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[MOM3113]大手前高松MF滝平昂也(3年)_策略込めた超ロングスロー「観客を沸かせるくらい投げてくれって」

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ロングスローを投じる大手前高松高MF滝平昂也(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.31 全国高校選手権1回戦 帝京大可児高0-1大手前高松高 オリプリ]

 追い風に乗ったボールはぐんぐんと伸び続け、勢いを保ったまま相手GKの手を弾いた。「ハーフタイムに観客を沸かせるくらいは投げてくれって言われて、1回目で結構飛んだので今日は行けるなと思った」。力技というほかない50m級ロングスローで決勝点を演出した大手前高松高MF滝平昂也(3年)だが、その頭の中にはさまざまな策略を巡らせていた。

 近年の県代表をほぼ独占していた高松商、四国学院大香川西を押しのけ、初めて全国選手権の舞台にたどり着いた大手前高松。その中心にいるのがトップ下を務める滝平だ。高い運動性と献身性を活かして攻守に奮闘する傍ら、最大の武器はロングスロー。県決勝の香川西戦でも約40mのスローでオウンゴールを誘発し、初の県制覇に大きく貢献した。

 そんな武器は全国の舞台でも牙を向いた。風上に立った後半8分、特大級のロングスローでニアサイドを攻略すると、味方のシュートはクリアに遭うも会場の大きなどよめきを誘発。すると11分、今度はファーサイドをストレート性のボールで狙ってGK安江翼(3年)の手を弾くと、クロスバーに当たったボールにMF谷本将虎(3年)が詰めて貴重な先制点が入った。

 試合後、殊勲のゴールを決めた谷本は「投げてくれた滝平くんがおらんかったら、あの点はなかった」と笑みを浮かべながら語ったが、これは単なる謙遜の言葉ではないだろう。オフサイドがないためセットプレーの中でも処理が難しいロングスローだが、低弾道で混戦に次々と投げ込むことが可能なため、守備側のミスはなかば約束されたものとなっている。

 もっとも、そうした力技の成功率を上げるためには、事前の綿密な分析も欠かせない。「監督とかコーチが相手を研究するのが好きなので」と指導陣をたたえる滝平だが、相手GKの特徴はインプット済み。この日はGKがゴール前からあまり飛び出してこないタイプだったため、ニアやファーに外したエリアを狙っていたという。

「ビデオでもあまり出てこないというか、ゴールで守るGKでチャレンジはあまりしてこないという情報があった。そこで一回挑戦してみたら出てこなかったので、ファーでも行けるなと思って投げた」。ただただ指導陣からの情報を信じて実行するだけでなく、ピッチ内での試行錯誤も怠っていない。

「僕たちもプレーの中でここはどうしたらいいかを監督に意見を言ったり、選手の気持ちを聞いてもらったりしている。そうやって進んでいって、このフォーメーションで行こうとか、この配置で行こうとか話し合っている」。相手の分析はセットプレーだけに限らず、さまざまな局面で役立っているようだ。

 実際、この日は3バックと4バックのシステムを相手の出方に合わせて併用。プロ選手でも難しい対応も「全員が自立していたらできる」と力強く語った滝平は「このフォーメーションだったらこうなるという流れを選手も分かっている。監督・コーチが理解しているだけじゃなくて、自分たちが理解しようとしていることが大事」とチームに通底する積極的な姿勢を誇った。

 そんな滝平が考える今後の戦い方はロングスローだけの得点パターンからの脱却だ。本来、大手前高松は「蹴るサッカーが多い香川県で、パスサッカーで何かをしよう」という狙いを持つチーム。滝平や谷本をはじめ、地元街クラブであるFCコーマラントから豊富な人材が集まっているのも、そうした明確なスタイルに共感が集まっているからだ。

「僕たちはパスサッカー、美しいパスサッカーをすることをテーマにしている。その中で結果を求めていく。自分たちのサッカーをしないと、全国で最初のほうは勝てるかもしれないけど、上に行くほどセットプレーだけでは勝てない。だからこそ、パスサッカーを丁寧にやっていきたい」。気鋭の初出場校を支える背番号8は次戦以降、ロングスロー“だけじゃない”ところを見せていく。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2019

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