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葛藤明かした横浜FM天野「成長速度が遅くなった」“信頼”背負いベルギーへ

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横浜F・マリノスでのラストマッチを終えたMF天野純

[7.6 J1第18節 横浜FM1-0大分 ニッパツ]

 プロデビュー戦から約5年、初陣と同じニッパツ三ツ沢球技場のピッチに立ったMF天野純が愛する横浜F・マリノスにしばしの別れを告げた。28歳を目前に控えて「ラストチャンス」と決断した初の海外移籍。最終戦を勝利で飾った背番号10は「めちゃめちゃ腹を下しながら考えた時もあった」と冗談混じりに胸中を明かした。

 小学時代から横浜FMの育成組織で育った天野は2010年、トップチームへの昇格を逃して順天堂大に進学。4年間でユニバーシアードの全日本大学選抜にまで上り詰め、卒業後に念願の古巣復帰を果たした。プロデビュー戦は14年7月12日の天皇杯2回戦・ホンダロック戦。それもこの場所『聖地三ツ沢』だった。

「よりファン・サポーターの方々との一体感が生まれるスタジアムなので、ラストゲームが三ツ沢というのは感慨深いものがあったし、三ツ沢でやれて良かった」。5年後の7月6日、思い出のピッチに立った天野は立ち上がりから気迫全開のプレーを披露。開始直後の前半1分、まずはゴール真上を突く力強いミドルシュートで圧倒ムードを牽引した。

「今日で最後だったし、全て出し切ろうという思いで試合に入ったので、最後までその思いが体を動かしてくれた」。

 主将の一撃に鼓舞されたチームは終始激しい球際バトルを展開。なかなか先制点を奪えない中でも集中力を絶やさず、終盤に混戦状態から先制点を奪い切り、今季4度目となる1-0での勝利をおさめた。フル出場を果たした天野は試合後、雨の中集まったサポーターに向けて「ベルギーへ行ってきます!」と爽やかに別れを告げた。

 昨季までの14番から10番に着替え、“主将3人制”の一角も任されて臨んだ今シーズン。タイトルへの道半ばでクラブを離れることに「苦渋の決断」と葛藤は隠さない。試合後の囲み取材では「楽しみ?」という記者の質問に「楽しみですけど、マリノスを離れるのは寂しい。ちょっとホームシックになっちゃうかもしれない」と本音を明かす一幕もあった。

 それでも海外移籍の夢は捨てきれず、それもロケレンというベルギー2部クラブからのオファーを飲んだ。「腹を下すこともあった」と苦悩もあったようだが、「行かないで後悔したくなかった」との決断。かねてより心に留めていた海外挑戦への憧れだけでなく、「何かを変えないといけない」という焦燥感が背中を押した。

 横浜FMで主力を担いながらも、初招集となった昨年9月のA代表では満足な結果を残せず、「もう一皮剥けるべきだけど剥けてないとか、数年前に感じていた成長速度がすごく遅くなったのを感じていて、何かを変えないといけないと今シーズンずっと思っていた」と複雑な胸中も明かした。

 天野は今月19日に28歳の誕生日を控えた現在を「いまが一番脂が乗っている時期」と捉えている。「その時に“アンパイ”なプレーをするのではなく、もっと危険な選手とか、見ていて楽しい選手になりたい」。そうした純粋な欲求が、頭をよぎるすべてのハードルを乗り越えていった。

 また、そうした葛藤を断ち切るかのごとく、三ツ沢の観衆も後押しムードにあふれていた。思い出されるのは不調が続いた昨季、独特のスタイルを構築中にあったアンジェ・ポステコグルー監督に向けての『We trust our BOSS(我々はボスを信じている)』という横断幕。信念を貫く決断をした者への、サポーターの確かな信頼がここでも見られた。

 28歳を目前にしての初の海外移籍。“青田買い”がメインストリームの海外市場において、困難なチャレンジであることは間違いないだろう。また「海外は結果が求められるけど、自分はそこが足りてないと思うし、力を伸ばさないといけない」との言葉どおり、ピッチ上の苦難も待ち受けているはずだ。

 ただ、そうした天野を支えていくのは、大学生活を経て横浜FMというビッグクラブに再び加入したにもかかわらず、なかなか出番を得られない時期が続いたプロ1〜2年目からここまでの立場を築き上げた経験だ。

「まさかこうして海外移籍できる選手になれるとは想像がつかなかった。それは一歩一歩積み上げてきたものだと思う。海外でも一つ一つ積み上げていって、活躍して、またいつかマリノスに帰ってきて、その経験を還元して、マリノスのために戦いたい」。愛するクラブでつかんだ手応えと、あふれるほどの成長欲を携えて、天野純は未来を変える旅に出る。

(取材・文 竹内達也)

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