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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:あの日の決意表明(アルビレックス新潟・新井直人)

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ジェフユナイテッド千葉対アルビレックス新潟の後半アディショナルタイム、J初ゴールを決めた新潟新井直人は背中の“32”の数字を両手の親指でアピール

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 涙に濡れた瞳のまま、きっぱりと言い切ったあの日の決意表明を覚えている。その言葉を叶えるため、どれぐらいの努力を重ねたのだろうか。その想いを手繰り寄せるため、どれぐらいの犠牲を払ったのだろうか。「4年後には絶対プロになります。だから、また試合を見に来てください」。32番という大きな背番号を与えられた青年はまさに4年後、その言葉を叶え、その想いを手繰り寄せて、“プロのピッチ”に立っていた。

 2014年12月23日。神奈川県立保土ヶ谷公園サッカー場。実践学園高の3年生にとって文字通りのラストゲームがやってくる。関東1都7県のリーグチャンピオンが集い、翌シーズンへの“置き土産”を巡って争われるプリンスリーグ関東参入決定戦。彼らは初戦の習志野高戦に延長終了間際の劇的なゴールで競り勝ち、ヴァンフォーレ甲府U-18との決戦へ駒を進める。11年ぶりのプリンス関東復帰へ王手を懸けたチームの中に、新井直人の名前はあった。

『心で勝負』をスローガンに掲げる実践学園にあって、指導スタッフ陣も歴代で屈指の“心”を有した代と認めていたのが、この年の3年生たち。ところが、総体予選は1次予選で成立学園高に屈し、選手権予選は決勝で國學院久我山高に惜敗。全国には手が届かなかっただけに、T1リーグ(東京都1部)王者として臨んだこの大会でのプリンス昇格は、残された唯一の誇るべき成果となる。加えて彼らを時に厳しく、時に温かく指導してきた元日本代表選手の野口幸司コーチが、この年いっぱいで退任することも決まっていた。後輩のため。野口さんのため。様々な思いが交錯しつつ、最後の1試合は幕を開ける。

 右サイドバック。ボランチ。1トップ下。数々のポジションをこなしてきた新井が、この一戦で託されたのは4バックの右センターバック。チームを支えてきたゲームキャプテンが負傷を抱えていたため、器用な彼が本職ではない位置に配される。ヒリヒリするような緊張感の中、新井は守備面で安定したパフォーマンスを披露しながら、得意のロングスローでチャンスを演出するが、後半開始早々に先制点を献上すると、追加点も奪われてしまう。終盤には新井の蹴ったFKとCKから決定機を掴んだものの、ゴールは遠く、ゲームはそのまま0‐2でタイムアップ。彼らの高校サッカーは横浜の地で終焉の時を迎えた。

 みんな泣いていた。選手はもちろん、スタッフ陣も泣いていた。この年の最上級生は1年時から結果が出ず、「本当に弱かった世代」と野口コーチも認めるほど。そんな彼らが練習からコツコツと力を蓄え、リーグ戦の東京で頂点へ立つまでに成長した。それでも、選手権予選にプリンス関東参入決定戦と、2つの“ファイナル”で敗退を突き付けられる。試合終了直後はこらえていたものの、スタンドの仲間の元へ挨拶に行くと、流れる涙をとどめることは誰にとっても難しかった。

「また選手権と同じファイナルで負けた悔しさからくる涙だったし、それでも3年間やり切ったし、みんなとまだやりたかった想いもあったし、色々な涙だったと思います」。新井は涙の意味をそう明かす。野口コーチは“3年生”をこう称えた。「彼らの取り組み方が他のコーチの心に訴える部分だと思うし、今思えば『よくここまで来たな』という感じです。良いチームでした。その分だけみんなの思い入れも強いよね」。スタッフまであれだけ泣いているシーンは、数々の記憶を呼び起こしてみても、なかなかあの日以外に思い出すことはできない。それほどまでに『良いチーム』だったのだろう。

 実は新井も1年時にサッカーを続けるかどうか、迷っていたタイミングがあったという。そういう時期を仲間と共に乗り越え、少しずつ自信を纏っていく内に、明確な将来の目標が逞しく芽生えていく。1つ上の先輩に福岡将太(現・徳島ヴォルティス)という身近なJリーガーの存在があったことも、彼の想いを強くしていったようだ。それでもこの時は全国大会の出場経験もなく、派手な選抜や代表歴もない、ごくごく普通の高校生。プロからのオファーは届かなかった。

 スタジアムの外に出ると、ようやく3年生たちに笑顔が戻っていく。そこかしこで記念撮影の輪ができ始め、最後の時を名残惜しく共有していく少し前に、何度かの取材で面識のできていた新井に話を聞いた。試合のこと。チームのこと。仲間のこと。まだ涙の跡の残る表情で、丁寧に、丁寧に言葉を紡いでいく。“引退式”の時間が近付いてきたため、取材のお礼を伝え、ICレコーダーを止めると、思い出したかのように彼は、こう口にした。「僕たちを何度も取材してくださってありがとうございました。4年後には絶対プロになります。だから、また試合を見に来てください」。

 その瞬間。どういう言葉を返したかは正直覚えていない。ただ、彼のまっすぐな濡れた瞳だけは、はっきりと記憶に残っている。18歳の冬。新井直人の堂々たる決意表明は、ずっと心の片隅の一角を占め続けてきた。

 暮れも押し迫った昨年末。Jリーグのさまざまなクラブから新加入選手のリストが発表されていく中に、大学卒業を控えた新井の名前を見つけることは、まだなかった。新潟経営大学でキャプテンを任されていたことは知っていたが、なかなかタイミングが合わず、彼のプレーを最後に見た“あの日”からは4年近い月日が経っていた。

 あるJクラブからは内定をもらっていたものの、まだチャレンジしたい気持ちが消えていなかったという。目指すのは土地柄もあって、何度もトレーニングマッチで対戦し、実際に練習にも参加していたオレンジのチーム。興味がある旨は聞かされていたものの、なかなか正式なオファーは届かない。母校の実践学園で自主トレも兼ねて後輩たちと汗を流す日々。高校時代から彼を知る学校関係者は「携帯を見ながら『まだ連絡をもらえていないんですよ』と言ってましたね」と、その頃を振り返る。

 年が明けると、新井の携帯が鳴る。1月16日からスタートするアルビレックス新潟の高知キャンプ。ここに初日から練習参加して欲しい旨の連絡が入った。実質の“ラストチャンス”。否が応でも気合が漲る。だが、強化部長を務める神田勝夫は「初日から来てもらってましたからね。あとは手続きとかそういう部分の話で」と打ち明ける。

 そして、そのリリースは発信される。『新井直人選手(新潟経営大学) 新加入内定のお知らせ』。2019年2月9日。新井直人は正式にアルビレックス新潟の一員として、プロ選手としての第一歩を踏み出すこととなった。

 それからわずか15日後。33人の登録選手で最も遅く契約の決まったルーキーは、京都サンガと対峙する開幕戦のスタメンリストに名を連ねていた。背番号は32。ポジションはセンターバック。アウェイ用の白いユニフォームを纏い、先頭に立つキャプテンの加藤大から数えて7人目に、西京極のまっさらなピッチへ歩みを進めていく。

 開始1分も経たないファーストプレーで、自陣エリア内でのトラップを事も無げにこなしてみせると、直後には相手フォワードをオフサイドに陥れる。画面上からもルーキーらしい緊張感は微塵も伝わってこないどころか、時折見せる正確なキックが、そのプレースタイルを浮き立たせていく。圧巻は後半6分。走るレオナルドへグラウンダーで通した40mフィード。シュートには繋がらなかったものの、そのセンスと確かな技術に舌を巻く。前述の学校関係者に送った「あのパス出しちゃいました(笑)」のメッセージには、若者らしさが垣間見える。

 結局90分間のフル出場。スコアレスドローで勝ち点1を分け合ったが、センターバックとして無失点は上々の結果と言っていい。「やれるという感覚はそんなに持っていなかったです。でも、日頃の準備はしっかりしてきたつもりだったので、それが今は落ち着いてプレーに出せているかなと思います」。あるいは自身の想像を上回るスピードで、彼の存在は周囲の知る所となっていく。

 3月3日。フクダ電子アリーナ。片渕浩一郎監督は開幕戦に続き、新井の名前をメンバー表の上から3番目に書き込む。アップの様子をピッチサイドで眺めていると、心なしか4年前より体の厚みも増したような気がする。加入が発表されて3週間余り。まだ個人チャントはないため、名前のコールだったが、それに気付いてしっかりサポーターへ応えるあたりに、“2試合目”の余裕も感じられる。やはりピッチサイドで、選手たちを見守っていた神田は32番をこう評す。「最大の武器は危機察知能力です。危ない所をしっかり消せると。身長は大きくないけど、例えばガンバの今野(泰幸)や今は監督になった宮本(恒靖)みたいになるかもしれないですね」。

 2人組で行うアップの相手はブラジル国籍のレオナルド。楽しげにじゃれる姿が微笑ましい。同じくブラジル国籍のカウエとも、コミュニケーションを取っていく。アルビを追い掛けている旧知の記者が、そのあたりの事情を説明してくれる。「新井はキャンプの時からブラジル人選手にも積極的に話し掛けてたんですよ。開幕戦のレオナルドへのフィードもそういう部分の賜物ですからね」。高校生の頃から大人ともしっかり話せた“コミュ力”は健在のようだ。

 14時3分。降りしきる冷たい雨の中、ジェフユナイテッド千葉との“2試合目”がキックオフされる。ポジションは最後に彼を見た4年前とまったく同じ、4バックの右センターバック。開始1分。クレーベのシュートを新井がブロックする。173センチの彼にとって、長身ストライカーとの身長差は15センチ。「絶対高さで自分の所に入れてくるのも予想していた」とは本人。狙われる部分に対して、自分の武器でどう補うか。真価が問われることは間違いない。

 19分には左からのクロスを、確実にヘディングでクリア。センターバックとして横に並ぶ大武峻とラインを気にしながら、少しずつクレーベを駆け引きの範疇に組み入れていく。田中達也のゴラッソで先制すると、33分に新井は右サイドへ絶妙のフィード。抜け出した戸嶋祥郎のクロスをレオナルドはふかしてしまったが、決定機を1つ前のプレーで演出。45+1分にも加藤大のCKに頭で合わせ、ボールは枠の左へ逸れたものの、新井に“プロ初シュート”が記録される。

 後半も集中力は続く。8分にクレーベの真正面からボールを絡み取れば、10分にも右からのクロスを弾き返し、クレーベのオフェンスファウルを誘う。「彼の最大の武器はクレバーな所」と指揮官。その言葉を伝え聞くと、少し笑いながら「チームに足りない所を補えるクレバーさが頭の中にあって、チームが前ばかり行くのなら、自分は後ろで構えたり、逆にボランチに入った時は自分が一番動けるので、チームに足りない所を補ったり、カバーする所を考えることを常に意識しています」と語った表情が頼もしい。

 お互いに1点ずつを取り合い、新潟の1点リードで迎えた38分。片渕監督は決断する。「高さのある2トップに高さを当てなくてはいけないなと」、センターバックに188センチの柳育崇を投入。「もともとセンターバックではなくて、ボランチやサイドの選手なので、何の問題もなく」新井をカウエとのドイスボランチにスライドすると、これが攻撃面で奏功することになる。

 43分。相手のクリアを「ヘディングもしっかりパスで繋ぐことを意識している」新井はヘディングで前方へ。渡邉新太がわずかに触り、抜け出した矢野貴章がGKとの1対1を冷静に沈め、大きな追加点が新潟に入る。「新太くんを狙ったんですけど、その後ろに貴章さんがいたので、結果的に点に繋がったというのは良かったかなと思います」。チームの3点目に関わると、この舞台で顔を覗かせたのは「元々は攻撃をメインでやっていた」本能だった。

 終了間際の45+5分。戸嶋の繋いだボールを、渡邉が丁寧にラストパス。フォワードのようなプルアウェイの動きでラインを破った新井は、「世界でも“ニア上”はゴールが入っているので、角度はなかったですけど、振り抜くというイメージ」で右足一閃。ボールはクロスバーの下を叩きつつ、想像通りに“ニア上”へ豪快に突き刺さる。

 自らの背中に刻まれる“32”の数字を両手の親指でアピールすると、すぐさまチームメイトの手荒い祝福の輪へ飲み込まれた。「(パフォーマンスは)本当にとっさに出ましたね。まだ加入して1か月も経っていなくて、“32番”をまだまだ知られていないというのもあったので、『何とか知って欲しいな』という想いが、たぶんちょっと出ちゃったかなって感じです」。記念すべきプロ初ゴールは、観戦に訪れた母親の目の前で。「本当に素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれたと思っています」と片渕監督も納得の90分間を過ごし、新井の“2試合目”は勝ち点3と共にタイムアップの瞬間を迎えた。

 ミックスゾーンに新井が姿を現す。久々に会った笑顔は、昔と変わっていなかった。丁寧な話しぶりも以前のまま。想定と違っていたのは、あまりのセンセーショナルな活躍ぶりに大勢の記者に囲まれていたことだ。4年分の話ができるような状況ではなく、その目論見はすぐさま諦めた。とはいえ、結果を残して数多くのメディアに取り上げられるのは、言うまでもなくプロとして大事なこと。新潟のフロントスタッフが「まだ他のチームにバレて欲しくないなあ」とボヤき気味に呟いた口調にも、どことなく嬉しさが入り混じっている。

 ヒーローの時間は限られている。最後にこれだけ聞いてみる。「プロ選手としての一歩を歩み出した感覚はある?」。少し間があり、「そうですね…」というフレーズに、こう言葉は続いた。「開幕戦に出ることができて、2戦目もフル出場できたので、そこはしっかり自覚と責任を持ってやらなければいけないですし、よりもっともっとサポーターからも見られて、なおかつ相手からも研究されて、そういった“見られる目”が多くなるので、より自分の中で練習の質を上げることと、より覚悟を持って取り組んでいきたいです」。

 涙に濡れた瞳のまま、きっぱりと言い切ったあの日の決意表明を覚えている。その言葉を叶えるため、どれぐらいの努力を重ねたのだろうか。その想いを手繰り寄せるため、どれぐらいの犠牲を払ったのだろうか。「4年後には絶対プロになります。だから、また試合を見に来てください」。新井直人。22歳。次はオレンジに染め抜かれたユニフォームと、オレンジに彩られたビッグスワンが、4年前の約束を力強く果たしたピカピカのルーキーの登場を、今や遅しと待ち焦がれている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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