beacon

「もう2人で一緒にできないんだと思ったら…」涙の東園大神谷ツインズ、ラストマッチでホットライン開通

このエントリーをはてなブックマークに追加

兄のDF神谷凱士(左)と弟のFW神谷椋士

[12.14 大学選手権2回戦 関西学院大4-2東海学園大 浦安]

 生まれてから22年、全ての時間を共にしてきたと言っても大げさではない。一緒に始めたサッカー。一緒にプレーできない日が来るとは考えもしなかった神谷ツインズが、“ラストマッチ”を戦い終えた。

 試合終了の瞬間、弟のFW神谷椋士(りょうと)の頭に真っ先に浮かんだのは、「もう2人で一緒にサッカーができないんだ」という想いだったという。兄のDF神谷凱士(かいと)も同じ。2人の頬を自然と涙が伝っていた。

 ただサッカーの神様は“ラストマッチ”にしっかりとプレゼントを用意していた。前半7分、凱士がDFラインから蹴ったロングボールに椋士が反応。裏に抜け出した椋士が落ち着いて沈めた。

 これまで何度あっただろうか。精度の高さを誇る兄のキックを信じて、爆発的なスピードを持つ弟がスペースに抜ける。試合には勝つことができなかったが、神谷ツインズの真骨頂ともいうべきホットラインを開通させる意地をみせた。

「凱士からいいボールが来たので、自分があと決めるだけだった。これまでもでも同じような形が何回かあったけど外していて。あいつには申し訳ないことをしていた。こういう全国の舞台で決めることができて、アシストがつけれたのは良かったと思います」

「あそこは椋士しか走れないと分かっていて、これまで何回もああいうシーンがあった。最後の最後でこういうホットラインが決まったのは、嬉しいですし、椋士もどこか行ければいいなと思います」

 二卵性の双子。そのため体格や特長、サッカーのプレースタイルも異なる。幼少期は椋士の方が大きかったという身長も、小学校に入ってからは逆転。今では10cmの差がある。ポジションも中学時代まではともに攻撃的だったが、高校に入ると凱士がボランチに転向。さらに大学に進むと、凱士は安原成泰監督の勧めもあり、DFに転向した。

 ただこの転向が凱士の運命を変える。当初は戸惑いもあったというが、SBやCBと複数のポジションを経験することで幅を広げた。さらに左足からの精度の高いキックは最終ラインに入ることで、より希少性を増した。今では「DFへの転向がなければ、プロになれたかどうかも分からない。本当に安原さんには感謝しかないです」と話すことが出来る。

 そして最も大きな違いは卒業後の進路で出た。現時点では凱士だけが夢のプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせる権利を得ている。今春、スカウトが集結するデンソーチャレンジに東海選抜の一員として参加すると、チームは6位という成績だったが、大会ベストイレブンを獲得。個人として強烈なインパクトを残した。

 注目DFには複数のクラブが注目しており、サガン鳥栖や京都サンガF.C.からも話を貰っていたという。そんな中で凱士はJ1の強豪・川崎フロンターレへの入団を決めた。練習参加は10月。練習を離れるときにオファーを貰い、よりレベルの高い環境でやりたい凱士の考えも一致したため、入団はすぐに決まった。

 しかしそのことで今大会は今までにないプレッシャーを感じながらのプレーになったという。「実際すごいプレッシャーがあった。変なプレーが出来ないという今までに感じたことのない重圧がありました」。そんな中で頑張ってくれたのが、椋士を含めた4年生だった。「4年生が初戦で僕以上に頑張ってくれたので、気持ちが楽になった。2回戦は自分らしいサッカーが出来たかなと思います」とここでも“ツインズ”への感謝を語った。

 一方で椋士は卒業後の進路が決まらないままでいる。プロ志望で今大会での最終アピールを目指していたが、夢が叶うかどうかは分からない。それでもまだ夢は諦めたくないという。2人で切磋琢磨してきらからこそ今がある。今後は互いに活躍の場を変えるかもしれないが、サッカーを続ける限り、意識し合える関係性を変えるつもりはない。

(取材・文 児玉幸洋)

●第68回全日本大学選手権(インカレ)特集

TOP