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[MOM2918]東京VユースFW松橋優安(3年)_復活の2発。恩返しVを誓う“緑の10番”

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東京ヴェルディユースFW松橋優安(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.22 日本クラブユース選手権U-18大会C組第2節 東京Vユース 7-0 鳥取U-18 前橋フC]

 2か月間の負傷離脱を経て、戦線復帰の舞台は夏の日本クラブユース選手権。この大会に照準を合わせてきた東京ヴェルディユースFW松橋優安(3年)が復活を印象づける2ゴールを挙げ、愛するクラブを今大会初勝利に導いた。

 今年5月に右膝の靱帯を負傷。「離脱した後にプリンスで調子が良くて、勝ったら嬉しいけど悔しい気持ちもあった」という中、2か月間にわたるリハビリ生活を乗り越えてきた。それでも今大会に臨むにあたっては、ようやくピッチに戻って来られたという感慨以上に、たしかな使命感があった。

「永井さんと一緒に、クラブユースを戦いたかった」。

 今月17日、東京Vは2017年からユースの指揮官を務めていた永井秀樹氏をトップチームの指揮官に抜擢した。トップチームの成績不振に伴うものではあるが、S級ライセンス取得直後の異動とあり既定路線だった模様。とはいえ、ユースにとってはクラブユース選手権の開幕を4日後に控えた段階での急転人事だった。

「永井さんは普段あまり泣かない人なんですけど、泣きそうな感じで『本当はお前たちと戦いたかった』と言われた。自分たちも同じ気持ちだった。ただ、永井さんからは『サッカー界は何が起こるか分からない』と言われた」。

 松橋にとって、永井監督は高校1年次からお世話になってきた“恩師”。まさかの別れに少なからず動揺もあったという。しかし、経験豊富な指揮官に『サッカー界の道理』を説かれれば納得するしかない。「自分たちでやるしかないという気持ちになった。全国の舞台で自分たちのサッカーを発表するという気持ちは変わらない」と受け入れた。

 クラブユース選手権の開幕節、東京Vユースは決定機をたびたびつくりながらも、大分U-18に少ないチャンスを決められて0-1で敗れた。待望の復帰を果たした松橋にも絶好機は訪れたが、試合を決めることはできず。「自分たちのサッカーはできていたけど、落としてしまった」という悔しさが残った。

 そうして迎えた第2節の鳥取U-18戦。トップチームがオフだったこともあり、試合会場には永井監督の姿もあった。トップチームからの視察という見方もできるが、試合中についつい指示を出そうとしてしまう姿を見るに、やはり教え子の行く末が気になっていたのだろう。「優勝することが恩返し」と考えていた松橋にもその思いは伝わっていた。

 まずは前半19分、左ワイドで先発した松橋は前線に張り出してからのスルーパスで先制点の起点となった。さらにチームが1点を重ねた同30分、今度は右サイドからの浮き球パスにゴール前へ飛び込み、落ち着いたワンタッチボレーで今大会初ゴールを記録。後半22分には、スルーパスに抜け出して冷静に左足で流し込み、チーム最多の2得点目を挙げた。

「1試合目では点を決められるシーンを決めきれないでチームに迷惑をかけていたので、絶対に点を取ってチームを勝たせるという強い気持ちで臨んでいた」。そう振り返った松橋だが、どのゴールにも喜ぶ様子を見せなかった。得失点差を意識して「喜ぶ時間よりサッカーをする時間を増やして、攻撃をする時間を増やすことを徹底した」のだという。

「昨日の試合でベガルタがガイナーレに3-1で勝っていたので、最低でも3-0か4-1という話があった。また自分たちには『圧勝して圧倒』というコンセプトがあるので、どんどん点を取っていこうと話していた」。チームは最低限の3点差を大きく超えて7-0で勝利。前のめりな気持ちをそのまま結果につなげて見せた。

 松橋の積極性の裏には、背番号10に込められた指揮官の思いもある。新チームが発足した直後、松橋は永井監督に「何番がいいんだ?」と問われたことがあり、その時は「10番か7番がいいです」と遠慮がちに答えたという。ところがその後、納得がいかなかったらしい指揮官は再び「何番がいいんだ?」と問いかけてきた。

「そこで『10番がいい』って言ったら、監督から『あいまいな気持ちじゃなくて10番を着けたいって気持ちが聞きたかったんだよ』って言われました。去年は晃樹くん(MF森田晃樹)が着けていて、自分は中盤タイプじゃないので10番という感じはしなかったけど、チームが苦しい時に点を取ってチームを救えるような10番になりたいと思いました」。

 そんな恩師とはいったん離れる形になったが、この別れは新たな野望が芽生える契機にもなった。

「永井さんがトップの監督になったことで、自分たちでボールを持つユースと同じサッカーをするので、ここでいいサッカーをすればトップでもいいサッカーができると思う」。すでに同い年のMF山本理仁は出場機会を得ており、今後は他の選手にも抜擢のチャンスがあるはずだ。新たな10番像を模索する18歳は恩返しを果たすため、そして自らの未来を切り開くため、ここ群馬の地から飛躍を狙う。

(取材・文 竹内達也)
●第43回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会

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