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藤枝順心、“成長”と“プライド”の激突を制し2大会ぶり4度目の優勝!!

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(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.12 女子選手権決勝 藤枝順心1-0神村学園 ノエビア]

 お互い追い求めてきたチームの姿が表れた決勝戦だった。

 前半、ペースをつかんだのは神村学園高(九州1/鹿児島)。4年前の決勝戦と同一カードとなったこの試合、神村学園キャプテンのMF菊池まりあ(3年)は、当時の映像を見返して「順心さんに勝って日本一を取れと言われてきた」という。

 前線からの激しいプレスで藤枝順心の攻撃を抑え込み、高い位置で奪えばショートカウンターを仕掛ける。前半15分には菊池からのクロスをFW塚田亜希子(3年)が右足ダイレクトボレーで合わせる。しかし藤枝順心(東海2/静岡)のGK松井里央(3年)が好セーブ。その後も体力を出し惜しみしない果敢なプレスで圧力をかけ、シュートは2本におさえる一方で5本を放った。

「前半からハイプレスでいって点を取る」というのがプランだった、と神村学園の寺師勇太監督は語る。「狙った攻撃の形もできていた。4年前とは手応えが違いました」。しかし「最後の最後でこじあけられない」。後半開始直後にもエンドライン際からのマイナスの折り返しを菊池がシュートするがクロスバーに。決定機の数では神村学園が上回るもスコアは動かない。

 もっとも、藤枝順心の監督も選手は「夏までのチーム状態だったら点を取られていた」と口をそろえる。「点が取れないのは前チームと同じ。そこで耐えきれず失点し、崩れてきたので1-0で勝てるチームができればとやってきた。辛抱強くなりました」と多々良和之監督。

「前半耐えたことが後半につながった」というように、後半15分、右サイドでボールを受けたFW池口響子(3年)がタッチライン際からボールを持ち込むと右足を振りぬく。クロスかと思われたボールはGKの伸ばす手の上を越え、そのままゴールへ。

 試合後のお立ち台では「絶対決めると思って狙って打ちました」と言っていたが、実は「あまり覚えてないですけど狙ってない(笑)」ゴール。ただ「流れがきていて、ボールを取ったらクロスを上げようと考えていた」とゲームを読む嗅覚はさすがだ。1年前の選手権では前十字靭帯を損傷していた。「そこから多くの人に支えられてきた。恩返しのゴールができて嬉しいです」。

 結局このゴールが決勝点に。多々良監督は「このチームの象徴的な試合」と選手たちを讃えた。「昨年のこの大会で初戦敗退した後、新チームは優勝できる力があると思っていたので『順心歴代最強を目指そう』とスタートしたんです。でも夏の総体で初戦負け。『歴代最強どころか歴代最弱じゃないか』という声もあがりました」。

 課題だったのは主にメンタル。力はあるが耐えきれない。辛抱できない。メンタルトレーニングを取り入れるなどして改善をはかり、U-18 WOMEN'S SUPER LEAGUEで浦和レッズレディースユースや日テレ・メニーナといったJクラブの女子ユースチームとの対戦や、県予選準決勝の磐田東との接戦(1-0で勝利)を越えて逞しさを蓄え、“成長”してきたことを決勝戦の大舞台で証明してみせた。

 一方、神村学園がこの決勝戦で見せたのは“プライド”だ。「ラッキーな組み合わせで勝ち上がってきたと思われたくなかった。なので、決勝も自分たちのスタイルを貫こうと。前半からハイプレスでとばしても後半運動量が落ちなかったことや、最後まで放り込まずに自分たちの形で点を取りに行ったところに成長を感じました」と寺師監督は胸を張る。

 今大会の組み合わせでは、藤枝順心側のブロックに日ノ本学園(関西1/兵庫)、十文字(関東5/東京)、作陽(中国1/岡山)、星槎国際湘南(関東3/神奈川)といった強豪が固まった。神村学園側のブロックも決して簡単ではなかったが、そういう周囲の目線に運だけではないことを見せつけたかった。

 たしかに失点後、前掛かりにならざるをえない状況下で、それでもほとんどカウンターを浴びなかった。前半とばしておいても90分間落ちなかった走力には凄みすら感じた。

 だからこそ「こんなに悔しいことはない」という。「日本一を狙える選手たちがいますので、また成長して、その時はもう一度決勝戦で藤枝順心さんとやりたいです」。消化しきれない悔しさを飲み込み、あえて饒舌に、さわやかに語ってくれた寺師監督。それもまた“プライド”だった。

(取材・文 伊藤亮)
●【特設】高校選手権2019

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