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感謝の気持ち持って戦った選手と変わらぬサッカー文化…。「サッカー王国」静岡県がU-16化後初の単独日本一!

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8年ぶりの優勝を果たした静岡県は村下和之監督(沼津西高)を胴上げ。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[10.3 国体少年男子決勝 静岡県 1-0 広島県 カシマ]

 感謝の気持ちを持って戦った選手やコーチングスタッフ、そして王国のサッカー文化を支え続けた関係者全員で勝ち取った単独Vだ。

 かつて、静岡県はジュニア年代からの精力的な強化を中学年代、高校年代の結果に繋げてきた。国体少年男子に臨む県選抜は高校世代のスター選手たちで構成され、4連覇や7年連続の決勝進出などの快挙。サッカー王国・静岡の評価を不動なものとしてきた。

 国体少年男子がU-18年代の大会だった05年までに最多19回の日本一。だが、他の都道府県がレベルアップする中、06年のU-16化以降の優勝は11年大会の1度だけで、それも千葉県との同点優勝だった。

 静岡県は近年の国体でも随所に巧さを見せるものの、勝負強さを欠くなど、早期敗退の連続。選手権の代表校は4年連続で初戦敗退を喫している。清水ユースや磐田U-18がプレミアリーグで奮闘し、高体連からもJリーグで活躍する選手が出てきているが、サッカー王国の名に相応しい活躍はできていなかった。

 国体での単独優勝は静岡県の悲願の一つに。その中で迎えた今大会、50年連続出場の静岡県は技術面に加えてボールを奪う、ゴールを奪うことを強調して戦った。そして、エースFW千葉寛汰(清水ユース)の活躍や交代出場選手の奮闘もあり、優勝候補の佐賀県と東京都、開催地の茨城県、勢いに乗る山口県を相次いで撃破。そして決勝では最近4年間で3度目決勝進出の強敵・広島県を破って堂々の単独Vを成し遂げた。

 2日の準決勝で山口県に6-1で大勝。復活Vを懸けた決勝へ向けて、村下和之監督(沼津西高)が選手たちに問いかけたのは感謝の気持ちを持つことだったという。「オレたちは目標の直前まで来たと。だけど、ここで、ただ“勝ちたい”とかじゃなくて、感謝の気持ちを持って。チームの仲間や自チームのスタッフ、選手、そして保護者の方、学校の関係者の方、そういう人たちに君たちは支えられてきたんだと。そこをしっかりと忘れないで、今日のゲームしっかりと楽しもう」。感謝の気持ちを持ってファイナルの舞台に立った選手たちは仲間や家族のために身体を張って戦った。

 決勝は前半、広島県ペースで進んだ。5分に静岡県は左クロスから決定的なシュートを打たれたが、GK大畑神唯(JFAアカデミー福島U-18、1年)が指先で止めると、DFが必死のクリア。その後もゴール前のシーンは明らかに広島県の方が多かったが、静岡県は身体を投げ出してシュートをブロックするなど、得点を許さない。

 静岡県が大会を通して続けてきたのは、前からボールを奪いに行くこと、ゴールを奪いに行くこと。後半も怯まずに前に出る静岡県は、相手のロングボールの精度を乱して流れを引き寄せる。そしてチャンスの数を増やして迎えた20分、MF藤原健介(磐田U-18、1年)の左CKからCB菊地脩太(清水ユース、1年)が先制ゴール。その後、反撃する広島県のシュートがポストを叩くシーンが2度あった。だが、「最後、ゴールラインを割るまでやり続けろと言っていました。最後の最後までやってくれました」(村下監督)という静岡県が守り切り、1-0で勝利。王国・静岡県のユニフォームを着て戦うことを楽しみ、感謝の思いを全力プレーで表現した静岡県が19年国体を制した。

 8年ぶりの国体制覇を果たした後、村下監督は「僕らはかつて、王国と呼ばれてきました。それは結果が出ていたから。でも、静岡のサッカーを支える文化というのは、今でも王国と呼ばれるものがあると思っています」。育成年代からの継続した強化や各チームの選手、指導者の情熱と協力体勢、また他県では味合うことのできないほどのサッカーの報道量、サッカーファンの厳しい目……。復活Vは静岡県の変わらぬサッカー文化の上に成し遂げられたものでもあったようだ。

 村下監督らコーチ陣の下、勝ち続けること、「上手いだけじゃなくて、タフで、逞しくて、チームのために働ける」選手になることを意識してきた静岡県は国体での目標を達成。村下監督は「明日から自チームに帰りますが、彼らの成長が見られれば嬉しい」。Jリーグや世界を目指す選手たちは所属チームに国体優勝の経験を伝え、自身と仲間たちの目標達成、静岡県の強さとサッカー文化を継続させるためにも努力を続ける。

(取材・文 吉田太郎)
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