beacon

持ち味発揮の前橋商に「戦う」「一本」の部分でつけた差。前橋育英が伝統の“前橋クラシコ”を4-0で制す

このエントリーをはてなブックマークに追加

前半9分、FW山岸楓樹(8番)の先制ゴールを喜ぶ前橋育英高イレブン

[6.9 インターハイ群馬県予選準々決勝 前橋育英高 4-0 前橋商高 群馬県立敷島公園サッカー・ラグビー場]

 伝統の一戦は前橋育英が4-0で制す――。令和元年度全国高校総体(インターハイ)「感動は無限大 南部九州総体2019」サッカー競技(沖縄)群馬県予選準々決勝で前橋育英高前橋商高の伝統校対決が実現。前橋育英が4-0で快勝し、準決勝(15日、対高崎経済大附高)へ進出した。

 インターハイ出場15回、予選2連覇中の前橋育英と同17回出場の前橋商との伝統校対決。隣の正田醤油スタジアム群馬のJ3第11節、群馬対鳥取戦が開始前だったということもあり、会場内の観客のほかに、正田醤油スタジアム最上段や会場の網越しに試合を見つめるサッカーファンの姿が計50人ほどもいた。

 その伝統の一戦へ向けて、前橋商のCB椎名輝主将(3年)が「最近は結構、負けが続いていて、今年で変えてやろうという気持ちで臨みました」と語った一方、過去5年で3度選手権全国決勝まで勝ち上がっている前橋育英のMF渡邉綾平主将(3年)は「(山田耕介)監督に試合前のミーティングで『前商と前育は伝統のダービーがある』と言われたので、それを意識しつつ、一番は応援してくれる人があんなにいる中で、上手さという部分ではなくて、戦う部分を見せたいと思っていました」と振り返る。前橋商も力のあるところを示したが、戦う部分や1点、一本の重要性を身体で表現していた前橋育英が快勝した。

 序盤は前橋商が勢いを持って前橋育英にチャレンジ。だが、前橋育英は前半9分、MF熊倉弘達(2年)が獲得した右CKから素材感十分のMF櫻井辰徳(2年)が素晴らしい軌道のストレートボールを蹴り込む。これをFW山岸楓樹(3年)が頭で合わせて先制した。

 前橋育英はMF倉俣健(3年)の強烈な左足シュートなどで畳み掛ける。そして19分、CB相原大輝(3年)のロングフィードに左SB並木歩巳(3年)が反応してPAへ侵入。GKを引きつけて出したラストパスをFW中村草太(2年)が1タッチでゴールに沈めて2-0とした。

 前橋育英はこの日、渡邉と櫻井のダブルボランチや相原、CB大野篤生(2年)がサイドチェンジ、DFライン背後への配球を連発。練習を重ねてきた距離感を狭くしての1タッチのパス交換ではなく、この日はピッチを広く使ったサッカーでリズムを掴んだ。

 対する前橋商は最初のCKと一本のパスで背後を取られての“もったいない”2失点。それでも技巧派が多く、戦術の舵を切って今年を迎えている前橋商は、1ボランチのMF矢端廉(3年)やCB大森幹太(3年)、椎名を軸としたポゼッションで前橋育英に対抗する。そして、右MF大野魁晟(3年)がスピード、突破力を発揮。29分には右サイドを破った大野の右クロスにFW梅木智央(3年)が決定的な形で飛び込む。その後も右の大野と左のSB帖佐知樹(3年)があわやのクロスを上げて会場を沸かせた。

 前橋商は後半も存在感を示す矢端や大野、“切り札”のFW山越稜太(3年)を中心に反撃したが、前橋育英は山田監督が「右も左もできる。良い選手ですよ」と期待する右SB山田涼太(3年)らDF陣がゴール前で相手に先にボールを触らせず、決定機になりかけたシーンでもシュートをブロック。また、各選手がボールサイドで最後の一歩まで足を出して相手のパスを乱そうとする。その姿勢が、貴重なゴールに結びついた。

 後半12分、PA方向へ流れたボールを諦めずに追った中村が、相手DFとGKの連係ミスを突いてインターセプト。そのまま右足で決めて3-0とする。この1点が勝負の行方を決定づけた。前橋育英は試合終了間際にも「タメてスルーパスを出せる」(山田監督)という山岸のラストパスから交代出場FW久林隆祐(3年)が豪快な右足シュートを決めて4点目。この後にも前橋育英の強さを印象づけるプレーがあった。

 後半44分、何とか1点を返そうとする前橋商がFKをPAへ蹴り込む。こぼれたボールを前橋商の選手がシュートしたが、その前の混戦で前橋商がファウル。このシュートがゴールを破ってもノーゴールだったが、前橋育英のCB相原が身体を投げ出してゴールラインすれすれでボールをかき出した。

 そして、相原と渡邉がハイタッチ。4点差がついても、集中力を切らすことなく戦った王者の見事なプレーだった。相原が「中学の頃からファウルがあってもゴールネットは絶対に揺らすなと言われていたので、それができたと思います」と胸を張れば、渡邉も「あのシーンは(相原)大輝も気持ちが入っているなと伝わりましたし、それ以外に他の選手もああいう力強いプレーがあったのでそういうところは本当に凄いなと感じました」と頷く。スコアほどの力の差はなかった印象の“前橋クラシコ”だったが、前橋育英が細部で差を示して快勝を収めた

 前橋育英の名将・山田監督はライバル対決で快勝を収めた選手たちを「これから良くなっていくと思う。もっと質を高く」と期待。渡邉は「自分たちはずっと弱い代と言われてきたので、必ず日本一を獲るという気持ちは持っています。監督には結構厳しい言葉を受けているので、反骨心じゃないですけれどもそういう気持ちはみんなある。もっとチームとしても、個人としても伸びていければなと思っています」と力を込めた。まずは一週間、課題を突き詰めて、準決勝、決勝に臨む。
 
(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2019

TOP