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全国初出場の秋田U-18、熊林監督と進む道…DF高橋聖和「指導を受けられて幸せ」

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ブラウブリッツ秋田U-18の熊林親吾監督

[7.22 日本クラブユース選手権U-18大会A組第2節 JFAアカデミー福島U-18 4-1 秋田U-18 前橋フA]

 初出場のブラウブリッツ秋田U-18はグループリーグ第2節、念願の全国大会初ゴールを記録したものの、JFAアカデミー福島U-18に4点を奪われ、大会2連敗となった。それでも生まれ故郷のクラブを率いる元Jリーガーの熊林親吾監督は「想像どおりに選手はやってくれた」と振り返り、現状の立ち位置を前向きに捉えていた。

「想像どおり。想像どおりに選手はやってくれた。相手の強さもうまさも知っているし、欲を出して変に勝とうというのも大事かもしれないけど、今の3年生は僕が就任して初めて1年生から見てきて『この2年半やってきたことだけやろう』と。それで変なことをやって勝てるならいいけど、もし負けた時は財産にならない。この2試合はやってきたことが出たと思う」。

 グループリーグでは三菱養和SCユース、JFAアカデミー福島U-18、川崎フロンターレU-18と同組。どこも全国に名の知られる強豪とあり、苦戦するのはは想定内だった。ならば、フォーカスすべきは自分たちのクオリティー。といっても、相手と向き合わずに戦おうとしているわけでは決してない。

 チームのコンセプトで大事にしていることを問うと、熊林監督からは次のような言葉が返ってきた。

「やっぱり『見る』ですね。そしてポジションを取る。形でやらないこと。たとえばアカデミーさんのようにポジションが決まっていて、“止める蹴る”技術がしっかりできればああいうサッカーでいい。ただ、うちの選手は止めて蹴る、運ぶ、外す技術がまだまだ足りていない。だったらまずは見て、相手よりも足を動かしてポジションを取ること」。

 まずは相手を見て、自分たちの判断をする——。意識付けだけなら容易いのかもしれないが、地方クラブでこれを徹底することは簡単ではない。

「もっと秋田の子は考えなきゃいけない。関東の子は相手が強いので嫌でも考える。ただ、この年代の秋田の子たちは力関係で勝てちゃう。止まってサッカーができちゃう。それじゃダメだよねって。ただ、環境のせいにしたくないので一生懸命伝えています」。

 だからこそ、トレーニングでは選手に細かい指示を与えるが、試合中は選手の動きを観察することに集中する。「ピッチ内で見える景色に対して(選手同士で)話すことがまず大事。プロに行ってからは戦術的に言われたとおりに動くことが絶対に大事だけど、周りを見ていないと、なぜ監督がそう言っているかわからない」という思いからだ。

 そうした日々の取り組みは思わぬ「良かった」も生んでいた。全国大会が行われる群馬は自身が現役時代に最も長い期間を過ごした場所。「選手時代も一番長かったので、正直この地に来れたことは嬉しいです。実際、ユースの監督になった時にも全国大会はここだったので」と特別な思いは隠さない。

 しかし「だからこそ、自分が目立たないようにしよう」という思いがあるという。「だから『選手が考えるサッカーをやってきて良かったな』と。思い入れのある地だからこそ、自分が目立たなくて良かった」。あくまでも選手目線。この短い言葉だけでも、熊林監督の選手との向き合い方が垣間見える。

 普段は県リーグで戦う秋田U-18にとって、全国大会は日頃の成果を発揮する場であると同時に、普段は経験できない相手と戦う貴重な場となる。副主将のDF高橋聖和(3年)は「東北とか秋田県内だとこのレベルはなかなかいない。こういう相手とできるクラブユースの全国大会は自分たちにとってとても貴重な経験」と目を輝かせていた。

 たとえばセンターバックを務める高橋にとって、初戦で対戦した三菱養和のFW栗原イブラヒムジュニア、第2節で対戦したJFAアカデミー福島のFW植中朝日のような世代別代表選手と対戦できる機会はなかなかない。失点シーンでは「やっぱりこれが代表か」という悔しさも経験しつつ、群馬の地で貴重な時間を過ごしているようだ。

 そんな高橋は熊林監督を「今まで指導を受けてきた指導者の中で、全然いなかったタイプ」と表現。「自分の気付かなかったことや、親吾さんの選手経験を自分たちに落とし込んでくれているというのが他の指導者とは大きな違い」。そうした対話を通じて築いた信頼は「あの人に指導を受けられて、自分たちは幸せだと思う」という言葉からも伝わってくる。

キャプテンマークを巻いてピッチに立ったDF高橋聖和副主将(3年)

 そんな熊林監督の就任から2年半、一学年2〜3人にとどまることも珍しくなかった秋田U-18にようやく安定的に選手が集まるようになり、「やっとゼロからイチ」(熊林監督)のフェーズに到達した。アピールポイントは「トップチーム」の存在。Jクラブとのトレーニングマッチ、Jクラブへの練習参加ができる機会は高体連の強豪でも得られないものだ。

 また何より大切なのは日々のトレーニングだろう。「チーム同士のトレーニングを、まずは東北で一番の厳しさ、激しさでやろうと。他から見てどうかはわからないけど、まずは『自分たちで東北で一番やっている』というところに自信、課題が出るので、選手でもチームでもそれが大事だと伝えています」。

 そうして徹底的に突き詰めているのは、サッカーの「基本」だ。

「すごい良いチームを作るには、徹底的な基本だと思うんですよ。基本に立ち返った時には、やっぱり1対1のスピード、強さ、ステップワークと身体の使い方。指導者だったら『そんなこと言ってもピッチでわかんねえじゃん』ってなるんですが、それくらい小さいことをやんないと絶対に変わらないし、追いつけないし、勝てないと思う。

 戦術とかはその後だと思う。それをもう一度コーチと話して、地に足をつけて、我慢強くやりたい。戦術的なサッカーをやれば『あいつすげえこと考えてるじゃん』って言われますが、それは監督が評価されたいだけなので。でも僕は全くそう思っていないし、選手の時に十分評価はしてもらった。選手たちが評価されるようになんとか頑張ります」。

 秋田U-18はここまで2連敗を喫したものの、首位のJFAアカデミー福島が勝ち点6で走り、川崎F U-18と三菱養和SCユースが勝ち点3で並ぶため、勝利すれば決勝トーナメント進出の可能性も残されている。そこで目指すは初勝利と「やってきたこと」の表現。「さすがに3連敗では帰れない」(高橋)という思いを24日の川崎F戦にぶつける構えだ。

(取材・文 竹内達也)
●第43回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会

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