beacon

“伝統の14”濱屋が決勝も2発!! ユニーク布陣光った神村学園、出水中央下して鹿児島3連覇

このエントリーをはてなブックマークに追加

歓喜に沸く神村学園高の選手たち

[11.4 高校選手権鹿児島県予選決勝 出水中央高1-2神村学園高 白波スタ]

 第98回全国高校サッカー選手権鹿児島県予選は4日、鹿児島市の白波スタジアムで決勝戦を行い、神村学園高が2-1で勝利した。3連覇は同校史上初の偉業。敗れた出水中央高はFW大迫勇也を擁する鹿児島城西高に敗れた08年度大会以来11年ぶり2度目の決勝に挑んだが、またしても全国には届かなかった。

 総体決勝と同カードで行われた年間最後の一大決戦。夏の全国総体で同校史上最高となるベスト16入りを果たした神村学園に対し、初の全国出場を狙う出水中央が挑む構図となった。出水中央は今年10月、当時の監督が体罰問題で解任。選手権では代わりに就任した下原耕平監督が指揮を執った。

 バックスタンドを大勢の応援団が埋め尽くす中、試合は緊迫したムードでスタート。立ち上がりは互いにシンプルなダイレクトパスを多用し、空中でのヘディング合戦の様相を呈した。それでも徐々に主導権を握ったのは神村学園。前半15分ごろには、左サイドバックのDF軸丸広大(3年)が立て続けの突破から惜しいクロスを供給した。

 一方の出水中央は1トップのFW松山正利(3年)がサイドに流れ、長いボールを引き出そうと試みる。中盤ダイヤモンド型の4-4-2で構える神村学園は両SBが中央寄りのポジションを取るうえ、ボールが入ればローテーション風にポジション移動を繰り返すため、そのギャップを突こうという目論見だ。

 しかし、ここで神村学園が早くも動いた。「相手が中央にスライドして寄ってきていたので、もっと効果的にサイドを攻めたかった」(有村圭一郎監督)。システムをコンパクトな4-3-3に変更して相手とミスマッチを作り、ボールと反対サイドにいるウインガーを大きく外へと開くよう指示した。

 こうした二つのユニークな布陣をスムーズに切り替えた中、神村学園の先制点が生まれた。前半32分、GK吉山太陽(2年)からのロングキックが前線に通ると、2列目から抜け出たMF濱屋悠哉(3年)が一気にゴール前へ。飛び出したGK帆北航(3年)よりわずかに早くボールに触り、ダイレクトシュートをゴールマウスに転がした。

 狙った形とは違ったとはいえ、エースの一撃で先手を取った神村学園。その後はシステム変更の狙いどおり、大きくサイドに張った左ウインガーのMF下川床勇斗(2年)にボールが通るようになり、さらに優勢に試合を進めた。一方の出水中央はDF増田涼(3年)のロングスローで劣勢を打開しようとしたが、効果的な攻撃を繰り出すことはできなかった。

 後半開始時、出水中央は2枚替えを敢行。システムを4-4-2に変更し、両サイドハーフにMF大村龍之介(3年)、MF木場駿之介(3年)を入れた。すると相手のサイドバック裏にボールがどんどん通るようになり、6分にはサイドチェンジを受けた木場のクロスから、大村が惜しいヘディングシュートを放つ場面も見られた。

 直後、神村学園もここで最初の交代カードを使い、前半に再三好機を導いた下川床を下げて快速ウインガーのMF樋渡鯉太郎(3年)を投入。後半12分、ロングカウンターから軸丸がドリブルでしかけて敵陣を攻め込むと、クロスは相手にカットされたが、そのボールを奪ったFW寺田聡(2年)が決定的なシュートを放った。

 もっとも、神村学園はそのチャンスも決め切れずにいると「このまま終わるはずがない」という有村監督の心構えが的中した。出水中央は後半19分、GK帆北のロングフィードが前線に入り、松山がつないだボールを大村がヘディングシュート。出水中央は1失点目に喫した連携ミスを今度は相手に起こさせ、試合を振り出しに戻した。

 神村学園にとっては優勢が続いていた中での痛い失点。指揮官も「クロスがゴールキーパーのところに入ったりしていて、そこの精度が良ければもっと楽な試合になっていた」と振り返る。ところが失点直後、選手たちは相手が歓喜に沸く中で冷静に話し合いを行い、気持ちをもう一度立て直した。すると後半26分、エースが試合を再び動かした。

 左サイドで大きく張っていた樋渡が果敢なドリブル突破でカットインすると、そこからの横パスを受け取ったのは濱屋。ペナルティエリア左寄りから相手をかわしてゴールに向い、たまらず追いすがった相手DFに倒されてPKを獲得した。キッカーを務めた濱屋はこのPKを冷静な右足キックでゴールに沈め、スコアを2-1とした。

 そこからは出水中央が盛り返し、神村学園は防戦一方。大村のロングスローに加え、途中投入のDF佐々木康介(3年)、前線に上がった増田が対人戦で存在感を発揮した。それでも神村学園はGK吉山があらゆるクロスを先にパンチングし、DF成富勝仁(3年)を中心とするディフェンス陣も粘り強い対応を続けた。

 出水中央は後半39分、大村のロングスローからまたしても決定機を迎えたが、混戦から放った木場のシュートは相手ディフェンス陣がブロック。アディショナルタイムには、ハーフウェーライン付近からのFKでGK帆北も攻め上がったが、神村学園の守備が上回って猛攻は実らず。2-1のままタイムアップの笛を迎えた。

 試合後、勝利した神村学園の有村監督は「粘り勝ちでしたね」と選手たちを称えた。決戦特有の緊張もあってかリスク回避のロングボールが目立ち、一方的に攻められる時間帯もあるなど、理想的な試合運びはできず。しかし「今日は結果が大事なので」とそれも前向きに受け止めた。

 そのうえ、絶対に負けられないというプレッシャーもあった。神村学園は直近3年間に県内で行われた全国大会予選を5連覇中。そのうえ6連覇をかけた相手は指揮官交代に揺れた“手負い”の出水中央だった。「負けたら何をやっているんだという話になる」。周囲からの雑音に負けなかったことも手応えとなった。

 そうしたチームの中でも、異彩を放ったのは2得点の濱屋だ。「うちの大黒柱であり、いろんなプロのチームも注目してくれた選手。こういう舞台で結果を残せるようになったし、自信を持って次に進むことができる」(有村監督)。今大会全試合で得点を奪い、伝統の14番を背負うエースへの賛辞を惜しまなかった。

 ただ、3年連続出場の県内王者はここで立ち止まるわけにはいかない。目指すは2年前にFW高橋大悟(清水→北九州)を擁して成し遂げたベスト16以上、そして「全国制覇」(濱屋)だ。「今日は緊張やリスクを冒したくない思いで長いボールを蹴ってしまう場面もあったが、全国ではそうはならないはず。ボールを大事にしながら”らしく”攻めたい」(有村監督)。磨き上げてきたユニークな戦術も引っさげ、鹿児島の新名門が日本を驚かせる。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2019

TOP