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屈辱の選手権からプレースピード上げて欧州で評価。興國MF湯谷杏吏「日本のブスケツに、なる」

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興國高MF湯谷杏吏は「日本のブスケツに」

[2020シーズンへ向けて](※興國高の協力により、電話取材をさせて頂いています)

「日本のブスケツに、なる」

 興國高(大阪)のMF湯谷杏吏(ゆたに・あずり、3年)は「僕はドリブルで運ぶよりもパスの方が速いと思っている。自分が良いポジションで受ければ、たくさんの選択肢があるので、僕が持つよりも他の選手に速くボールを出してあげたい」というボランチだ。

 ドリブルで運ぶこともできるが、優先するのはパス。とにかく相手の嫌なポジションを取って、少ないタッチで縦パスを入れる。味方がより良い状態で仕掛けられるように、テンポ速く球出しすることを意識。DFから警戒される前に繰り出すスルーパスも絶品だ。

 2月のスペイン・フランス遠征ではパリSGやトゥールーズ、エスパニョール、ビジャレアルの育成組織との練習試合でハイパフォーマンス。「相手がフィジカル凄かったので1、2タッチでプレーする意識を高くできた。そこが自分の良さですし、そこが上手く出せたと思います」と振り返る。

 欧州で得たのは自信と高評価。湯谷は、チームメートでトゥールーズのセカンドチームに練習参加したFW樺山諒乃介(3年)から「トゥールーズの選手が(湯谷のプレーが)良かったと言っていたよ」と教えてもらったという。また、内野智章監督も「湯谷はスペイン・フランスでの評価が真面目に凄かったですし、エスパニョールからは『スペインに来るのか?』くらいまで言われていた」と明かす。

 興國からはすでに、樺山とCB平井駿助(3年)、GK田川知樹(3年)が来季からの横浜FM加入内定。さらにFW杉浦力斗(3年)の金沢内定も発表された。すでにJクラブからの関心を寄せられているという湯谷は、同期5人目のJリーガーになる可能性が十分にある選手だ。

 昨年度の選手権大阪府予選決勝では抜きん出たパフォーマンス。決してスピードのある選手ではないが、重心移動や身体の使い方が上手い。スムーズな動きで相手の背後を取ってボールを受け、攻撃のリズムを作り続けて初優勝に大きく貢献した。実際、全国初戦での対戦が決まった昌平高(埼玉)が特に警戒していたのはこの湯谷。だが、高校進学後初の全国大会で湯谷はワーストと言えるようなプレーをしてしまう。

 湯谷が全くボールを受けることができなかったこともあり、チームは攻撃のテンポがまるで上がらない。後ろに重く、相手の陣形が整った状態でのビルドアップはことごとく相手に狙われてボールロスト。加えて、自陣PAで湯谷の判断が遅れたことが失点にも繋がるなど、注目MFは最も早く交代を告げられる結果となった。

「僕がヤバかった」という昌平戦。だが、注目対決で良いところなく敗れた悔しさはエネルギーになっている。また、昌平の個々の上手さを目の当たりにして、さらなる刺激を受けたという。選手権後、自身は個のレベルアップに加え、プレースピードを上げることを徹底。その途上でスペインに行けたことはタイミングが良かった。「相手が速いのでめっちゃ成長できたと思います」。欧州で手応えを掴んで帰って来ることができた。

 広島ジュニアユース出身。元イングランド代表のFWウェイン・ルーニーに憧れ、元々はFWだったが、トップ下、そしてボランチへとポジションを下げてきた。好きな選手は変わらずルーニーだが、目指している選手はバルセルナの名手・MFセルヒオ・ブスケツ。“興國のブスケツ”とも評されるMFは、“日本のブスケツ”と言われるような選手に本気でなるつもりでいる。

 まだ新型コロナウィルス感染症の影響でトレーニングは自主練に限られているが、シーズン開幕後に成長を印象づけてスカウトから絶対的な評価を勝ち取るか。「アズリ」の名はイタリア代表の愛称「アズーリ」から付けられたもの。「良い名前。(知らない人に)意味を教えたら『格好良い』と言われます」という名をより多くのサッカーファンに知ってもらうためにも、異質のボランチになって、目標の日本一を勝ち取る。

(取材・文 吉田太郎)

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