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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:11メートルとの再会(関東一高・類家暁)

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関東一高MF類家暁

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 10人で並んでいた列を離れ、たった1人で定められた場所へと歩みを進める。1年ぶりに再会した“11メートル”の距離が、とてつもなく遠く感じる。脳裏に甦ってくる光景を、頭の中の両手で必死に振り払う。逃げ出したくなる感情にも、頭の中の両足で必死に踏みとどまる。「正直心が張り裂けそうでした」。笛が鳴る。覚悟が決まる。小さな深呼吸を1つ。その直後。類家暁は短い助走から、ボールへ向かって走り出す。

 2018年10月21日。大会3連覇を狙う関東一高は追い込まれていた。高校選手権予選東京Aブロック2回戦。東京実高との一戦はスコアレスのままで延長戦へ突入。さらに付け加えられた20分間でも得点は動かず、準々決勝へと勝ち上がる権利はPK戦へと委ねられる。

 関東一は2人目が失敗。先攻の東京実は4人目がGKにストップされたものの、後攻の4人目もクロスバーにぶつける。ところが、決めれば終わりという東京実の5人目が繰り出したキックは枠外へ。決着の幕はまだ下りない。関東一の5人目は類家暁。やはりPK戦までもつれ込んだ総体予選準決勝の東京朝鮮高戦では、7人目のキッカーとして勝敗を決するキックを成功させ、ベスト16まで進出した全国総体でも、レギュラーとして存在感を放った1年生にチームの命運は託される。

 笛が鳴る。覚悟が決まる。小さな深呼吸を1つ。その直後。左スミへ蹴ったボールは、しかし鈍い金属音を響かせ、ゴールポストに当たって跳ね返った。オレンジの歓喜とイエローの落胆。両者のコントラストが残酷なまでにピッチの緑へ映える。「自分が終わらせちゃったみたいな所がありましたよね」。イエローの22番。類家にとって初めての高校選手権には、悪夢のような信じ難い幕切れが待っていた。

 失意の時を経て、関東一の2019年がスタートする。14番を付けた類家はレギュラーの座を射止めたが、チームは都代表を決定する関東大会予選準決勝で、延長戦の末に國學院久我山に惜敗。さらに総体予選2回戦の堀越戦でも、やはり延長後半に決勝ゴールを奪われ、4年に渡って獲得し続けていた全国総体への出場権も逃してしまう。

 それでも、類家の中には中心選手としての確かな自覚が芽生えていた。「ボランチとして一番真ん中にいるので、球際も『絶対自分が負けちゃいけない』という自覚もあって、来年に向けて中心になることを意識しながら、責任感を持ってやっています」「1年生の時はフィジカルもなかなか勝てなくて、ビビりながらやっている感じだったんですけど、最近は落ち着いてプレーできるようになってきました」「1個上の先輩ともサッカー以外で接する場面が多かったので、去年に比べたらだいぶやりやすいですし、今は1年生も入ってきているので、学年問わずやりやすいチームに自分がしていきたいと思っています」。自然と言葉にも力が漲る。

 小野貴裕監督もその成長を認めている。「笠井(佳祐)と類家のボランチ2枚がしっくり来ましたね。あの距離感は2人じゃないとできないし、アレだけ笠井が出て行けるのは、類家が相当拾ってくれるからで、あの2人は来年もストロングになると思います」。自身も言及していたフィジカルの部分が向上し、それに伴って守備面のみならず、攻撃面でも違いを生み出すスルーパスを狙う意識が向上。ボランチの位置から、より攻守に関われる選手へと進化を遂げつつあると言っていい。

 辿ってきた進化を、磨いてきた真価を問われる時間が帰ってくる。高校サッカーにとって最大のイベントでもあり、最高のイベントでもある高校選手権。この舞台で力を発揮してこそ、重ねてきた努力の意味が証明される。10月14日。初戦は駒込高に4-0と快勝を収めた。次のラウンドは、1年前にその先へと進む道を閉ざされたそれ。絶対に超えるべき、約束のステージでもある。

 10月20日。2年ぶりの全国を目指す関東一は躍動していた。高校選手権予選東京Bブロック2回戦。都立南葛飾高を相手に、開始早々からラッシュを仕掛ける。13分に佐藤誠也。16分に鹿股翼。25分に横山慎也。スコアは早くも3-0に。類家も鋭いスルーパスから決定機を演出。「みんなが攻撃、攻撃という時に、1つ冷静になって守備のことを考えたり、チームのバランスを整えるのが、自分のストロングだと思っています」とは言いながら、攻撃センスの一端を垣間見せる。

 後半にはさらにPKで1点を追加。終了間際に失点を許し、やや後味の悪さは残したものの、終わってみれば4-1できっちり勝利。昨年は悔しい敗退を突き付けられたラウンドを、力強く突破してみせる。「2点目を取った後に、監督から『相手にとっては何をしたらイヤか』と言われて、そこで選手内で『もう1個圧力を掛けて、点を取りに行こう』という話が出たんです」と明かした類家。まずは“2回戦突破”という1つめのリベンジを達成した。

 次の相手は駒澤大高。昨年の選手権予選を制した強豪であり、今シーズンは2度対戦して1分け1敗と決して分は良くないが、ここまで来れば相手にとって不足はない。「次はもっと強度が高いゲームになると思いますし、相手も勢いが凄いチームなので、まずそこで負けないようにしてから、違いを出す所は最後の決定力だったり、チーム全体の統一感かなと。あと1週間でミーティングもたくさんして、勝ちたいと思っています」。類家も翌週の決戦に想いを馳せる。

 あえて聞いてみる。「選手権にはいろいろなリベンジが懸かっていると思うけど、去年のPKの経験はどういうふうに捉えてる?」。しばらく考えながら「あまり思い出したくないんですけど…」と絞り出したものの、その後が続かない。また少し間があって、「PKまで行かないように、試合の中で決めたいですね」と苦笑が浮かぶ。できることなら“11メートルとの再会”は果たしたくないという、そんな心の内側が透けて見えたような気がして、妙にそのやり取りが記憶に残った。

 10月27日。押し込まれる展開の中で関東一は耐えていた。高校選手権予選東京Bブロック準々決勝。ロングスロー。コーナーキック。フリーキック。セットプレーにストロングを有する駒澤大高の圧力が、エリア内へと押し寄せる。「押し込まれるのはわかっていましたし、それでも凌ぎ切れば絶対自分たちのチャンスが来ると信じて、ひたすら1個1個プレーが切れるたびに、声を掛け合って集中していました」と類家。ただ、指揮官の小野はこう振り返る。「やられそうな空気はあったかもしれないけど、なんか落ち着いて戦っていた感はあるんですよね。凄く冷静にやっていましたし」。

 80分間で決着は付かず。延長戦も数度訪れた相手の決定機を、ディフェンダーが、ゴールキーパーが1つずつ凌いでいく。前半の10分と後半の10分が過ぎ去り、主審の長いホイッスルが少し陽の傾き掛けた青空へ吸い込まれる。100分間でも決着は付かず。熱戦の行方はPK戦に導かれることとなる。

 小野は決断した。3人目のキッカーに指名されたのは類家。あの日から公式戦で“11メートル”と対峙したことは一度もなかった。「緊張でもう咳が止まらなかったんです(笑)」。仲間から掛けられた声も、組まれた円陣の熱量も、正直よく覚えていない。1年ぶりのペナルティキック。あの日から辿ってきた進化を、磨いてきた真価を問われるシチュエーションが、これ以上ないタイミングで巡ってきた。

 先攻の関東一も、後攻の駒澤大高も、2人ずつキックを成功させた。10人で並んでいた列を離れ、たった1人で定められた場所へと歩みを進める。1年ぶりに再会した“11メートル”の距離が、とてつもなく遠く感じる。脳裏に甦ってくる光景を、頭の中の両手で必死に振り払う。逃げ出したくなる感情にも、頭の中の両足で必死に踏みとどまる。

「冷静を装っていた感じですね。緊張がバレるとダメなので、キーパーの顔は見ないようにして、ボールとゴールだけをしっかり見ました」。笛が鳴る。覚悟が決まる。小さな深呼吸を1つ。その直後。類家は短い助走から、ボールへ向かって走り出す。「今までは左側に強く蹴ることを意識していたんですけど、1回変えてみようと思って右側を練習していたので、キーパーが動いても動かなくても絶対右側に蹴ると決めて、強気で行きました」。1年前とは逆。右足で強い意志を注ぎ込んだ球体は、右スミのゴールネットへ突き刺さった。

 5人目。関東一のチームキャプテンを務める田中大生がど真ん中へ蹴り込み、熱戦に終止符が打たれる。試合後。少しだけ笑顔を浮かべながら、類家はこう語った。「もう正直あんまり覚えていないんですけど、気持ちでやった感じで、もう、なんか凄く疲れました。1か月前に抽選が決まった時から、今日が山場だと思ってやってきた部分があったので、やっと終わったという感じがしました」。

 歓喜に沸く仲間の輪から少し離れると、小野から声を掛けられたそうだ。「『やっと黒から白に戻ったな』って言われました」。そう明かした類家は、続けて素直な想いを一息に吐き出した。「落ち着いて決めることができたんですけど、正直心が張り裂けそうでした」。あの日、大きな十字架を自ら背負ってしまった類家は、ちょうど1年後の同じ舞台で直面した“11メートルとの再会”を乗り越え、“PK成功”という2つ目のリベンジを達成した。

 1年前も、この日も、どちらも冷静にゴールを射抜いた田中は、後輩の雪辱をエネルギーに変えていたようだ。「暁も練習中のPKはたまに外すことがあったんですけど、今日はしっかり決めてくれたので、『あとは自分が決めるだけだ』って思いましたね」。去年を知る者は、誰もが彼の想いをわかっていた。この1勝がチームの一体感をより高めたことは、あえて言うまでもないだろう。

 ここからはすべてが山場。簡単な試合など1つもない。準決勝では東京高校サッカー界の聖地、“西が丘”のピッチが待っている。「西が丘もどんな世界かわからないですけど、先輩たちに食らい付いていって、楽しんで、笑顔を忘れずに、絶対あきらめないで、気持ちで全国を掴みに行きたいと思います」。たぶん類家が吹っ切れたことは、笑顔で口にしたこの一言が証明している。「またPKになるかもしれないですしね」。その時はきっと、いや、間違いなく、もうちょっとだけ“11メートル”を近く感じることができるはずだ。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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