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[MOM3110]富山一FW碓井聖生(3年)_6年前の劇的優勝に憧れ…劣勢跳ね返す同点ボレー弾

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同点弾を決めた富山一高FW碓井聖生(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.31 選手権1回戦 富山一高 2-2(PK4-3) 立正大淞南高 浦和駒場]

 あのとき見た光景に憧れて――。富山一高(富山)は5年連続30回目となる選手権出場で、1回戦・立正大淞南高(島根)と対戦。1-2で迎えた後半33分、FW碓井聖生(3年)の豪快ボレー弾で2-2の同点とした。追いついた富山一はPK戦の末に4-3で勝利。碓井にとって憧れの、6年前テレビで観たあの優勝の瞬間にまた一歩近づいた。

 試合後、大塚一朗監督は碓井が「点の取れないセンターフォワード」と冗談半分で揶揄されていることを明かし、碓井も「本当です」とはにかみながら認めた。この試合でも碓井はなかなかゴールに向かうことができない。1-2でチームが劣勢に立たされた後半32分には絶好機も。右サイドからクロスが上がると、ファーサイドの碓井はノーマーク。しかしヘディングで合わせたシュートはゴール左にわずかに逸れていった。「ヘディングは苦手。慌ててしまった」と振り返る碓井。外した直後には地面を強く叩き、悔しさを露わにした。

 だが、チャンスは1分と経たずに再び到来。後半33分に右サイドのDF浦崎廉(3年)からクロスが上がる。またしてもファーサイドには碓井。トラップやヘディングは「選択になかった」。再び来た絶好機をまた逃すわけにはいかない。一番得意とする右足ボレーをゴールに叩き込み、「人生で一番綺麗な形」と手応え十分の全国初ゴールを決め切った。2-2と振り出しに戻した富山一はその後PK戦で勝利。碓井の同点弾が初戦突破に大きく寄与した。

 富山一は2013年度の選手権で初優勝。星稜高に0-2とリードされながらも終盤2得点で同点とし、延長戦で劇的な逆転優勝を成し遂げた。小学校6年生だった碓井は自宅のテレビでその雄姿を見届け、「日本一というのが大きく響きました」と富山一への進学を夢見たという。

 優勝の光景を観た子どもたちは今年高校3年生に。富山一の主力となり、夏のインターハイでは桐光学園高との決勝戦に臨んだ。しかし0-0の後半終了直前に失点を喫し、一瞬で優勝が消滅。「悔しさが一番。(優勝が)目の前で遠ざかってしまった」。準優勝という結果が、最後の舞台に懸ける思いをより強いものに変えた。

「その忘れ物を取って富山県に帰りたい」と臨んだ最後の選手権で、碓井はゴールという殊勲を立てた。点が取れない碓井の成長を見守り続けた指揮官も「おまえなら絶対できるって励ましていた。いいところで本当にいいゴール」と目を細める。6年前に逆転優勝を成し遂げた教え子たちと今の選手たちの姿を重ね、「劣勢を跳ね返すような力を、伝統を引き継いでくれている」とその成長を称賛していた。

 しかし碓井は最高の勝利を全力で喜べず。なぜなら3人目のキッカーを務めたPK戦で、ゴール上に大きく外してしまったからだ。「思いっきり打ったらやっちゃいました」と落胆。結果的にGK中村純四郎(3年)の活躍で勝利を得たが、碓井はPKの失敗で一気にどん底の気分を味わった。「(中村に)感謝の気持ちでいっぱいでした。次の試合で(中村が)楽になれるように。自分が点を決めたいと思います」。全力で喜ぶのは頂点に立ったときでいい。そのときを迎えるために、再びゴールネットを揺らしてみせる。

(取材・文 石川祐介)
●【特設】高校選手権2019

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