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榎本新監督の下、新生・流経大柏が3つのテーマを掲げてスタート。伝統守りつつ、新たな取り組みも続々

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榎本雅大新監督の下でスタートを切っている流通経済大柏高

 スタッフルームの入り口の壁には、けが人を除く全選手に対して改善ポイントと10点満点の評点が貼り出されていた。21日から25日まで、2年生40人によって初めて実施されている「最上級生合宿」では、全メニューのあとに2年生だけ特別メニューを行っているほか、「やり切ること」を目標に全員で計3200羽の鶴文字を作成し、23日には「殻を破る」ことを狙いとして大カラオケ大会。千葉の名門・流通経済大柏高は、榎本雅大新監督の下で伝統を守りつつ、新たな試みも加えながらスタートを切っている。

 流経大柏は、同校を全国高校選手権、全日本ユース(U-18)選手権、プレミアリーグで各1回、インターハイで2回の全国制覇へ導いた名将・本田裕一郎前監督が昨シーズン限りで退任。本田前監督の習志野高(千葉)監督時代の教え子で、流経大柏のコーチとして18年間チームに携わってきた榎本新監督は、「体力・体格強化」「人間力強化」「選手主体」を掲げてチーム作りを行っている。

 榎本新監督は「ピッチの上で起こることが全て。我々はピッチの外からしかアドバイスできない。選手を自立させることに最も重きを置いた」という。サッカーでは試合の中で起こっている変化に選手が気づき、修正点、打開点を見つけて対応できるチームになること、そして個々が社会に出ても通用する基礎力を身に着けた集団へ。全国2冠を達成した07年度世代やプレミアリーグを制した13年度世代、インターハイで優勝した17年度の世代も選手が自立していた。また将来、流経大柏からJリーグ上位のクラブ主軸となり、日本代表として活躍する選手を輩出するためにも、必要なことだと新指揮官は考えている。

 現在、コーチ陣が試合の前半に言葉を発することはほぼなく、ハーフタイムも選手同士でミーティング。後半開始前にコーチが“選手に刺さるような”一言をかけてスタートするというスタンスを取っている。これによって「(以前に比べて)良く喋るようになっている」(榎本新監督)。またリードされていても、ハーフタイムに的確な意見を出し合うなど選手同士で良いミーティングをすることができるように変わってきているようだ。

 スタッフルーム入り口、全選手が目にすることができる位置に貼られた選手評も、榎本新監督が新たに始めたことだ。「前線でよく動きチャンスを演出できていた。自分から引き出せる形を作ると良いと思う」「経験に裏打ちされる自信が見えない。自分がどう進化するか向き合え」など前向きなコメントや厳しい指摘も。また2年生A、1年生Aなどチームごとのできたこと、できなかったことも貼り出されている。

 これは2週間に一回ペースで更新するプランだが、スタッフの作業量も増加することに。それでも、榎本新監督は「コーチは大変だけど、フェアじゃないじゃないですか、選手はアピールしているのに俺たちが評価しないのは。その代わり、ちゃんとアピールしろよと。真剣にアピールして、俺たちも真剣に評価してフィードバックする。選手は頑張っているのに、こっちが『オマエ、ダメ』と一言で言っても、それは大人の世界の会話じゃない」。選手たちが掲げた目標はインターハイ、プレミアリーグ、そして選手権の3冠。だからこそ、「10点満点」は3冠を達成するような選手になった時に与えられることになる(現在貼られていたものは、10点満点で2~8)。選手たちの成長のタイミングを逃すことなく、コーチ陣も厳しい目を持って日常に取り組む意気込みだ。

 人間力は数値で測れるものではないだけに、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されている「社会人基礎力」(経済産業省)を参考として、グループワークをさせたり刺激を与えながら育成していく方針。また、「体力・体格強化」のために、これまで実施していなかったフィジカルトレーニングも取り入れていくようだ。新主将のU-18日本代表DF藤井海和(2年)をリベロ役に置いた3バックシステムや、攻撃時にはGKを3バックの中央に配置する形でポゼッションすることにも新たに取り組んでいる。

 ただし、“流経のスタイル”を変えるつもりはない。高校サッカー界のカリスマ的存在で、常に探究心を持っている本田前監督からバトンを受け継ぐ榎本新監督は、「流経の伝統のプレスとかサッカーの質をガラッと変えようとは思っていない。世にある流経のイメージを変えるつもりはありません」と言い切る。その上で「本田先生が残してくれた遺産を食いつぶしてもしょうがないので、それは選手と一緒になってチャレンジしたいなというのがある。後悔するよりも、ある程度思い切りやって『ダメだったか!』の方が良い。選手たちが3冠という目標を立ててきたことに対して、俺たちがどういうサポートができるか」と選手たちと一緒になって色々なことにチャレンジしていく考えを語った。

 今月21日から25日までは、2年生が校内の宿泊施設を活用して「最上級生合宿」を実施中。新3年生となる選手たちに「主役を張る自覚を持ちなさい」(榎本新監督)というメッセージを込めて、「やり切る」ことを求めている。朝6時半から駅伝大会のコースを走り、午後は全体練習後に合宿初日はダッシュ35本、2日目は300m×10本、3日目は900m×5本の走り。計3200羽の鶴文字も選手たちは無理だと感じながらも、「やり切る」を目指している。

 藤井は「(自分たちは)我慢だったり、『やり切る』というエノさん(榎本新監督)が言っていることが足りないと思う。走りも『やり切る』ということをスローガンにしてやっています」とコメント。そして、「一日目の100mダッシュよりは、(二日目の)一周走は全員が声を出して全員でチームと言う感じがして自分は凄く嬉しくて、全員で声を出してビリの選手とかも鼓舞して(タイム内に)入らせるような声がけがたくさんあって、もっと声のところでチームが良くなっていけば良いと思っています」と頷いた。

 榎本新監督が鶴文字を全員に折らせているのは「やり切る」ことを求めているだけではない。流経大柏では例年、保護者たちが選手のために鶴文字を作成。チームで「やり切る」ものを提示する上で、実際に鶴を折ってみたという榎本新監督は「(雑だったり)下手だと(鶴文字にした際に隙間ができて)白いのが入る。でも、(父母が折った鶴は)めちゃめちゃピタッ~と、白いところがない。ちゃんと、キチッと気持ち込めないと折れないです。物凄い時間と物凄い労力がかかっている。これは親の気持ちじゃないですか。親のこういう気持ちがあってピッチに立っている。(選手たちに知ってもらいたいのはサッカーを思い切りできる環境づくりなど)親が本気なのに、オマエらが本気じゃないのは失礼だぞと」。最上級生たちはその「本気」を知り、また「主役」になるために「やり切る」力の一つを身に着けようとしている。

 今年の流経大柏は1年時に選手権準優勝を経験した藤井や日本高校選抜候補GK松原颯汰(2年)に加え、昨年のプレミアリーグEASTでゴールを連発したFW森山一斗(2年)や選手権予選で活躍したMF三好麟大(2年)、快足SB清宮優希(2年)、突破力秀でた左SB田村陸(2年)、CB根本泰志(2年)、SB田口空我(1年)と経験者を多く残し、MF坂田康太郎(2年)やDF新宮海渡(2年)といった素材感のある選手たちもいる。

 その選手たちがユーモアもあり、書籍を読み漁っているという新指揮官と伝統を守り、新たな流経大柏を構築しながら、3冠を目指す。藤井はその印象について、「(榎本新監督は)チームの雰囲気を良くする声がけもしてくれたりしている。エノさん(榎本新監督)の言っていることは的確というか、そうだなと思わせてもらうことが多い。付いて行けば何かがあると思ってやっています」と語り、松原は「走りとか弱音を吐く選手とかエノさんの性格的なところもあって減ってきているし、走りの時とかもみんな良い雰囲気良くできていると思っています。(最上級生合宿は)厳しいとかシンドいが多いんですけれども、これを乗り越えれば、選手権やインターハイのシンドい時に乗り越えていけると思っています」と力を込めた。

 昨年は千葉県代表がインターハイ、選手権も初戦敗退。シード落ちしている。それだけに、20年はインターハイも選手権も最大6試合を勝ち抜かなければいかない。そして、Jクラブユース勢、高体連の強豪チームと年間計18試合で争うプレミアリーグEAST、WEST王者と戦うファイナルでの優勝は最大の難関だ。新指揮官は20年度に3冠を達成することがどれだけ難しいチャレンジであるかを選手たちに説いた上で、他のコーチ陣とともに選手たちを「本気」でサポートする構え。新生・流経大柏は「体力・体格強化」「人間力強化」「選手主体」を実現し、「本気で」3冠を勝ち取る。

(取材・文 吉田太郎)

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