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ドイツ挑戦にむけて16日に出発。デフサッカー日本代表FW林滉大が明かした覚悟

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 生まれつき聞き取りづらい感音性難聴がありながら、ドイツ挑戦を表明したデフサッカー日本代表のFW林滉大が15日に行われる亜細亜大学の卒業式に出席し、翌16日にドイツに向かう。林は出発を前に、ゲキサカのインタビューに応じた。

「障がいのある、ないに関係なく1人のサッカー選手として、個人のレベルをアップしたい一心でドイツに行くわけなので、楽しみが大きいです」

 林はすでにドイツに住む日本人の代理人と契約。渡独後は健常者のドイツ7部のクラブの練習に参加予定。代理人に林の今の実力を判断してもらった後、実力に見合うクラブ複数クラブの入団テストを受ける。クラブが決まれば一時帰国し、ビザ申請や住居地の決定など手続きを済ませたら、シーズンが始まる前に再びドイツに渡る流れになる。

 林は卒業間際のほっとできる時間を、ドイツ挑戦の準備にすべて費やした。身長は168cmと大柄ではないが、健常者のドイツ選手に交じって、本場でも通用するストライカーに成長するため、朝から知人のクラブで練習し、午後はジムで筋力トレーニング、夕方からドイツ語を勉強する生活を続けてきた。試合勘を落とさないため、クラブでは試合に出ることもある。休みは週1回だけだ。

「まずは1年勝負で考えています。もし決まらなくてもドイツに残って、練習生としてチームの練習に参加させてもらえるクラブを探そうと思っています。今は日本よりヨーロッパでプレーしたい。自分の力を試してみたい気持ちが強いんです」

 クラブを探すために協力を仰ぐ代理人を選ぶプロセスで、耳が聞こえないことに対して厳しい反応もあった。

「『耳が聞こえない中でどうやってサッカーをするんですか?』という質問もありましたが、コミュニケーションの問題は、日本人相手でも苦労はありました。これまでも(健常者の競技スポーツの)大学で4年間プレーしていますし、ドイツに行っても現地人以外の外国人と同じ立場になるので、不思議と不安はありません」

 周囲の心配をよそに林は最近、ひそかな自信が手応えに変わる経験をした。

「つい先日、タイやインドネシアに行ったときも、現地の言葉はできないのですが、身振り手振りで伝えたら相手は理解してくれた。個人の見解ですが、日本人は身振り手振りを使う習慣が少ないので、(言葉がわからない場合は)海外旅行などで現地人の対話に苦労するかもしれません。もちろん、今ドイツ語の勉強をしながら、『単語を一つでも多く覚えないといけないな』と痛感しています。言葉をマスターするまでは口でしゃべるより、身振り手振りが多くなると思いますが、僕は普段から身振りや手振りで伝える手段を持っているので、その辺りの不安はないんです」

卒業式直前の5日、林は五島賞を受賞。故・五島昇会長の遺志に沿い、スポーツ、学術、文化、社会などの諸活動において、亜細亜大学の名声を高めた人に与えられる

 11月には2021年デフリンピックへの出場権をかけたアジア予選が開かれる。林はドイツのクラブが決まれば、日本代表の国内合宿に参加することは難しいが、自分のプレー映像などをデフサッカー日本代表・植松隼人監督に送りながらアピールしていくつもりだ。

「今回の予選は、デフフットサルのワールドカップと日程が重なり、フットサルの日本代表として出る主力メンバーが6人ほど抜ける可能性もあるので、危機感はかなりあります。それでも、デフリンピックへの出場権は確保したい。国内合宿に参加できなかったとしても、僕がドイツで活躍することで、代表メンバーに刺激を与えられたらなと思っています」

 世界中の名選手が集うヨーロッパで研鑽を積む。健常者でも、選ばれし者しか身を置くはできない。ただ、実力だけがモノを言う世界の中では、障がいの有無は関係ないと証明したい。林は、新しい歴史の扉を開く旅に出る。

(取材・文 林健太郎)

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