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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:使命(名古屋グランパスU-18・田邉光平)

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名古屋グランパスU-18MF田邉光平

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 号泣するチームメイトたちを慰めていても、不思議と涙は出てこなかった。「なんか泣けなかったですね。今年1年が充実していたのもあって、良い仲間にも恵まれていましたし、いろいろな人に支えられて、いろいろな舞台で良い経験をさせてもらってきたので、今日は本当に感謝の想いを込めてプレーをしました。だから、悔いは残りますけど、『出し切ったな』という感じです」。託されていた使命は、きっと果たした。名古屋グランパスU-18のグラウンドマネージャー。田邉光平は歓喜に湧く表彰台のライバルたちをしっかりと見据えながら、いつまでも祝福の拍手を送り続けていた。

 古賀聡監督就任初年度となった2018年は、復帰した高円宮杯プレミアリーグでWEST3位、クラブユース選手権でベスト8、Jユースカップでもベスト16と確かな成績を残しつつ、成瀬竣平、藤井陽也、松岡ジョナタンと3人のトップ昇格者を輩出するなど、一定の成果を挙げてみせた名古屋グランパスU-18。年が明けた1月。新チームを立ち上げるに当たり、彼らは自分たちで目標を掲げる。

 狙うは“三冠”。クラブユース選手権。Jユースカップ。そして、WESTを制した先にある高円宮杯プレミアリーグファイナルでの勝利。この三大タイトルを獲得することで、『ユース年代史上最強最高のチームになる』という明確な青写真が共有される。その集団を束ねる役職としてキャプテンに牛澤健、副キャプテンに新玉瑛琉、グラウンドマネージャーに田邉光平と、いずれもU-12からグランパスで育ってきた3人がそれぞれ就任した

 聞き慣れない“グラウンドマネージャー”とは、古賀監督が前任の早稲田大学時代にも設けていた役職。本人はその意味合いをこう語る。「ピッチの中でのモラルを上げたり、練習の中で『チームとして、クラブとして大切にして行こう』という基本的なモノをみんなに波及させていく役割で、チーム戦術ではなく、個人の戦術眼や技術、判断の部分という所を彼が中心になって、下級生も含めて引き上げていくような役割です」。

 その上で田邉について、指揮官は「サッカーを良く知っていますよね。俯瞰してゲームの状況を見ている所があるので、それを自分だけじゃなくて、周りにも伝えて、チームとして今やらなくてはいけないことをチームの中で共有できるので、彼が一番適任かなと思いました」と高い評価を。こうして成瀬に続くグランパスU-18の“2代目グラウンドマネージャー”は、10番を背負うチームの司令塔に託された。

 話を聞いたのはクラブユース選手権のグループステージ最終日。ヴィッセル神戸U-18を4-1で一蹴した上に、キャプテンマークを巻く田邉もゴールを記録しており、「なかなか点が取れていないので、嬉しかったです。『ヤッター!』って思いました」と満面の笑顔。とはいえ、そのあとは少し照れくさそうに笑いながら、穏やかに言葉を紡いでいく姿に控えめな性格が滲み出る。

「周りにサポートしてもらいながらやっている役職なので、自分だけがピッチ内で声を出すという訳じゃなくて、1つのミスや1つの成功にみんなでしっかり声を掛けて、『ここからどうしていこう』という話はチームとしてできていますし、そこはみんなで創り上げていくものだと思っているので、全員でやっていきたいなと思います」。“みんな”や“全員”というフレーズが何度も口を衝く。

 物事を俯瞰して見ることのできる能力は、自身すら客観的に捉えてしまう。「下だと鷲見(星河)とか(武内)翠寿とかうるさいですね。何でも口にしてきます。でも、僕はあまり言われないので、たぶんイジりにくいんだろうなと(笑) 僕はうるさいキャラじゃないので」。ピッチ外では牛澤や新玉と協力しつつ、ピッチ内と同様に巧みなポジショニングを取っているようだ。

 取材を終えた帰り際。チームの荷物を運んでいた田邉を見つける。「コーチが運んでいるので、そこはもう『やらないとダメかな』と思ってやりました。ピッチ外でやれることは3年生でも1年生でも全員でやっていかないといけないと思っているので、自分から率先してやっている所はあります」。話すのは上手くないと自ら公言するグラウンドマネージャーの行動は、きっと多くの仲間にも響いているに違いない。

「彼の中でもなかなか想いが伝わり切らないジレンマも感じていたはずですが、この大会を通じて表現力が付いてきているので、より良い方向にチーム全体を引き上げられる存在になっていっているのではと思っています」と古賀監督もその成長を認める田邉は、1人で黙々と荷物を運んでいたちょうど1週間後、チームキャプテンとして西が丘の夜空に優勝カップを掲げていた。見事に獲得した“1冠目”のタイトル。そして、ここから若鯱のさらなる快進撃が幕を開ける。

 プレミアWESTでは怒涛の8連勝を飾り、一気にG大阪ユースをかわして首位へと浮上。特に攻撃面では5試合で17得点と勢いが止まらない。そのままの流れで突入したJユースカップも、1回戦で難敵の横浜F・マリノスユースに5-1と圧勝すると、準決勝でも大宮アルディージャU18相手に苦しみながらもPK戦を制し、迎えたファイナルではガンバ大阪ユースに4ゴールを叩き込む圧倒的な得点力を披露して、堂々の“2冠目”を獲得。「ずっと負ける気はしなかったですね」と田邉も話すように、ひたすら勝利だけを重ねていく。

 さらに11月末には、2試合を残した時点でプレミアWESTの優勝も決定。“2冠半”を達成する。リーグ最終節ではガンバ大阪ユースに敗れたものの、6月から続いた公式戦の無敗は何と25試合。負傷離脱する3年生の主力選手も少なくなかった中で、その穴を埋める下級生の活躍も目覚ましかった。

「後期になってケガ人も増えてきて、その中で替わった1,2年の選手が物怖じせず、堂々とプレーしている姿を見て、『本当に凄いな』と率直に思っていましたし、普段から強度の高い練習をやっている中で、相手として対峙する1,2年の選手に自分たちもやられることが多々あって、試合に出ることによってまた成長していっていると思います」という田邉の言葉は、すなわち古賀監督がグラウンドマネージャーに期待していた役割をきっちり果たしてきたこととイコールで繋がる。

「このチームはこの1年間『全員でやろう』という言葉を、本当に“全員”で掲げていて、(石田)凌太郎であったり、特に3年生のケガしている選手がいる中で、その想いも背負ってとか、人のためにやることが力になってきて、自信も付いてきたなと思います」(田邉)。目指してきた“三冠”までは、あと1勝。『ユース年代史上最強最高のチーム』までは、あと1勝。

 ピッチ上にバーバリアンレッドの選手たちが崩れ落ちる。12月15日。高円宮杯プレミアリーグファイナル。EAST王者の青森山田高と激突した最後のゲーム。一時はグランパスも2点差を追い付いたものの、突き放された1点を跳ね返すことはできず、2-3でタイムアップの瞬間を迎えた。キャプテンの牛澤と一緒に、田邉は号泣するチームメイトたちを慰めていても、不思議と涙は出てこなかった。

「なんか泣けなかったですね。今年1年が充実していたのもあって、良い仲間にも恵まれていましたし、いろいろな人に支えられて、いろいろな舞台で良い経験をさせてもらってきたので、今日は本当に感謝の想いを込めてプレーをしました。だから、悔いは残りますけど、『出し切ったな』という感じです」。託されていた使命は、きっと果たした。

 先に準優勝の表彰を終えたチームの代表として、額に入った賞状を両手に抱えていた田邉だったが、表彰台の上で優勝を喜ぶ青森山田の選手たちへ、少し持ちにくそうな賞状をずらしながら拍手を送り続ける。「素直に勝った方がチャンピオンだと思うので、強さという部分で上回られたのは事実ですし、自分たちが負けたことも受け止めなくてはいけないことなので、あの光景を忘れないように、また次に繋げていきたいと思って、拍手をしていました」。それはいつも浮かべている柔和な笑顔とは裏腹に、実は頑固な一面も持ち合わせているグラウンドマネージャーが覗かせた意地だったのかもしれない。

 ミックスゾーンに現れた田邉の表情は、どこかスッキリとしていた。掲げた“三冠”への想いを問われても、「実際1つも獲れないんじゃないかというのはあったんですけど(笑)」と周囲を笑わせながら、「今年のシーズン前から『全員でクラブユースは獲ろう』って言っていたことで、クラブユースを獲ることができて、Jユースを迎えて、『これも行けるんじゃないか』ってなっていったので、本当に勝てるチームになれたんじゃないかなと思います」と語る口調もいつもと変わらない。

 試合後の会見で、古賀監督は教え子たちについてこう語っていた。「今年は『ユース年代史上最強最高のチームを目指そう』ということで臨んできて、最後の最後で三冠を成し遂げることはできなかったですけど、3年生はトップに上がる選手を除いて、ほとんどの選手が大学に進んでいく中で、大学でも1年生から公式戦で活躍をして、1年生や2年生の時から特別指定でグランパスの試合に出る、グランパスのトップチームに戻ってくると。それが何人出てくるのかが、これから本当の意味での勝負だと思っていますし、それができれば、今日は負けましたけれども、『最高最強のチームである』ということが言えると思っています」。

 大学へ進学する田邉にとって、小学生の頃から10年間身に纏ってきたグランパスのユニフォームに袖を通すのも、これでいったん一区切りとなる。「本当に実感がなくて、本当に着なくなっちゃうのかなという気持ちはまだ湧いていないんですけど」と前置きしながら、続けた言葉に確かな決意が滲む。

「自分たちにはまだまだ次のステージが待っていますし、そこでしっかり活躍して、この学年の選手たちがたくさんプロになるということが本当に“使命”になってくると思うので、最後に負けてしまったのは悔しいですけど、良いふうに捉えたら、ここで勝っていたら、もしかしたら全員が満足していたかもしれないですし、ここで完全燃焼してはいけないと思うので、またグランパスというクラブにプロとして帰ってきて、タイトルを掲げられるように頑張っていきたいと思います」。いつも浮かべている柔和な笑顔を携え、田邉は通路の向こう側へ消えていった。

 託されていた使命は、きっと果たした。それはチームの残した成果や、チームを取り巻く明るい雰囲気が、何よりもそれを如実に物語っている。それぞれがそれぞれの場所で『最高最強のチームである』ことを証明するために、次の4年間で背負う新たな“使命”も決して簡単ではないが、その未来にチャレンジし続けるだけの大きなエネルギーと可能性を田邉は十分に秘めている。

 名古屋グランパスU-18のグラウンドマネージャー。田邉光平。彼が1人で黙々と荷物を運んだ時間の先に、表彰台の下から送り続けた拍手の先に、そしてミックスゾーンで語った決意の先に、次の“使命”を果たすための新たな日々は力強く続いているはずだ。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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