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試合前日に涙も…桐蔭横浜大を一つにした主務の思い、指揮官も「こんな良いミーティングはない」

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試合前日のミーティングを提案した桐蔭横浜大の主務を務める石井康輝(左端)

[12.14 インカレ2回戦 桐蔭横浜大1-0常葉大 柏の葉]

 選手一人ひとりが思いを伝えた。涙を流して心境を吐露する選手もいた。試合前日に選手主導で行われたミーティング。提案したのは桐蔭横浜大の主務を務める石井康輝(4年)だった。

 石井をアクシデントが襲ったのは今年の2月だった。安武亨監督が「開幕スタメンで右SBに入る予定だった」と語ったように順調な成長を見せていたが、「右の前十字を負傷して3月に手術をして、実戦復帰は難しいと思った」。サッカーを辞めようと考えた。その旨を指揮官に伝えると、返ってきたのは「主務として、分析官として戻ってこないか」という言葉だった。プレーできないのなら辞めようというのは本心ではなく、「本音は辞めたくなかった」という石井は「本当に嬉しかった」と受け入れ、今までとは違う形でサッカーに携わることになった。

「分析をやったことはなかった」が、与えられた任務を全力でこなす。その姿を見ていた仲間は、「素人で下手な分析をしっかりと聞いてくれたし、体現して結果につなげてくれた」。また、安武監督も石井の分析を元に「ミーティングをしたり、練習に取り入れてくれた」ことで、「チームの力に少しはなれている」と感じられた。一時はサッカーを辞めようと考えた男は、自身の力で新たな“居場所”を見つけた。

 大学生活最後の大会。それが初となるインカレの舞台となった。石井はチームに悔いを残してほしくなかった。「しれっと大会に入って、しれっと負けたら、1年間やってきたことが無駄になると思った。(総理大臣杯の関東予選となる)アミノバイタルカップでは不完全燃焼で大会が終わってしまったので、インカレではそういうことがないようにしたかった」。そして、「チームへの思いやインカレへの意気込みを話してもらい、その思いを皆で共有して士気を高めたかった」と試合前日のミーティングを提案し、インカレ登録メンバー一人ひとりに思いを語ってもらった。

 下級生から思いを伝え始め、4年生に順番が回ってくると熱は増した。通常ならば4年生になると就職活動に専念する選手も出てくるが、今年の4年生は全員がサッカーを続けてきた。誰一人欠けることなく、「皆で色んなことを乗り越えてきた」からこそ、胸に熱いものを秘めた選手が多かった。安武監督が「悔しい思いが特に印象に残った」と振り返ったように、全員がピッチに立ってチームに貢献してきたわけではない。悔しい思いを味わった選手も当然いた。

 今季の関東大学リーグで2位に躍進し、インカレ初出場を決めたこともあり、周囲からは「桐蔭は強くなった」と言われることも多くなった。しかし、ある選手は「チームがそう言われるのは嬉しいけど、嬉しい半面、自分が関われていない悔しさもあった」と心境を吐露。試合に出られない悔しさはあるはずだと周囲も感じてはいただろう。しかし、言葉にすることで、その思いはストレートに伝わってくる。「4年生が話し始めたら感動もあって、泣く場面もあった」と石井が語り、キャプテンのDF眞鍋旭輝(4年=大津高/山口内定)が、「1年間サブだったGKの児玉(潤)の言葉を思い出すと、今でも泣きそうになる。思い出しただけでもヤバい」と前日のことを思い出して、目に涙を浮かべたほど仲間の言葉は胸に響いた。

「こんなに良いミーティングをしたことはないというくらい、昨日のミーティングは良かった。僕らも最後に話そうとしたけど、必要はなかった。チームがグッとまとまったのを感じた」(安武監督)

 迎えたインカレ初戦。先発としてピッチに送り込まれた選手たちは、今まで以上の責任感を持ち、一丸となって試合に臨んだ。10番を背負うMF鳥海芳樹(3年=桐光学園高)は「自分が辛いときにベンチやスタンドを見たら、『もっと走ろう』という気持ちになったし、きついときでも一歩が出た」と仲間の思いとともに戦った。押し込みながらもスコアをなかなか動かせない厳しい試合となったが、後半25分に鳥海が「思いが詰まったゴール」(安武監督)を叩き込み、インカレ初白星を獲得したチームは準々決勝へと駒を進めた。

「ただ勝ちたい、ただサッカーが好きなだけじゃない。いろいろな人の思いが詰まって、このピッチに立っている。強い思いを持って試合ができた。良い経験ですよね。学生スポーツっぽいな、良いなって思いました」。選手の力によって結束を強め、見事な勝利を収めたチームを見た指揮官は、そう笑った。

 石井が今大会でピッチに立つことはない。しかし、常葉大の分析をこなし、ミーティングを提案するなど、「僕の力はほとんどない」と謙遜した男がインカレ初勝利に貢献したことは間違いないだろう。「自分を康輝くんの立場に置き替えたら、すごくつらかったと思うけど、そこから分析をしてチームを助けてくれている。だから、一番は康輝くんのために頑張りたい」と鳥海が話したように、選手たちはチームを支える男に勝利を届けようとしている。そして、石井は「日本一になる力を持っているチーム。力を最大限に引き出してほしい」と仲間が頂点に導いてくれることを信じている。

(取材・文 折戸岳彦)
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