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大手企業から貰った内定を辞退…森下龍矢が鳥栖入団を決めるまで

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 総理大臣杯が開幕した。前年覇者の明治大は、1日に行われる2回戦の仙台大戦から登場する。学生スポーツとしては異例の同一大会4年連続決勝進出と安定的な強さを誇る明治大は、今年もJリーグ内定4選手を擁する最注目校。来季よりサガン鳥栖への入団を決めているMF森下龍矢(4年=磐田U-18)も「4年間の積み重ねは、どの大学よりもあると思っている」と大会連覇への自信を伺わせる。

 少なくとも3月の時点では就職すると聞いていた。“プロ予備軍”である全日本大学選抜の一員としてデンソーチャレンジカップを優勝したあとでも、その意思が変わることはなかった。実際、そのあとに就職活動に励み、6月1日には損害保険会社大手の企業から入社内定の連絡を受けた。

「もともと社会人への憧れというか、明大サッカー部を出て社会で活躍されている方に魅力を感じていたし、社会人になる方が楽しいんじゃないかと思っていました。それで本気で就職活動をして、内定をもらってというところまでやりました」

 だが8月3日、鳥栖から一つのリリースがされる。『森下龍矢選手(明治大学)2020シーズン 新加入内定のお知らせ』。同じく今夏、ユニバーシアード大会を戦った大阪体育大のFW林大地との同時内定発表となった。

 気持ちを動かすきかっけとなったのは、ある言葉だったという。内定を貰ってから同業種に進んだある先輩と話す機会があった。「挑戦する方が面白いんじゃないか」。その先輩から言われた言葉が妙に頭に残った。

 そして考えた。周りには大学卒業後も第一線でサッカーを続けたいと希望する仲間がたくさんいること。その希望を叶えることはできない仲間がたくさんいるということ。「挑戦する方が面白いんじゃないか」。頭の中で繰り返される言葉が、気持ちを心の奥底に閉まっていたことを分からせてくれた。

 明治大で3年時から主力を張るアタッカーには、高校時代までを過ごしたジュビロ磐田を含めたJ1複数クラブが注目していた。森下もプロになるなら磐田という考えを第一に持っていたが、磐田からの話が就職活動に重きを置いた時期と重なったこともあり、話が進むことはなかった。

 鳥栖への練習参加は5月に行った。もともと鳥栖へも一般企業に就職したい意思を伝えていたが、それでも参加してほしいということで、2日間ほど練習に参加することになった。

 そこで感じたのは鳥栖というクラブが自分を本当に必要としてくれていたということ。事あるごとに就職の意思を伝えていても、「いろんな選択肢がある中で、選んでくれればいい」と22歳の学生である立場を常に尊重してくれたことが嬉しかったという。

「鳥栖は本当にいいクラブだなというか、学生である僕を尊重してくれたことで、恩返ししたいなという気持ちに変わっていきました。プロに行くんだったら磐田かと考えていました。ずっと戻りたかったので。でも進路って人生を決める大岐路。今はそこを寛容に見守ってくれた鳥栖のみなさん、選手、スタッフに感謝したいと思っています」

 鳥栖への入団は7月のユニバーシアード大会前には決めていた。プレー面でも鳥栖のスタイルに自身のプレースタイルを簡単に重ねられたことが、決断を容易にした。

「僕のプレースタイルがフィットしているなと感じました。出るのは簡単ではないとは思いますけど、今年中には一員としてJ1残留を目指したいなという気持ちが凄くあります」

 プロに進むことを決めたことで、今まであまり重要視してこなかったという筋力トレーニングにも力を入れ始めた。ただ筋トレの重要性も感じているが、それよりも鍛えたいのは“巧さ”の部分。練習参加した際に先日現役を引退したFWフェルナンド・トーレスとシャワールームで遭遇したが、「柱」に見えたと笑う。「筋トレも重要だと思うけど、そのレベルじゃないな」と感じたという。

「日本がどうやって世界に勝っていくかって、たぶん単純な当たりとかじゃない。潜り込むとか、当て方といった感覚や技術の部分だと思う。もちろん筋トレはしますけど、そういうところを見ながら、感じながらやっていきたいなと思います」

 頭の中はプロ仕様。もう迷いもない。

「残念ながら内定を辞退するとなった時も、本当に温かく背中を押してくれました。今は何も考えずにサッカーに打ち込めていますが、いろんな人や企業さんの後押しがあって、サッカー選手になれた。やれてあと15年間くらいだと思うけど、今は後悔がないところまでやりたいなと思っています」

 改めて気付くことができたのは、自分一人で生きているのではないということ。これからも森下は「人への感謝」を持って、思う存分大好きなサッカーを続けていく。

(取材・文 児玉幸洋)
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