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ブラサカの日本選手権は明日決勝。「勝とう、とはあえて言わない」free bird mejirodaiのエース鳥居の悲願

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スピード抜群のドリブルで突き進む鳥居(中央、写真提供:松本力)

 ブラインドサッカーのクラブ日本一決定戦「アクサブレイブカップ」のFINALラウンドが7日、東京・調布市のアミノバイタルフィールドで行われる。2016年に創部後、初の決勝に挑むfree bird mejirodai が2年ぶりの決勝進出を決めた埼玉T.Wingsと初優勝をかけて戦う。free bird mejirodaiの山本夏幹監督と共に創部に関わった鳥居健人はこの大会でチームトップの12得点をあげて若いチームを引っ張ってきた。

「決勝もいつも通りの気持ちで試合に入って行けそうです。僕は以前、(日本代表として)世界選手権やアジア選手権の舞台にも立たせてもらっているので、変な緊張感は全然ない。勝てば優勝ですけど、それを今から高校生の園部(優月)や吉備津蒼太、21歳の丹羽(海斗)とか若い選手に言ってしまうと舞い上がってしまう。僕がちょうどその頃、別のクラブにいたときに『優勝だ、優勝だ』と周りの方から言われて舞い上がってしまった経験があるんです。だから年上の人間が『勝とう』って言わないほうがいいのかな、と。いつも通りに試合に入って、その試合に勝つ、という感じが理想です」

 1歳で悪性腫瘍が見つかり、両眼を摘出した鳥居は小学校5年生の時からブラインドサッカーをはじめた。2007年まではブラサカの日本代表としてアジア選手権に出場し、その後、パラリンピックの種目でもある*ゴールボールでも2014年のアジア選手権でメダルを獲得。海外で百戦錬磨の経験を積んできている分、チーム練習では気持ちの余裕を持って若い選手の動きも見られる。そのことが、丹羽、園部らの成長を促し、チームの躍進につながった。

 決勝を控えた2日、文京区内にある筑波大付属盲学校内で行われた練習でも、鳥居は企業のヘルスキーパーの仕事の都合で1時間近く遅れて合流したが、存在感と指示の声がひときわ目立った。脳裏には、この大会5試合で22ゴールと量産中の相手のエース、女子日本代表の菊島宙の存在が刻み込まれている。

「寝ても覚めても考えていますね。すごいですから。17歳であれだけやれるんですから。今回は戦わなければいけない相手ですけど、普段はどこまで成長するか、楽しみな存在ですね。対策ですか? それは言えません(笑)。僕は点の取り合いにはならないと思っています。1点もしくは2点勝負ですね」

練習直後にインタビューに応じた鳥居

 それは「ストップ・ザ・宙ちゃん」の自信の裏返しでもある。小さい頃から視覚障害がある鳥居にとって、遠方まで行くことは決して簡単ではない。それでも、6月2日にチームが初の決勝進出を決めると、チームの仲間とともに、6月9日に福島で行われたグループリーグの試合を見に行った。試合を目で見ることはできないが、鳥居はあえてラジオ実況中継のブースのそばに1人で立ち、試合の音とアナウンサーの実況を同時に聞いて、試合内容や選手の動きのイメージを植え付けた。今度の決勝は、そんな執念を表現する場でもある。

「点をとるとなると、どうしても今までは自分にボールが多く回ってきてしまっていましたが、それは本当は思い描く理想ではないんです。僕は中盤でゲームメークするのが好きで誰かに点をとってもらいたい。最近では、園部が得点をとれるようになってくれていて、そこを一番楽しみにしています」

 思い描くのは、菊島を完封し、ヒーローを輝かせるラストパスを送ること。縁の下の力持ちになることに生きがいを感じる鳥居は、誰よりも優勝したいと願っている。

*視覚障がい者が行う対戦型のチームスポーツ。1チーム3人で、攻撃側は鈴の入ったボールを投げて、守備側は全身を使ってセービングする競技。

(取材・文 林健太郎)

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