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「日本にメッシがいる」敵将を脱帽させたブラインドサッカー代表戦士、菊島宙のすごさの秘密

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MVPに輝き、プレゼンターの元日本代表・永井雄一郎氏と並ぶ菊島宙

[2.22 さいたま市ノーマライゼーションカップ2020 ブラインドサッカー女子日本代表8-0 ブラインドサッカー女子アルゼンチン選抜]

 ブラインドサッカー女子日本代表の菊島宙が「怒り」をシュートにぶつけた。アルゼンチン選抜戦で全8得点をあげたが、うち5得点は、試合終了まで残り6分間で奪った。菊島は後半6分、相手選手と競りながらバランスを崩し、頭を強打。体育館の床に「ゴン」という鈍い音が響き、一時退場。後半14分にピッチに戻ってからわずか6分間であげた5得点を、菊島は笑顔を浮かべながら振り返る。

「(倒されて)ベンチに下がってちょっと怒ってました。相手のノーボイ(守備で相手に近づくときに出す「ボイ」の掛け声を言わない反則)だったので、フラストレーションがたまっていたんですよ」

 その苛立ちによって頭に血がのぼらずに得点に結びつけるところが菊島の凄さ。試合後、アルゼンチン選抜のゴンサロ・アッバース・アチャチェ監督は、母国の英雄を引き合いに出して、菊島をこう称えた。

「相手にメッシがいるような感じでした」

 菊島の足元にボールが収まりドリブルでスピードをあげていくと、あっという間に相手を2、3人抜き去ってGKと1対1になる。視覚障がい者はドリブルをしていてもボールが足元でコントロールしきれなくなって相手にとられたり、イーブンボールがどこにあるかわからなくて、ボールを探すために「一瞬の迷い」が見受けられるが、菊島に限ってはそれがあまり見られないのはなぜなのか。菊島が明かす。

ボールを奪ったら一気に攻める菊島は止められない

「頭の中でのイメージの仕方としてはコートを上から俯瞰して見ている空間認知を大事にしていて、それがプレーで動いて(自分の)位置が変わっても、わかるようにしています」

 目の前の敵の息づかいを感じながら、まるで「鳥の目」のように、頭の中ではピッチ上から俯瞰した位置情報が映し出されているという。このような空間認知能力は、練習で磨けるものなのだろうか。菊島の指導を続ける父・充さんが明かす。

「女子代表の練習では、空間認知能力を高めることに特化した練習をしているようですが、私個人で宙に特別にやっていることはありません。空間認知能力は、実戦の中で自分で磨いてきたと思いますよ。今でこそ、試合中に両サイドのフェンスにぶつかることがなくなりましたが、ブラインドサッカーをはじめたばかりの時は横幅の距離やピッチの中のどこにいるかの位置情報を把握できなかったため、よく壁にぶつかっていました。だから試合前に、距離感をつかませる目的で、横幅をよく走らせていました」

 11月にナイジェリアで初めて世界選手権が行われるが、そこで目指すのは世界一。その前に8月下旬から9月にかけてパラリンピックが開催され、男子代表が初出場する。菊島が続ける。

「私はパラリンピックに出ることが夢なので、自国開催の2020年も出たいと思っていました。女子の種目はないので今回は難しいのですが、男子はすごい合宿を続けています。ブラインドサッカーを広めるためにも、いい成績であってほしいし、(ブラインドサッカーを続ける)私たちのためにも男子を応援したい」

 男子がパラリンピックでメダルを獲得する快挙を追い風にして、菊島はメッシ級の活躍で女子日本代表を世界一に導く。ピッチを離れれば、菊島の頭の中にそんな未来図もきっと描かれているに違いない。

ダイアモンド☆ユカイ(右端)が国歌斉唱


(取材・文 林健太郎)

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