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西川潤の前に3年間立ちはだかった“選手権の壁”。「無駄にしない」と誓い、新たなステージへ

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インターハイ優勝校・桐光学園高は神奈川県予選決勝で敗退。注目のU-20日本代表FW西川潤主将は全国舞台に届かなかった

[11.30 選手権神奈川県予選決勝 桐光学園高 0-1 日大藤沢高 ニッパ球]

 今年は高校生ながらC大阪からJ1デビューを果たし、“飛び級”でU-20ワールドカップに出場。インターハイでは名門・桐光学園高に初の全国タイトルをもたらし、わずか1か月前にはU-17ワールドカップで世界を驚かせた。

 FW西川潤主将(3年、C大阪内定)は“衝撃的な”インターハイでの5人抜きゴールを決めるなどチームを全国準優勝へ導き、AFC U-16選手権でアジアタイトル、大会MVPを獲得した昨年に続いて2019年も、高校サッカーシーンの中心にいた。だが、今年も彼の前に立ちはだかった“選手権の壁”。注目レフティーは選手権で十分な活躍することができないまま高校生活を終えることになった。

「今日、勝たせられなかったこと、自分の役目を果たせなかったことが一番悔しい」

 ピッチで流した涙は、敗戦から暫く時間が経った後にも再び溢れ出てきていた。記者からの質問に言葉を詰まらせ、目を赤く染めながらもしっかりと応えていた。決勝戦では、序盤からこの試合に懸ける思いを表現するかのように、遠目からでもシュートを打ち込み、球際で身体を投げ出すようなプレーも。一方で体勢の良い味方を見逃さずに配球するなど、チームが押し込む一因を作り出していた。

 だが、決定的なヘッドが相手GKに阻まれるなど無得点のままハーフタイムへ。すると、後半は日大藤沢高に少しずつペースを握られて行ってしまう。そして、後半9分に失点。西川は16分にMF神田洸樹(3年)のラストパスから右足を振り抜くシーンがあったが、角度の無い位置から放った一撃は再び日大藤沢GK濱中英太郎(2年)に止められてしまう。

 後半に西川が放ったシュートはこの1本だけ。攻撃を作る部分に参加しながら、「ロングボールの応酬になってくると思ったので、上手く下がってというよりも前で転がってきたものを詰めようとか、その感覚だけ研ぎ澄ませていました」という西川は1チャンスを狙い続けた。

 だが、自身とチームメートの中にあった焦りを払拭することはできなかった。試合終盤も相手を飲み込むような圧力をかけることはできず、0-1で涙を飲む結果に。「いかに冷静に保てさせることができるかというのが、キャプテンの仕事だと思いますし、そういう力とか思いというのが全然足りなかったと思います」と唇を噛んだ。

 大会直前にU-17ワールドカップ参加のために1か月間不在となるなど、今年はC大阪や年代別日本代表に帯同する時間が長く、桐光学園のチームメートとともに練習した時間は十分なものではなかった。どこにいても桐光学園のことを気にかけ、副主将のMF中村洸太(3年)らと連絡を取りながら状況を把握。チームに戻ってくれば、誰よりも一生懸命にボールを追い、背中で仲間を引っ張ってきた。そして、インターハイは準々決勝、準決勝で2試合連続決勝点を決めるなど初の日本一に貢献。だが、選手権では主将として、チームを助け、勝たせることができなかった。

 他の高校生ではできないような経験をしてきた彼だが、選手権では結果を残すことができていない。1年時は県決勝でPK戦の末に敗れ、昨年は初の選手権出場を果たしたものの、全国1回戦で大津高に0-5で大敗している。今年の選手権を「獲りたいです」と言い切ったのも、心からその思いを持っていたから。だが、最後の選手権は再び全国舞台に立てないまま終えることになった。

「1年の時から選手権は予選で敗れましたし、2年生は出れましたけれども、出た初戦で大敗しましたし、今回も本当に桐光学園での選手権という意味では満足行くという結果を残せなかった。自分がもっともっとチームを引っ張ってやっていけば良かったという思いがあります」

 選手権では結果を残すことができなかった。だが、この敗戦は彼を大きく飛躍させるはずだ。1年時の選手権予選決勝敗退、2年時のインターハイ決勝敗戦や選手権全国初戦敗退など、彼は敗戦を経験するたびにそれをバネに大きく成長し、周囲を驚かせてきた。今回の敗戦は高校生活で一番悔しいもの。試合直後はまだ心を整理することができていなかったが、こみ上げてくる悔しさを彼はサッカーにぶつけてまた進化するだろう。

「この敗戦というのを無駄にしたら意味が無いですし、今までもこういう悔しい思いをして乗り越えようとやっていたので、敗戦というのを無駄にしないようにしていきたいです」

 まだリーグ戦を残しているが、桐光学園のスタッフや仲間には「感謝しか無いです」とコメント。そして、間もなく始まるプロ生活へ向けて「この3年間の思いを忘れずに、次のステージも戦っていきたいと思います」と静かに誓った。この敗戦を必ず力に変えて、仲間たちや支えてくれた人たちにまた進化した姿を見せる。



(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校選手権2019

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