で起用していること、スタミナで劣るMFジョルジーニョを中盤のダイナモに据えていること、そしてアカデミー出身の選手にチャンスを与えていないことにある。

 チェルシー出身のコメディアン、オミッド・ジャリリはブルーズのファンであることは広く知られている。愛するチームは悲劇的な状況に陥っていると考えているようだ。

「サッリボールを信じたいからこんなことを言うのは嫌だけど、今のチェルシーはティーンエイジの女の子に袋叩きにされているみたいだ。ユナイテッドはそんなによくなかったけど、彼らは僕たちとの対戦がイージーだとわかっただろうね」

 タイトなスケジュールにもかかわらず、ジャリリはブルーズのホーム戦もアウェー戦もしっかりと追いかけている。それだけにチームの現状には我慢できず、ファンの怒りも高まっていることを認める。

「サッリがこれほどまでにチェルシーサポーターの支持を失うことは予想外だった。2006年にミドルスブラサポーターがシーズンチケットを破ってスティーブ・マクラーレン監督に投げつけたときのことを思い起こさせるような、ファンの怒りの買いっぷりだ」

「たくさんのファンがユナイテッドとの試合中に帰っていった。これは本当に決定的瞬間だったね。こんな光景は見たことがなかったよ。僕でさえ早く帰りたかったよ、ショーがあったからね。でもサポーターがたくさん帰っていたからなかなかバイクまでたどり着けなくてさ」

 終盤の選手交代を行っている際には「ほとんどスタジアムは空っぽだった」と回想するジャリリ。「もう終わりだと思う。この試合まではまだ信じていた人は多かった。でも残念ながらもう引き返せないよ。僕たちファンはもう信用できない」と続ける。そして最後には、ファンとして「チェルシーは変わるべきだ」と正直な思いを吐露した。

 アレックス・ゴルドベルグもまたサッリの続投を支持するのは難しくなっていることを明かす。ゴルドベルクといえば、『The Calcioland Podcast』のプロデューサー兼共同司会者として有名な人物。そしてこれまで、彼が頑ななほどにチェルシーをサポートしてきたこともまた有名である。サッリの劇的な改革に対し、チェルシーというクラブの体質がそれを妨げていると考えていたからだ。

 しかし、その彼ですらイタリア人監督の意思決定に疑問を抱き始めたという。

「サッリの下で事態が好転するかはわからない。うまく行けばいいけれど、控え選手は困惑しているし、チーム選考はロジカルじゃない。そのうえ彼が戦術を変えることはまずありえないんだ。彼が改善できるとは思えない…」

 解任か続投か。どちらを選んでも、クラブにとっては難しい未来が待っていると話す。

「彼を更迭するのもリスキーだと思う。けれど、チェルシーは立ち往生してしまっているんだ。更迭するのもしないのも悪い決断に思えてしまう。ヨーロッパリーグも含めて今シーズンが終わるまで、彼らをサポートしていく以外の代替案がはっきり見つからないんだ」

 デイブ・ジョンストンはサッリの頑固さに困惑されっぱなしだ。

 1999年に設立され、クラブの窮地を救った「cfcuk fanzine」の設立者であるジョンストン。4度の降格を含めスタンフォード・ブリッジでたくさんの浮沈を経験してきた人物である。

 長年チームをサポートしてきた人間の一人として、ジョンストンは「スタンフォード・ブリッジではたびたび、4万人の観衆のほうがピッチ上の選手より良いと思っているような時がある」と話し、ブルーズで指揮を執ることは簡単ではないと語る。それでも、「けれどね」と続けた言葉にはファンとしての熱がこもる。

「フットボールとは困難に立ち向かうことだからね。ファンは彼らの意見を主張する権利はある。特に何があろうと長年クラブをサポートし続けたファンはね」

 サッリについて「特に奇妙な監督」と称し、最大の問題は「柔軟性のなさ」と指摘している。

「サッリは柔軟さがないよね。クラブスタッフのすべてが彼に同調しているとは思えない。彼は醜態を晒しているよ」

 大勢のファンが「サッリボール」を諦めているのは間違いない。それでも、ジョンストンはチェルシーを諦めたわけではない。

「クラブをサポートするなら、いいときも悪いときもサポートしなきゃ! 頑張れブルーズ! 俺はいつでもブルーズが好きさ」

 確かにサッリ政権の終わりは近づいているのかもしれない。シーズン当初に高まった人気は、すでに地に落ちた。しかし、健気なファンはサポートを続ける。そこに“嫌われ者”の姿が見えているかどうかは関係ないことだ。

取材・文=ニザール・キンセラ/Nizaar Kinsella

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