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デフサッカー日本代表の植松監督が手話通訳費用補助制度を利用して指導者ライセンスを取得

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PCを用いて説明する植松隼人監督

聴覚障がいがあるデフサッカー日本代表の植松隼人監督が昨年度からはじまった「手話通訳補助制度」の助けを受けて、日本サッカー協会B級ライセンスを獲得した。

日本障がい者サッカー連盟(JIFF)は日本サッカー協会(JFA)と連携し、2018年度からJFAまたは47都道府県サッカー協会が主催するサッカー・フットサルの指導者講習会および審判講習会に対し、聴覚障がい者が参加しやすいよう、講習会主催者に対して手話通訳費用を補助する制度を設けて運用。このたび、制度策定初年度分の集計結果を公表し、計6つの講習会が実現した。補聴器を外すと全く聞こえなくなる植松監督は、この中の講習会を受けてライセンスを取得した。

「今回は手話通訳とUDトーク(講師が話した言葉を自動的に文字変換する情報保障システム)の導入で鮮明に情報が入ってくるようになり、落ち着いて受講することができました。それまでは、手話通訳もなかったので、僕の場合はまず先生の近くにいくしかなかった。先生がいい人で、繰り返し聞くことでわからないことを解決できました。今回の補助金制度が、聴覚障がいのある人達が指導者資格や審判員資格の受講をしようという働きかけのきっかけとなり、とても大きな一歩だと感じています」

 これまで、聴覚障がい者が講習会等に参加するには、主催者は予算的な問題で手話通訳者を手配することが難しく、聴覚障がい者は自ら手話通訳者を手配するか、手話通訳者なしで参加するか、やむを得ず参加を断念する状況が続いていた。植松監督がJIFFの理事を務めていた時、「通訳がいない状態では指導者講習会にいけません。なぜ主催者側から手話を出せないのでしょうか。主催側から用意できるような環境づくりが必要ですよね」と提言したことをきっかけに、手話通訳費用補助制度が立ち上がった。

 ただ、必要経費は決して安くない。たとえば東京都で最高基準に相当する「東京都手話通訳派遣センター」に依頼した場合、6時間で約24000円前後かかる。1日がかりの講習会の場合、手話通訳者が約15分ごとに交代しながらやらないと続かないため、最低2人は必要だという。1度の講習会で手話通訳者の派遣費用に5万円かかる計算だ。JIFFは一定の年間予算は確保しているが、それだけでは足りないため、障がい者のスポーツ参加を応援する人たちからの寄付で一部資金がまかなわれ、運用されている。インターネット上(Yahoo!ネット募金)で寄付を募り、2018年度は686人から計25万5,672円の寄付があったが、より多くのお金が集まって、手話通訳者がいる講習会が増えれば、聴覚障がい者にとって講習会出席へのハードルが下がる。その上で植松監督は新たな提案もした。

「近い将来、スポーツ系手話通訳者も必要になると思う。通常の手話通訳者は病院から派遣されている方が多いんです。スポーツだと専門用語も多いので、スポーツに理解のない方が手話通訳をつとめた場合、内容をかみ砕くことができない場合があり、受講者が理解できないこともある。あとは、地域の手話サークルなどにもお手伝いいただける環境を作れるといいと思います。派遣される手話通訳士はプロが多いのですが、サークルで活動する人の中にもプロの資格を目指す人もいながら、活動する機会がないんです。サークルの人たちと関係性を作ってお願いできるようになれば、その人たちのスキルアップにもつながってお互いにとってメリットになると思います」

 JIFFとJFAは障がい者の指導者および審判講習の受講環境を整えるため、現場の声に耳を傾けながら、連係しながらよりよい方法を模索していく。
 
 
■JIFF手話通訳費用補助制度 2018年度実績
主催団体
①日本サッカー協会 JFA公認B級コーチ養成講習会前期:全6日間(1)
②北海道サッカー協会 JFA公認C級コーチ養成講習会:全7日間(1)
③日本サッカー協会 JFA公認B級コーチ養成講習会後期:全6日間(1)
④愛知県サッカー協会 AIFAコーチングセミナー2018:1日(1)
⑤東京都サッカー協会 JFA公認C級コーチ養成講習会:全7日間(1)
⑥東京都サッカー協会 JFAサッカー4級審判講習会(4)
※AIFA=愛知県サッカー協会。()内の数字は聴覚障害受講者数

(取材・文 林健太郎)

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