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妻に伝えた「休むつもりはない」。千葉MF佐藤勇人の引退後は「とことんぶつかる」

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現役引退したジェフユナイテッド千葉MF佐藤勇人

[11.24 J2第42節 千葉0-1栃木 フクアリ]

 フクダ電子アリーナに集まった13358人の観衆に見送られ、20年間のプロサッカー選手生活に幕を閉じた。引退試合を終えたジェフユナイテッド千葉MF佐藤勇人は「一番恐れているのは選手が集まって練習しているところに自分がいないということ。これからもっと引退というものを感じるのかもしれない」と現在の心境を語った。

 市原ジュニアユースで初めてクラブの門を叩き、足掛け24年間にわたって所属。FW佐藤寿人との双子としても知られる千葉のバンディエラが、愛するクラブでユニフォームを脱いだ。市原の同期、アカデミーの後輩、そして師匠のイビチャ・オシム氏——。多くの関係者が登場した引退セレモニーからは、ここで過ごした時間の濃密さが感じられた。

 すでに昇格の可能性もなく、降格の懸念もない最終節は弟・寿人とともにベンチスタート。「スタートで出たかったのは本当だけど、足の状態が良くないということで、スタートで出られる状態じゃなかったのが情けない。エジさん(江尻篤彦監督)はスタートで使いたいと言ってくれたが、そこまで戻せなかったのに悔いが残る」と複雑な思いがあった。

 それでも、チームの成績が悪い中でもフクアリには満員のサポーターが集結。「スタジアムに入るまでは引退の実感が湧いてなくて、昨日寝る時もいつもどおり眠れた。ただ、いつもと違うフクアリの光景を見ていて、みんなが自分のユニフォームを着てウォーミングアップをしていて実感が湧いてきた。試合前から危なかった」と気持ちは昂ぶった。

 キックオフから出番が来るまで間は、さまざまな思いを胸にスタジアムを眺めていたという。「観客を見たり、雰囲気を見たり。来年からは今の視線で見られないので覚えておこうと」。出場意欲はもちろんあったが「難しくて」と佐藤勇。「出たいという思いと、出たら終わっちゃうという思いと。プレーしているほうが見ているより早く終わっちゃうから」。

 それでも後半23分、ついにお呼びがかかった。ゴール裏からは盛大なチャントが鳴り響き、スタジアム全体は大きな拍手に包まれた。チームは3分後、セットプレーを起点とした波状攻撃から失点を喫し、そのまま反撃に出ることはできなかったが、背番号7は愛するピッチで約25分間にわたって走り続けた。

「感情的に寂しい気持ちになるのかな、泣いてしまうのかなと思っていたけど、そういうのがなかった。20年間やり切ったのかなという気持ちがその瞬間は強かった」。そう感じたのは敗戦のせいもあるだろう。「最後は勝って終わりたかったし、叶わなかった悔しさと、これだけ多くの人が来てくれて勝つことを見せられなかった悔しさがある」と振り返る。

 それでもセレモニーを終えて場内を一周しながら、感謝の気持ちは溢れてきた。「これだけ長くいたので、顔を見たら分かるファン・サポーターの方々もたくさんいて、一つ一つの言葉、ありがとうとみんな言ってくれたけど、自分のほうがありがとうと伝えたかった。皆さんがいなかったら、ここまで続けられなかったのは間違いないので」。

 そんなサポーターには入場時の『アメージング・グレース』を歌ってくれるように願い、背番号7は「共に歩もう」の大合唱に包まれた。「水戸戦の試合後にも歌ってくれて、台風被害で千葉県全体が辛かったこともあって自分たちには響いていた。自分の中で特別な曲。ジェフの中でこれからも残っていく素晴らしい曲。歓喜の瞬間に歌ってもらえるよう、そういう歴史を作りたい」。そんな思いのこもったリクエストだった。

 セレモニーでも明かされたように、佐藤勇は今後もクラブに関わり続ける意向だ。まずは自らの原点となったアカデミーに強い思いを向けている。「どういう仕事に就くかは分からないけど、ジェフが良い方向に進んでいくためにはアカデミー出身の人が多くならないといけない。そういうクラブにしていきたい」。

 また「(過去最低の17位という)順位にも表れているとおり、全くと言っていいほど良い時がなかった。それくらいシビアなことを言うくらいの状態」と厳しいシーズンを支えてくれたサポーターの思いも背負っていくつもりだ。囲み取材の中では「自分にできること、自分にしかできないことはたくさんある」と何度も口にしていた。

「このままじゃいけないと思うし、サポーターもファンも(セレモニーの)挨拶を聞いて我慢した部分があると思う。ぶつけたいものもあったと思うけど、我慢してくれた。そう言う思いも感じてクラブにはやってもらいたいし、今年は静かだったねで終わってはいけない。意図をくんで次に向けてやっていきたい」。

 そうした熱い言葉からも感じられるように、佐藤勇はこのオフシーズンからフル稼働する。試合前に妻にメールで「休むつもりはないからよろしく、と伝えた」といい、クラブとは「とことんぶつかっていきたい。これ以上、下に落ちていくことはさせたくないし、自分もそんなのは見たくない」との覚悟。自身が復帰したシーズンからJ2在籍10年間。停滞感を打破するため、佐藤勇人の次の戦いはすでに始まっている。

(取材・文 竹内達也)
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