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西京の番狂わせと快進撃支える小さなGK恒富の大きな存在感

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PK戦勝利を喜ぶ西京高GK恒富優貴人。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[7.27 総体2回戦 日章学園高 1-1(PK4-5)西京高 西原町陸]

 西京高(山口)が強豪・日章学園高(宮崎)との2回戦を突破し、ベスト16入りを決めた。西京は後半19分に相手の先制を許したものの、後半アディショナルタイムの70+4分に原田廉(3年)が同点弾。直後のPK戦も5-4で制している。

「キーパーのお兄ちゃん、かっこよかったよー」

 クールダウン中の選手に向けて、スタンドからあどけない声が聞こえてきた。小学校低学年くらいの少女から、この試合のヒーローに向けられたエールである。GK恒富優貴人(3年)のプレーには、それくらいのインパクトがあった。

 ただし、西京がこの試合で向き合った日章学園は「格上」といって差し支えのない強豪。田邊宏司監督もこう口にする。

「日章学園はウチが目指していることを、一歩二歩先にやっているチーム。できるだけ吸収して帰ろう、見本を間近で見てやろうと試合に入りました」

 日章学園の攻撃の中心となるFW鈴木陽介(3年)をまず封じようというDF陣の狙いも、立ち上がりからなかなか思い通りに行かなかった。原田廉はこう振り返る。
「自分たちの思うように行かなかったです。でも前半の危ないシーンで、恒富がファインセーブを連発してくれた。キーパーが頑張っているからやらないと……という気持ちになりました」

 西京が喫したシュートは14本で、そのうち7、8本は1点ものの決定機だった。恒富はそれを最小失点で凌いでみせた。

 しかし、守護神の身長は168cm。全国大会に出てくる強豪チームとしては異例のサイズだ。跳躍力や瞬発力も本人が「一般人」と評するレベルで、身体能力が必ずしも恵まれているわけではない。

「もう少し身長があれば」というのは恒富のプレーを見た人が持つ率直な感想だろう。「180cmのGKが羨ましくない?」と記者が少し無神経な質問をぶつけると彼は素直にうなずき、こう返してきた。

「『うわぁデカい。羨ましい』という気持ちはめちゃくちゃあります」

 ただ、他のGKが持っていない強みを、この男は持っている。田邊監督にその起用理由を尋ねると、こんな答えが帰ってきた。

「ゲームセンスがありますね。反応がいいし、落ち着いている。自分を乱すことが全くなくて、ずっと冷静です。(コーチングは)結構きついことを言っていますけれど、でもいいことを言っている」

 本人もコーチングの「キツさ」は敢えて意識しているようだ。168cmの守護神は言い切る。

「GKが緩いことを言ったら、チームの雰囲気は一気に悪くなる。僕が後ろで見ている限り、フィールドの人が分かっていても、再確認をしっかりするのがGKの務め。そこは意識しています」

 他にも本人が一番こだわっている「飛ぶタイミング」や、ビルドアップ、キックなど彼の強みはいくつもある。 

 PK戦は5本すべてを成功した西京に対し、日章学園の3人目がシュートをバーに当てたことで決着した。本人は「止めてこそGKかなと思うので、止めたかった」と悔い口にする。しかしそんな5本の中にも、恒富の存在感は見て取れた。

 まず「眼力」だ。恒富は説明する。
「相手の選手はPKのとき、僕の目線を見る。僕は『来いや』『止めてやる』と言う目線をしました」

 先輩GKからの教えもあり、彼はPKの場面で相手GKから決して目を逸らさない。じっと相手を視線で刺し、精神的な先手を取ろうとする。

「相手の身体の向きを意識した」という観察力も確かで、PK戦は5本中4本でシュート方向への反応に成功。シュートがギリギリを突いたためストップはできなかったが、続くキッカーが警戒感を高めるには十分だった。守護神はそうやって日章学園のキッカーに圧力をかけていた。

 西京は3年ぶり5回目のインターハイ出場で、過去最高成績はベスト16。そんなチームの番狂わせと快進撃を支えているのが、小さなGKの大きな存在感だ。

(取材・文 大島和人)
●【特設】高校総体2019

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