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見据える先は『100年後』。柴崎岳が語った原点と、日本が目指すべき未来:独占インタビュー

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日本代表MF柴崎岳(ヘタフェ)に独占インタビューを行った

 日本代表MF柴崎岳(ヘタフェ)は今夏、キリンチャレンジカップとコパ・アメリカという中心年代の異なる二つのA代表チームでまとめ役を担う。育成年代から将来を嘱望され続け、昨年のロシアW杯では全4試合でピッチに立った27歳。そのキャラクターはどのように形成されたのか。忙しい日々の合間、移動中の車内インタビューを敢行した。(取材日:2019年5月21日)

―ひたむきに物事に取り組み、感情の上がり下がりがない印象がありますが、そうした落ち着いた性格の原点はどこにあると考えていますか?
「原点……。そうですね、落ち着いているのかは分からないですが、ただただ客観的に自分が成長するためにやらなきゃいけないこと、やりたくなくてもやっておかないといけないことを、中学生、高校生当時のことを自分なりに考えて、黙々とやっていたのはあると思います。あまりサッカー以外に興味あることがなかったので、それしかなかったというのもありますし、プロのサッカー選手になるという目標があった上で、ただただ毎日そのためだけに過ごしていた記憶がありますね」

―ご両親からそう育てられたというわけではない?
「そうですね。中学校の時から寮に入っていて、親元はその時から離れているので。もちろん親にとっては相当な決断力がいることだったと思います。その時からやりたいことがあって、そういった意味では頑固な部分を親に見せていた部分もあったので、逆に親元を離れて生活したぶん、自分をマネジメントする能力が身についたのもあります。とりあえず自分でなんでもやらないといけない状況でもあったので、そうした環境も人格形成には大きかったと思います」

―地方に生まれた子どもたちが都市部に行く流れもありますが、地元で生まれて地元で過ごし続け、プロ入りに向かってモチベーションを持ち続けられた秘訣はありますか?これからプロを目指す子どもたちのために教えてください。
「プロになりたいという一心はもちろん持ち続けていましたが、青森山田自体が全国区で名前が通っている学校ですし、何人か高校からプロ選手を輩出していたので、プロになるには申し分ない環境でした。苦しいことも楽しいこともいろいろあるけど、高校サッカーではいろんなところで理不尽なこと、たとえば自分が試合に出られないとか、うまく物事が進んでいかないことはたくさんあるので、そういったときに自分の本質となる考え方が出てくると思います。そこでグッと何かをこらえて成長していけるのか、はたまた腐っていくかは分岐点になります。そういった状況に立っている人、またこれから立つ人には、そういった判断を間違えないでほしいというのはありますかね。まあ、簡単なことではないです。高校生はまだまだ人間として成熟していない部分がたくさんありますし、大人になってもそういうことができない人がたくさんいる中で、高校生にとってそれは簡単なことではないと思うんですけど、そこでそうした考え方ができるようになれば、今後の人生も大きく変わっていくんじゃないかと思いますね」

―現在の柴崎選手は中学時代、高校時代の自分から見てどのように評価されると思いますか。「よくここまで来たな」なのか、それとも「もっとやれるな」なのか。
「評価はできないですね。あまり『よくやれたな』『よくここまで来たな』とも思わないですし、やっぱり僕なりにその時々にベストを尽くしてやってきた自負はあるので、『あの時にこうしておけばよかった』ということもありません。そうしたリミッターを自分に設ける必要もないし、そうすることもないと思います。ただただ自分のやりたいこと、日々の生活の中でなりたいものになるために続けている行動、考え方をどんどんアップデートしていくこと、それには失敗も成功もないので、そこに評価基準を設ける必要もない。これからもそうした考え方であり続けると思いますね」

―枠にはまった目標に向かって進んでいくというより、一日一日をアップデートさせていくことが大事という考え方ですか?
「それはどっちも大事だと思いますね。設定する目標も大事。そこに至るまでの過程も大事です。また僕らはやっぱり結果の世界で生きていると思うので、結果が出なきゃ何をやっても評価できるものではないと思います。無駄とは言いませんけどね。だから中学生、高校生のみんなにも大きい目標を持って、そこに至るまでのプロセスも大事にしてほしいなと思います。ただ、それができなかったからといって全てが終わるわけじゃないので、失敗したとしても過去の意味付けですね。失敗したとその日思っても、10年後にはその失敗が成功だったと位置づけられる可能性もあります。過去はこれからの行動で意味づけを変えていけると思います」

―そうした先を見据える視座を持つ柴崎選手ですが、アジアカップでは個人だけでなくチーム全体に関する言及が多くなった印象を受けました。心境の変化があったのですか。
「上の年代の選手が大きく抜けて、僕がそれなりに経験のある部類になってきた中で、そうならざるを得なかったというか、そうなるべきかなと自分が感じたのが理由ですね。またチームを客観的に見ながら足りないことを補っていくのか、指摘していくのか、付け足すのか、彼らがいなくなって初めてそういった部分に目を向けたこともあります。ボランチというポジションもチームのマネジメントだったり、全体を見ながら…というのに通ずる部分があります。なので必然と言えば必然の思考かもしれません。これからの日本代表においてキャプテンという立ち位置うんぬんはさておいて、自分が日本代表にいるうちはそういった立ち位置でいろんなものを見ていったり、貢献していくべきだと感じています」

―突然チームに関する物事を発信していくのは難しいことだと思いますが、これまでもそのように考えていたのでしょうか?
「自分が若い時に『自分だったらこう思う』と特段思っていたわけじゃないので、ある程度のキャップ数と日本代表にいる時間、経験が自分にそういう思考や発言をもたらしていると思います。そこからヒントを得て、言葉を選んでいるに過ぎません」

―そんな柴崎選手がこれからの日本代表において、W杯でベスト8、ベスト4を目指すためにもっと必要になると考えるものはなんですか?まずは個人とチーム、そして短期的、長期的なものがあると思いますが。
「長期的というのがどこまで長期的というのかはわかりませんが、僕は別に次の4年後だけではないと思うんですね。たとえば50年のスパンで見たときに何回ベスト16まで進出できたのか。その力がついてこそベスト8に入れる可能性も高くなってくると思います。たとえ次の大会でベスト8に入ったとしても、それはもしかしたらギャンブルにイチかバチで勝っただけであって、そういったことって人生で起こりうるものです。100年間ベスト16に入り続けることのほうが難しかったりしますし、W杯に出続けることが大事だと思います。もちろんベスト8という日本代表が今まで成し遂げたことのない偉業を成し遂げたいという思いはあります。ただその一方でベスト16が当たり前になるという感覚がないと、ベスト16は失敗という感覚には行けません。僕はそっちのほうが大事だと思いますね。短期的に見れば『偉業達成!』とか『日本初!』という言葉に日本は弱いので。もちろん、新しいことに目を向けることは人生をより豊かにするものだとは思いますけどね。ただ自分がサッカー選手として1大会なのか、2大会なのか、3大会出るのかは分かりませんが、やっぱりその中でベスト16に入る長期的な力を付けるための一員になるという意味で、自分の立ち位置も含めて次の世代に伝えていきたいです。次の世代でW杯に出られないとか、ベスト16に行く能力がないということがないように、伝えて継承したいです。上の年代の選手が僕らに伝えてくれたように、言葉ではそれほどでもないかもしれませんが、行動とかプレーで見せてくれたことをちゃんと伝えていけるように、『よくやったね』と言われるレベルのベスト16に当たり前に入っていけるように、そうしてこそ日本がベスト8に入る可能性をより大きくしていくべきかなと思います。そこで個人の部分でも助けとなっていきたいなという気持ちがありますね。もちろん、選手としてこういった能力を身に付けたいというのも大事です。それでも、大きな立ち位置とか心構えとしては、そういった目標やイメージを持ちながら、そこに自分がどういうふうに貢献していけるのか、どういうふうに歴史と関わっていけるのかに目を向けていきたいと思っています」

(インタビュー・文 竹内達也)
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