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[MOM3026]龍谷FW松尾亮汰(2年)_劇的ラストのPK奪取! 脳裏には午前6時の“朝練”「抜くだけじゃなく…」

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完全に身体を入れてペナルティエリアに侵入していた龍谷高FW松尾亮汰(2年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.3 高校選手権佐賀県予選準決勝 佐賀東高0-1龍谷高 鹿島市陸]

 後半アディショナルタイムに入った直後、2年生ストライカーの脳裏には『朝練』の光景がよぎっていた。80分間プレーした後とは思えないほどの高速スプリントで最終ラインをぶち抜き、冷静なコース取りでペナルティエリア内へ疾走。たまらず押し倒した相手DFの行為にホイッスルが鳴らされ、劇的な“サヨナラゴール”の舞台が整った。

 互いにカウンターの応酬が続いていた0-0の後半終了間際、龍谷高の1トップを担うFW松尾亮汰(2年)は味方のスルーパスに反応し、右サイドのインサイドレーンを駆け上がった。後方から追ったDFの目測は正しかったが、松尾のスピードが一歩上回り、決死のタックルにPKの判定が導き出された。

 このPKを「チームでも一番得意」という主将のDF柴田陸玖(3年)が落ち着いて決め、チームが歓喜に沸く中でタイムアップの笛。「蹴ろうと思ったけど練習では結構外していたし、監督の指示も『勝利を優先しろ』ということだったので」(松尾)。決勝点の栄誉は先輩に譲ったが、勝敗を分ける活躍を果たした16歳からは笑顔も見られた。

「朝練でやっていたドリブル練習の成果が出ましたね」。試合後、龍谷高の太田恵介監督にあのワンシーンを問うと、そうした答えが返ってきた。取り組ませていたのは「裏に出るための3、4タッチ目のトレーニング」。ディテールを突き詰めた鍛錬の苗は、選手権出場を争う準決勝という舞台で花が開いた。

 松尾が取り組んでいるという『朝練』は水曜〜金曜の朝6時にスタート。遅刻すればメンバー入りにも影響が出るほどチーム内で重要視されている時間だ。ただ、個々の特長を伸ばし、苦手を克服するメニューは選手としてのレベルを上げてくれるもの。これをおざなりにしてきた者は過去、大舞台でミスをしたというジンクスもあるという。

「裏に抜けた瞬間に『これ朝練だ!』って思いました。『行ける!』って」と松尾が振り返るように、朝練で身につけた動きは身体に染み込んでいる。「ただ抜くだけじゃなくて、緩急をつけて抜いて、抜いた後に相手を背中に入れることを意識している」。それはまさに、PKを獲得したシーンで活きたアクションだった。

 もっとも、そうしたひたむきな姿勢を持とうとしている松尾だが、これまでは気持ちをコントロールできないことのほうが多かったという。「新人戦で負けて、総体で負けて腐っていた。朝7時からランがあるけど、1km6本を3分30秒で走るというノルマがあるのに全然クリアできていなくて、なんとなくこなしていた」。

 そんな松尾に指揮官はサテライトチーム行きを突きつけた。「ずっと煮え切らないままで、Bチームでとにかくやらせていた」(太田監督)。その時のエピソードを本人にも訪ねてみると「Bチームというより、紅白戦では一番下のDチームもあった。そこでゴールを決めてAチームに勝って、引き上げてもらった」という話も語られた。

「Bチームでもキャプテンをしていて、最初のほうはぬるま湯だった。ただこの世代が一番弱いと言われていて、俺の力で絶対に勝たせるという覚悟と責任を持ってやろうと思った」(松尾)。そして太田監督は「選手権にはお前が必要だ」と抜擢。期待に応えた教え子に「最後に仕事をしてくれた」と目を細めた。

 指揮官の信頼を勝ち得つつある松尾にはもう一つ、意地がある。中学時代はサガン鳥栖U-15に所属。全国2冠を成し遂げた黄金世代の一人として、シーズン途中からはレギュラーを担っていたが、「実力が足りない」としてU-18への昇格はならず。その悔しさを今も忘れてはいない。

「もう相当悔しかった。ユースの選手も高校では一緒なので、生活面など良いところは見習いつつ、みんなが練習をやっていない時にもシュートの練習をするようにしている」。目指すはU-18所属選手と同じJリーグの舞台。「大人になってプロになれば問題ない」と異なる道からプロ入りを狙っている。

 そのためにはまず、全国の舞台で実績を築いていく構えだ。初出場で8強入りを果たした前回大会はメンバー入りするも出場機会はわずか。「選手権の借りは選手権でしか返せない。今年も絶対に全国に行って、自分のプレーが通用することを確認したい」という2年生FWは「自分のゴールで全国に導きたい」と2週間後の決戦に闘志をたぎらせた。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2019

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