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費用は?導入メリットは?業界の“プロ”に聞いたサッカー用人工芝グラウンド「基本のき」

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取材協力=酒井伸さん(住友ゴム工業株式会社 写真中央)、生駒千里さん(同 写真左)、津田雄一郎さん(株式会社住ゴム産業 写真右)

 日本の屋外のスポーツ環境は、1990年代まで土のグラウンドが主で、一部が天然芝グラウンドと人工芝グラウンドだった。当時人工芝と言えば芝丈の短いテニスコート向けの「砂入り人工芝」のイメージが強かったが、2000年以降は芝丈の長いロングパイル人工芝グラウンドがその稼働率の高さや安全性、技術面向上に繋がるという理由もあって急激に普及した。学校や公共施設を中心に広まり、多くの競技で活用されている中、一番使用が増えているのはやはりサッカー。現在、人工芝グラウンドを利用し、良い状態で維持するためにはどうすれば良いのか考えている選手や関係者、また人工芝グラウンド導入を検討している人に向けて、人工芝グラウンド業界の“プロ”たちにサッカー用人工芝グラウンド「基本のき」について聞いた。


人工芝と天然芝を比べた際の
違いや良い点とは?


津田「人工芝グラウンドのメリットの一番は、稼働率が爆発的に上がるというところです。例えば、大人のサッカーであれば、試合で22人集めないといけない。天然芝のグラウンドだと雨が降ったら使えないところもあり、そうすると22人の予定がなくなってしまいます。でも、人工芝なら大丈夫。また、高校など土のグラウンドだと、雨が降った際にドロドロになって回復まで時間がかかり使えないグラウンドもありますが、人工芝ならばその心配がいりません」

 天然芝や土のグラウンドは、使用制限があるところが少なくない。東京都の高校サッカー新人戦でも雨が降ると、土のグラウンドの試合は中止になるケースが見られる。また、土の場合、雨が降るとグラウンドに溝ができたり、凸凹になったり、乾くまで数日間練習ができないなど経験した方もいるだろう。

津田「(加えて、)人工芝グラウンドのメリットでは、日々のメンテナンスという点もあります。高校サッカーだと、いわゆるトンボがけ。あと、ラインを引くことがなくなりました。その時間を勉強や他のことに充てることができるとも聞きます」

 練習開始前後や昼休みにトンボで土のグラウンドを整備する光景は日常だ。だが、人工芝グラウンドであれば毎日の作業時間を省き、自主練習や勉強の時間に充てることができる。強風などでグラウンドの土が舞い、近隣住民に迷惑がかからないというメリットも。また、人工芝によって、チームのサッカーの質が向上することは間違いない。

サッカー場で主流の人工芝とは?

生駒「50年前に出てきたのがノンサンドタイプの人工芝という充填材を使わない硬い人工芝で、転んだりすると火傷しやすいものでした。そこで、35年程前から当社が砂入り人工芝を日本で販売スタートしました。今だと、テニスコートなどで使われている 20mmくらいの芝に砂を充填させてというものなんですけれども、それでも転んだ時にかなり擦り傷ができてしまうというものでした。そして、20年前くらいから現在サッカー場では主流となっているロングパイル人工芝を自社開発し、砂とチップを充填して衝撃吸収や火傷の緩和など技術改良をしてきました」


 1990年代まで日本の人工芝グラウンドは全て、砂入り人工芝かノンサンド人工芝であった。だが、2000年に住友ゴムが耐摩耗性の高いチップ入りのロングパイル人工芝「ハイブリッドターフ」を自社開発し、その後、日本の環境、使用頻度に添った耐久性と安全性のある人工芝に改良。形状を変えながらより天然芝に近い人工芝になってきている。

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ロングパイル人工芝サッカー場
国内第1号はあの選手権優勝校?

津田「ロングパイル人工芝の歴史で言いますと、北米やヨーロッパの会社が進んでいました。国内で導入したのは2000年なのですが、そのタイミングで静岡学園高校に紹介したところ、(当時監督で現総監督の)井田(勝通)さんにご採用いただきました。
静岡学園のグラウンドも2000年までは天然芝。利用頻度が高いため、芝の維持にも苦労されていた井田さんに『これで良いよ。人工芝にしよう』と言って頂いて、ロングパイル人工芝サッカー場国内第1号が誕生しました。それが好評だったので徐々に広がったのです」

 静岡学園は、年末年始に開催された第98回全国高校サッカー選手権で24年ぶり2度目の優勝を果たした名門校。ドリブル、ショートパスでゆっくりと、テクニカルに試合を支配するスタイルに国内でいち早く取り組んだ元祖・技巧派軍団だ。静岡学園、その礎を築いた井田総監督は、人工芝グラウンドの歴史においても、日本の先駆者だった。

稼働率の高い日本のグラウンドに適した
人工芝作り

生駒「日本では授業や部活で毎日7、8時間もグラウンドが利用されますが、これは海外と比較しても利用頻度がかなり高く、『耐久性』が当社を含む国内メーカーの課題でした。一方、世界の人工芝市場の中で、日本の市場はわずか1%程度なので、海外の糸メーカーに日本の高稼働に耐えられる仕様を作ってもらうのはなかなか難しい。それならば、日本の高稼働に合った芝を糸から自社で開発してしまおうということで、2010年ごろから国産化にも取り組み始めました。そこで、開発された製品が今では、Jリーグやサッカーの強豪大学・高校などで数多くご採用していただいております」
※現在も海外産のラインナップあり


 最高級モデルは“まるで天然芝”と言われる走り心地や、表面温度の上昇抑制効果を備え、起立性としなやかさによって天然芝のような芝立ちや自然なボールバウンドを再現している。また、近年はゴムチップを使用せず、直毛と縮毛の芝によるノンフィルタイプも登場。加えて、3色芝の採用によって、景観性も高められている。

限りなく天然芝に近い3色人工芝


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人工芝グラウンドは充填材や下地で
さらに充実

津田「少しずつ増えてきたのがアンダーパットですね。人工芝と下地の間に入れるクッション層。これを入れることによって長期間、衝撃吸収性が落ちにくく、柔らかさを長く維持できます」

 現在、日本の人工芝グラウンドで事例が多いのは、下地にアスファルト舗装をすることだ。それによって、平坦性を確保しやすく、排水性も向上。また、アンダーパットを設置することで安全性やプレー性がより高まり、グラウンドコンディションの維持にも繋がる。加えて、現在は充填材も標準の黒チップ、温度抑制効果のあるチップや保水能力、抗菌性も兼ね備えた特別樹脂チップとバリエーションが増加。夏の暑さなどに対する取り組みは継続的に続けられ、細かなコンディション作りを可能にしている。



人工芝の手入れ方法とは?

生駒「一つは機械によるブラッシングです。人工芝グラウンドを使っていく中で芝が荒れてきますので、芝を起こす役割と、使っていくと固くなってきますのでそれをほぐす役割。その2つの効果が大きいですね」
津田「また、PKマークやコーナー、ゴールエリアなど良く使うところはチップが減ってくるので、減ったらチップを補充して頂く。それをやるだけで人工芝が長持ちします。例えば、(埼玉の)西武台高校さんは守屋(保)監督がグラウンドをしっかりと長持ちさせようと考えて、使用してくださるので長持ちしています。長持ちの方法という観点で言えば、GKの練習やシュート練習の際にゴールを動かして使用場所をローテーションしてもらえれば、(耐久年数も)大きく変わってくるかと思います」

機械によるブラッシングの様子

チップ補充の様子

 専用の機械によるブラッシングは、継続使用によって倒伏した人工芝を立たせる役割や異物を取り除く効果がある。グラウンドの印象もリフレッシュ。また、スポーツ用のトラクターで充填層をほぐすことによって、高さレベルを調整したり、クッション性能を改善したりすることができる。機械によるブラッシングとクリーニングは可能であれば、月1度。一般的には年1度が推奨されている。

 日常のメンテナンスも重要だ。継続して使用すると、コーナー付近やPKマーカー部、ゴールエリアなどプレー機会の多い場所はどうしても充填物が飛散してなくなってしまう。その場合は必要量のチップを補充。これで、プレー性を維持することができることと、局部的な芝の摩耗を抑制できる。また、人工芝の中に入り込んで固化したり、滑りやすくなる可能性のある落ち葉は放置せず、竹ぼうきやブロアーで掃き出したい。

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人工芝の怪我のリスクは、本当にある?

生駒「FIFAの公式サイト上には、スウェーデンのサッカー研究グループによる2014年の論文が掲載されています。そこには人工芝と天然芝を比較したら、怪我のリスクは変わらなかったと結論付けられています」
津田「一方で特有の怪我があるとも耳にします。第5中足骨、小指を疲労骨折してしまうと。イメージとしては靭帯が切れると危惧する指導者もいますね。タックルを受けた際にスパイクが刺さって天然芝だと根っこが抜けるんですけれども、人工芝だと抜けないので身体が負けてしまう。それで怪我をしてしまうことがあるかもしれません。以前、ブレード型のスパイクが流行った頃がありました。当初は、スパイクのブレードが人工芝に負けて折れていたんですけれども、改良されて折れないようになった。それで足が抜けずに怪我することも。人工芝メーカーとしては丸ポイントのスパイクを推奨しています」
酒井「子供の頃から人工芝を使う子が増えて慣れている子が多いです。
(メーカーとしても)研究はしていて、芝の密度をどうするとか、継続的に改善していっています」

 一般的には、天然芝グラウンドに比べて人工芝グラウンドの方が怪我が多いというイメージがあるのではないか。人工芝に引っかかることで怪我してしまうケースもあるようだ。ただし、荒れた天然芝や凸凹の土のグラウンドで怪我をするというリスクがあることも間違いない。現在は、人工芝の品質向上によって安全性が高まり、多くのJリーグクラブが人工芝グラウンドを保有。トップレベルからの信頼は、その安全性の証拠と言えるだろう。

人工芝グラウンド導入の費用は?

津田「お客様のニーズによって変わるのですが、(一般的には1億円強で)5000万円から2億円くらいになります。プレーヤー、出資者の両方の意見を聞きながら、必要なものと不必要なものの選別提案や優先順位をつけるお手伝いが我々の仕事となります」
酒井「芝や充填材のグレードが変わってくると金額も変わります。温度抑制機能のあるカラーチップでも1000万円、2000万円と金額が変わってきます。また、下地の構造によっても金額が変わってきます。長期的な平坦性や排水性を求め、アスファルト下地を希望されるお客様が多いのですが、それではコストが高くなりますので、アスファルトを敷かずに下にある砂利や土をそのまま固めたりすることでコストを抑える工法を提案するケースもあります。ロングパイル人工芝サッカー場の国内第1号の静岡学園サッカー場も砕石下地でした。当時監督の井田さんのように、天然芝でも水はたまる、天然芝でも凸凹はあるという考え方ができるのであればアスファルトを敷かない工法でも良いかと思います。しかしながら、日本人の特性なのかもしれませんが、品質への要望も高く、人工芝なのに水がたまることや凸凹があることを気にされる方もいらっしゃいます。ですので、初期費用を掛けてでもアスファルト下地を選択される場合が多いですね。約10年後に張り替える時にも、アスファルトを敷いてあると工期が短く費用が安いので、そういった意味でもアスファルト下地を選択するメリットはあります。人工芝グラウンドの不満足の声の半分くらいが排水性と不陸(凸凹)に関してです。費用と要求性能を比較しながらそれぞれに合った下地を検討するとよいと思います」

 アスファルトの下地を打つことや排水設計、人工芝、充填材……とプレーヤーのためにベストの組み合わせを求めれば、金額がかかってしまうのは当然のこと。ただし、何かを削れば水はけが悪かったり、ピッチの平坦性を保てなかったりという問題点も出てくる。メーカー側は施設のニーズ・予算に応じて最適な提案をすることができるようだ。



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維持費は?どれくらいで張り替える?

生駒「利用頻度によりますけれども、人工芝の張り替えはこれまでの当社実績から7年から12年が目安になっています」
酒井「(年間のランニングコストは)ブラッシングを入れて、50万円くらいのところがほとんどです。そこまでの金額を掛けられていないところもあります。月に一回、業者が入ってブラッシングをやれば一番いいんですけれども、それは現実的ではないので、年に1回チップの補充とブラッシングでもやっていただきたいです」

 普段は 20kg入りの補充用チップなどを準備し、使用の多い箇所に撒くことやゴミの除去などで十分な維持ができるようだ。年に1度、専用の機械でクリーニング・ブラッシングすることが推奨されているが、よりコンディションを保つため、将来的なコストを抑えるためには専用の機械を購入することもオススメ。実際に機械を購入すれば、月に1度などの作業でベストの状態を保つことができる。

津田「(系列校である)藤枝順心高校と藤枝明誠高校は250万円程度の機械を導入しています。専門の業者にお願いしたら2校で年間の予算は計100万円かかるんですけれども、3年で元を取れる計算になります。明誠では(元浦和FWの)松本(安司)監督が自ら運転して、快適さを維持されています」


 日本の人工芝グラウンドはこの20年間で劇的に進化。次回の特集第2弾では、尚志高(福島)のインタビューを交えて、日本のトップメーカーである住友ゴム工業株式会社の取り組みや強みを紹介する。

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(取材・文 吉田太郎)

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