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ポゼッション哲学への逆風と成績不振でベティス退団…セティエン「勝利の過剰評価はいけない。敗者ばかりになる」

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スペイン人指揮官キケ・セティエン氏が胸中明かす

 スペイン人指揮官キケ・セティエン氏が、ベティス監督の座を辞した現在の心境を語っている。

 セティエン氏は2017年夏にベティスの指揮官に就任。昨季にはリーガを7位で終えて、ヨーロッパリーグ出場権を獲得した。しかしながら、ヨハン・クライフ氏への憧れから緻密なポゼッションフットボールに執着するセティエン氏の哲学は、当初から情熱的なベティスサポーターの心をつかんでいるわけではなかった。

 そして今季のチームはヨーロッパリーグでベスト32、コパ・デル・レイでは準決勝で敗退し、リーグ戦の最終成績が10位と来季のヨーロッパリーグ出場権も獲得できず。セティエン氏のフットボールを退屈なものとみなし続けたサポーターは結果が伴わなかったことを受けて、「キケ出て行け!」というチャントを叫ぶ有様となり、結局セティエン氏はクラブを後にすることになった。

 ベティス退団後、スペイン『マルカ』とのインタビューに応じたセティエン氏は、同クラブのスポーツ面のプロジェクトを途中で放棄せざるを得なくなった理由について、次にように説明している。

「スタジアムでは多数のファンが、私が指揮し続けることがないよう執拗に求めていた。そんな状況で来季も続けることは困難なことだった」

「あれだけ刺々しい雰囲気で新たなシーズンを始めることは難しい。もう状況は難しいものとなっていたし、それはベティスの会長と副会長にとっても同じことだった。彼らは私なんかよりも、さらに大きな責任を背負っている。彼らは自分たちのプロジェクトに期待を抱いていたが、しかし状況はもう手に負えるものではなくなっていたんだよ。今回のクラブの決断は理解できるもので、完全に道理にかなったものだ」

『マルカ』電子版が実施したアンケートにおいては、セティエン氏の監督退任に疑問を呈する票数が得票率の75%を超えていた。しかし同氏は、それがセビージャの町を包む雰囲気とは比例していないとの見解を示した。

「思うに、セビージャとその外で受ける印象は異なっている。セビージャは特別な町で、私も理解をするのに苦労した。多くのことに我慢しなければならなかったんだ」

「あの『勝たなければならない、勝たなければならない』という言葉は……。8~10歳の子供まで、私の車の窓までやって来て、『今日は勝たなきゃいけないよ。ねえ、勝たないといけないんだ』なんて言ってくるんだよ。そりゃ、もちろん勝ちたいし、勝利を望まない理由なんてどこにあると言うんだ? 私は選手、監督として1000試合以上を戦ってきたが、野心や勝利への意欲を持ち合わせていないわけではない。だがしかし、勝利は素晴らしいことを行う結果として手にできるものなんだよ。それに何より、私は勝利だけが価値を有しているとは考えてこなかった。普通は、継続性を有することができるように仕事を行うものだろう」

「継続的に何かができるとしたら、それは一朝一夕でつくり上げるものではない。ある日、枠の隅に美しいゴールを決めることができたとしても、それは勝利に値したわけではないんだ。私は自チームが多くの試合でゲームを支配することを、ボールを保持することを好む。そうできればライバルに勝てる可能性がもっと高まるわけだからね。ときにフットボールは不当なものであるとしても、しっかりと物事に取り組んでいけるならば、失敗より成功の方が多くなるんだ」

 セティエン氏は、ベティスファンの要求が厳し過ぎるものだったとの考えも述べている。

「今季はヨーロッパリーグのグループリーグ、またコパ・デル・レイの足取りによって、本当に情熱的なファンも含めて大きな期待が生まれ、もっと遠くまで行けると考えられた。そして、あれだけ情熱的な人たちに対して、事情を説明するのは難しく、厳しいことだ……。ミランに勝利したならヘタフェ相手に3失点してはいけないと言われるが、しかしヘタフェは今季を通して素晴らしかったチームで、見事な仕事を成し遂げていた。ライバルの価値が認められていないんだよ」

「マドリーやバルセロナのようなビッグチームに勝ったならば、ストリートでも公式戦でもすベての試合に勝たなければいけなくなる。しかしマドリーやバルセロナであれば、良いパフォーマンスを見せずに勝つことができるんだ。たとえ絶対的に優勢ではなくても、最後にはメッシやら誰かがゴールを決めてくれるわけだからね。彼らは不運にも私たちが持っていない選手たちを擁している。良いパフォーマンスを見せることなく勝つというのは、私たちは一切経験していない」

 ベティスでの仕事は、契約期間でもあった3年のスパンでの完成を見込んでいたようだ。

「私たちは各試合で15〜18回のチャンスを生み出し、また非常に高いポゼッション率を記録する。が、そうした快適な試合で勝ち切ることができなかった。それは私や選手たちの問題でもなく……まだ何かが足りていなかったということだ。だからこそ、私は契約を結ぶときに3年という期間を話したんだよ。それだけの時間があれば、自分の望むことを理解する選手たちとともにチームを完成させていくことができるからね」

「ベティスの全選手を入れかえることなど不可能だ。そんな金はないのだから。自分好みの選手を引っ張ってくることはできないんだ。ベティスには非常に大きな制限があり、それは時間の経過とともに乗り越えていくはずだった。思うに、私たちはしっかり歩を進めていたし、クラブもその仕事ぶりを目にしていたが、残念なことにファンは違ったんだ」

「私のベティスは未完成の作品となった? まさにそうだ。後任となる人物が作品制作を続けてくれたらいいのだが。誠実に、そう言わせてもらうよ」

 セティエン氏は、何よりも勝利を求める現代社会の風潮に疑問を呈している。

「例えば、勝つことだけにしか興味がないような風潮がある。私たちは自分の子供や若者たちに、勝たなければ君に価値はない、ということを伝えてしまっているわけだよ。そしてそうであれば、私たちは途方もない数の敗者を生み出すことになる。勝利を過剰に評価してはならない。勝つのは一人だけで、それ以外は全員が負けてしまうのだから」

「努力をすることや、自分が持ち得る手段の使いようにも価値が与えられなくてはいけないんだ。(勝利以外にも)数多くの価値あるものがある。本当だよ。私たちは勝利だけが価値を持つような社会をつくり上げてしまっている。しかし、実際はそうではないし、そうなってはいけない。美しさ、というものだってあるんだよ」

「私はフットボールが大好きで、情熱を注いでいる。今でも、できるだけロンドに参加するようにしているし、そのために自分のコンディションを整えている。私はフットボールを味わい続けている。素晴らしいパフォーマンスを見せるチームを目にできたときといったら、ね……」

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