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“根性”さえも数値化…開発者・本田圭佑のGPSデバイス『Knows』が育成年代に広まる理由

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iPadアプリを使って利用する『Knows』

 世界のサッカー界では当たり前のように活用されるウェアラブルデバイスだが、近頃では日本の育成年代にも広まりつつある。その筆頭がMF本田圭佑(ボタフォゴ)を中心に開発された『Knows』だ。心拍数、走行距離、スピード、そして“根性”——。選手たちはさまざまな数値を計測することにより、自らの持ち味や成長をその目で確認できるようになった。

■「ウェアラブルデバイス」とは?
 ユニフォームの下に着込むのは普通のアンダーシャツではなく、通信機器を背中に仕込んだ“スポーツブラ”風専用ウェア。そうした選手たちの姿は数年前から、トップレベルの舞台を中心に見られるようになった。ところが近頃では、育成年代でも珍しい光景ではない。彼らはGPSによる位置情報などを利用することで、さまざまなデータを取得している。

 データの利用目的は大きく分けて二つだ。一つは戦術。ピッチ上の選手にそれぞれGPSデバイスを着用させることで、特定の場面でどのようなフォーメーションになっていたかが一目瞭然となる。これにより、戦術の振り返りが容易になった。もう一つはコンディション管理。ヘルスケア業界でも活用される心拍数に加え、走行距離やスピードといったサッカー向きのデータも計測できる。

背中にGPSデバイスを装着

■開発者は本田圭佑
 日本発のフィールド競技向けデバイスとして注目を集めている『Knows』は、後者のコンディション管理にフォーカスしたものだ。開発したのは現役プロ選手の本田。欧州のクラブに所属していた時期に、クラブがトレーニング中のデータを大量に取っていたことに感銘を受け、「いまはトップレベルでしか使っていないけど、良い選手を育てるために育成年代に使ってもらいたい」とプロジェクトをスタートした。

 本田は『Knows』を製品化するにあたり、これまで数値化が難しいとされてきたメンタル面の可視化にこだわった。そうして誕生したのが「根性」のパラメータだ。重要なのは「キツい時にどれだけ頑張っているか」。内面の強さという主観的要素を「心拍数が高い状態でどれだけスプリントをしているか」などで指標化し、数字に落とし込むことに成功した。

 製品の制作・管理を行う『SOLTILO Knows株式会社』チーフの関陽平氏は「他の項目は話し合いながら作ることで順調にできあがったが、根性のところをどう数値化するかに時間がかかった」と苦笑いまじりに振り返る。だが、それだけにユーザーからの感触も上々だった。「今まで可視化されていなかった選手の素質が分かった」といった前向きなフィードバックが返ってきているという。

「根性」などのパラメータが記載

■心拍数、どう使う?
 現在、国内の導入数は約70チーム。サガン鳥栖やカマタマーレ讃岐などJクラブのトップチームをはじめ、本田がターゲットとしてきた育成年代にも急速に広がっている。昨年度の全国高校選手権では出場48チーム中18チームが活用。実験段階から協働してきた富山一高をはじめ、神村学園高、米子北高、市立船橋高など、全国屈指の名門チームもこぞって導入している。

 関氏は、ある高校から返ってきた活用例を次のように語る。

「契約チームが高校選手権の予選で1-2でリードされていて、監督は当初『もっと走ろう!』『ここで頑張れ!』と声をかけていました。ただ、普段どおりにいかないので手元のiPadを見ると、選手たちの項目がみんな(心拍数が高いことを示す)真っ赤で。じゃあまずは落ち着かせるためにボールを回そうと。これがきっかけの一つになって選手の動きが良くなり、同点、逆転につながったということがありました」。

スポーツブラ型専用ウェア(タンクトップ型もある)

■現場で見えてきたメリット
 もちろん、こうしたケースが日常的に訪れるとは限らない。それでも関氏は、データ収集によるさらなるメリットを指摘する。それは「自立心の醸成」だ。

 これまでのトレーニングにおいて、選手たちの努力は監督やコーチらが主観的に判断することが多かった。しかし、テクノロジーを使用することで客観的なデータが示されることになった。すなわち、頑張っている選手は確固たる証拠が手に入り、頑張っていない選手も明らか。それらの数字に対して「自分が責任を負う」という選手の意識が明確になったというロジックだ。

 また一人の選手のデータを継続して取り続けることで、選手の成長を客観的に把握することができるようになった。育成年代では成長期の違いで能力差が出ることも多いが、選手自身の走行距離や、心拍数の推移を比較することで、自らの成長にフォーカスできるようになる。それは本田が日頃から強調する「成功に囚われるな、成長に囚われろ」という姿勢にも通ずるところだ。

 そのほか、導入チームからのフィードバックでは「心拍数の回復回数をもとに、そろそろ交代したほうがいい」といった戦術的な活用法や、「昨日は激しいトレーニングをしたから、試合に向けて負荷を軽くしよう」といったトレーニング強度の調整法、「負荷が高まっているから負傷のリスクがある」といった怪我予防におけるメリットも挙がっているという。

心拍数は色分け表示

■「データは財産」
 同社の集計によると、プロクラブの国内シェアは約10〜20%。しかし、育成年代に限れば80〜90%に跳ね上がる。その理由は競合の海外製品に比べ、低価格化が図られているためだ。『Knows』の契約形態は「買い切り」と「レンタル」の2パターン。買い切りが6万9800円、レンタルが2980円(1か月)。大半のチームがレンタル導入だという。

 問い合わせや申し込みは「info★know-s.com」まで(★は@マーク)。「継続的なデータは選手の財産になります。僕の理想を言えば、データを把握することで自分の強みをアピールすることができる選手になってほしいし、人に訴えかけられる選手になってほしいです」と関氏。今後はアプリのアップデートや対象競技の拡大、専用サービスの開設なども予定しているという。

 その中でも、目玉アップデートとして企画されているのはデータのグラフ化だ。指導スタッフ・トレーナーの負担を軽減させ、練習や試合の準備に集中してもらうという狙いがあるという。関氏は「パフォーマンスを数値化することだけに終わらず、使いやすさを考えながら展開しています。現場の声を聞きながら、さらに使いやすくなるよう取り組んでいきたいです」と先を見据えた。

関陽平氏

(取材・文 竹内達也)

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