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キリンチャレンジ杯は19-20新ルールで実施!! 選手、メディアに説明会

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メディア向けに説明した日本サッカー協会(JFA)の小川佳実審判委員長

 日本代表が戦うキリンチャレンジカップ2試合では、2019-20シーズン向けの競技規則が初めて採用される。4日の練習前には選手・スタッフに改正部分の詳細が伝達され、導入初戦となる5日のトリニダード・トバゴ戦(豊田ス)に向けて理解を深めた様子。4日午後、日本サッカー協会(JFA)の小川佳実審判委員長はメディア向け説明会を開催した。

 国際サッカー評議会(IFAB)は毎年6月、サッカーのルール改正を実施。昨年はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の導入など抜本的な改革に注目が集まったが、今年は「競技に関係するものがけっこう多い」(小川委員長)という細かい改正が相次いだ。

 改正のメインコンセプトは「選手の振る舞いの向上と“リスペクト”の向上」「より長いプレーイングタイムの確保」「“公平・公正さ”と“魅力”の向上」の3点。すべての改正内容は上記3点いずれかの目的に即したものとなっているという。

 メディア向け説明会は、国内・海外の映像が紹介されつつ、改正された項目を順に追っていくという流れ。JFAは公式サイトで『28』改正項目を紹介しているが、コイントスのボール選択などにはあまり言及されず、ピッチ上でのプレーに関係する部分が多く取り上げられた。

■ドロップボール
 主審がインプレー中に試合の流れを止めた場合、選手の足元にボールを落としてリスタートするドロップボール。これまでは両チームの選手がボールの保有権を争い、先にボールに触れた選手が相手エンドにボールを蹴り返すことも求められていたが、今後は片側チームの選手1人だけがボールに近づける形となる。

 もしボールがペナルティエリア内にあった場合は、当該陣地のゴールキーパーだけがドロップボールに参加。ペナルティエリア外にあった場合は、最後のボールを触ったチームの選手1人がボールを得られる。なお、それ以外の選手はボールから4m以上離れる必要がある。

 小川委員長によれば、改正理由は「リスタートのボールを争うのは美しくないし、見たくない」といったマナー上の理由。この改正によってスムーズな試合再開を行うことができる。また、ボールが落ちた瞬間にインプレーとなるため、チャンスエリアではドロップボールをそのままシュートする場面も出てくるだろう。

 なお、インプレー中に主審にボールが当たり、①ゴールに入る②攻守が変わる③新たな攻撃が始まる——の3場面もドロップボールで再開。「レフェリーは石と同じ」という概念は消滅した。小川委員長は「サッカーは11人対11人ですが、当たったらその瞬間に12になる。それは公平ではないですよね」と説明していた。

 日本国内でも話題となったオランダ4部リーグの映像も紹介された。そこでは主審にボールが当たり、そのままボールがゴールに入っていたが、今後は守備側GKのドロップボールで再開されることになる。元主審の小川委員長は「これはレフェリーからするとつらいですよね」と述べ、ルール改正に前向きな見解を示した。

■FKの壁入り禁止
 そのままゴールを狙えるような直接FKでは攻撃側の選手が守備側チームの視界を遮るために壁に加わるの一般的だったが、今後はこれが禁止される。ポジション争いで小競り合いが起きやすく、見苦しいシーンが頻発していたためだ。今後のルールでは守備側が3人以上の壁を構成した際、攻撃側の選手は1m以上離れなければならない。

 「1m離れる」が判断されるのは攻撃側選手がボールを蹴った瞬間だという。もし違反をした場合、守備側チームの間接FKでプレーが再開されるため、みすみすチャンスを逃す形となる。小川委員長は選手に対して「蹴る瞬間というのは難しい。あまりリスクを取らないほうがいいと伝えた」と明かした。

■ゴールキック、PA内フリーキックの変化
 ゴールキックやペナルティエリア内のフリーキックは、キッカーが蹴った瞬間にインプレーに変わるルールとなった。これにより、ボール保持側の選手はペナルティエリア内でキックを受けることができるようになる。小川委員長は「いままでペナルティエリアは特別だったが、フィールド全てが同じ条件になった」と説明する。

 ルール改正の目的は「勝っているチームがあえてPA内でボールを受け、やり直しをさせて時間を稼ぐ行為を防ぐ」こと、さらに迅速なリスタートを促すことで「プレーイングタイムを長くする」ため。その一方でビルドアップ戦術にも変化が期待され、小川委員長は「代表選手もやってくれると思いますので、見てみてください」と述べた。

■ぬか喜びにさらなる追い討ち
 ゴール後にイエローカードを提示され、もしなんらかの形で得点が取り消されたとしても、イエローカードは取り消されないという規定が明文化された。ユニフォームを脱いだり、不適切なパフォーマンスを行った場合がこれにあたる。ゴールを取り消されるだけでもぬか喜びだが、さらに警告まで残るので注意が必要だ。

■ハンド基準の大幅変更
 小川委員長は「さて、これからです。ハンドですね」と切り出したが、まさに今回の改正最大の変更点はいわゆる『ハンド』の反則だ。これまでは「意図的にボールを手で扱ったかどうか」が中心的な基準になっていたが、今後は「意図的じゃない場合でもケースバイケース」(小川委員長)となる。

「手または腕をボールに向かって動かすなど、手または腕で意図的にボールに触れる」行為が反則になるのはこれまでどおり。加えて「手や腕に当たったボールを保持したり、コントロールした後に得点する、あるいは得点の機会を得る」場合、「ボールが手や腕に当たり、直接得点となる」場合もハンドになる。

 説明会ではアジアカップ準々決勝ベトナム戦で日本代表DF吉田麻也がヘディングシュートを放ち、頭から手に当たったボールがゴールに入った場面を紹介。当時は旧規則だったため、最終的にはレフェリーの主観に委ねられる形だったが、今後はハンドであることが明文化された。

 また「手や腕を体から離し体を不自然に大きくすることにより、不当に体の幅を大きくした」場合、「肩の高さより上に手や腕をもっていった」場合もハンドが認められる。なお「意図的にボールをプレーしたのち、ボールが競技者自らの手や腕に触れた場合」は例外(ハンドではない)となる。

 この「不自然」に関する説明では、アジア杯グループリーグ第2節オマーン戦でシュートブロックを試みたDF長友佑都の手にボールが当たった場面、アジア杯準決勝イラン戦でMF南野拓実のクロスがスライディングを試みた相手選手の支え手に当たった場面などが紹介された。

 また、バックパスを受けたゴールキーパーがキックミスをして、流れたボールをゴールキーパーがキャッチした場合には、ハンドにはあたらないという基準も明文化された。ただ小川委員長は選手たちに対し、「最終的にはレフェリーの判断なので、ハンドを取る人もいるかもしれない」という伝え方もしたという。

■PKの変更点
 PKに関する変更では「PKを蹴る競技者が負傷し、治療を受けた場合、その競技者は競技のフィールドに残り、PKを蹴ることができる」という規定ができた。これまではPK直前にフィールドを出た場合、PKを蹴り終わるまではピッチ外で待機することになっていたが、キッカーを務める場合は再入場が認められる。

 続いてはPKに立ち向かうゴールキーパーの変更点も伝えられた。これまでは相手キッカーが蹴る瞬間、GKの両足がゴールライン上になければならなかったが、今後は片足が残っていればよくなった。小川委員長は「片足を乗せてよければより素早く動けるので、魅力あるサッカーが見られる」と説明した。

■クイックリスタート
 攻撃側の選手がチャンスでファウルを受けた場合、素早く再開する場面のルールにも変更があった。これまでは主審がイエローカードを出そうとしても、提示前にリスタートが行われた場合、次のプレー停止時にイエローカードを提示することはできなかった。「一回プレーが切れたら戻れないのが大原則」(小川委員長)だったからだ。

 しかし、今後はワンプレーであれば遡ってイエローカードを提示できるようになった。小川委員長によれば「プレーを止めないことで、サッカーをより魅力的なものにする」ための措置だという。

 もっとも、決定的な得点機会を阻止し、レッドカードが提示されるはずだった場合は、リスタート後の処分はイエローカードになるという。素早いリスタートにより、決定的なチャンスは維持されるためだ。とはいえ小川委員長は「同じことをやっているのにおかしいですよね。理不尽だと思われるかもしれない」と一般的な心情にも理解を示した。

■監督、スタッフにもカード提示
 今回のルール改正では、監督やコーチらスタッフ陣にもイエローカード、レッドカードを提示できるようになった。これまでは「注意」「退席」といった口頭での処分だったのが、よりはっきりと分かるようになった形だ。これにより、スタッフ陣にも累積警告などの処分が行われるようという。

 このルール改正の目的には「審判員とスタッフで言葉が通じないこともあるかもしれないし、若い審判員が年長のコーチに対応するのが難しい」といったものがある模様。上下関係といえば日本に限った事例だと思われがちだが、世界的にもそのような説明がなされているようだ。

■終わりに
 日本代表森保一監督は初日の練習後「しっかりルールは覚えないといけないし、選手には伝えていきたい。サッカー自体として基本的なルールは変わらない。レフェリーに判定は任せながら、新しいルールを覚えていければと思う」と述べ、5日のトリニダード・トバゴ戦、9日のエルサルバドル戦で適応を進めていく意向を示した。

 すでに導入されているU-20W杯、今月中旬に開幕する女子W杯を始め、Jリーグでも8月からスタートする新ルール。育成年代でも夏の全国大会から採用が進んでいく見込みだが、後日JFAのホームページに改正部分をまとめた解説映像が公開される予定だ。(詳しい改正項目は以下の関連記事にも掲載)

(取材・文 竹内達也)

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