beacon

攻撃型ディフェンダーが秘める闘志。清水ユースDF田中芳拓は強気でピッチを駆け抜ける

このエントリーをはてなブックマークに追加

清水エスパルスユースの闘将系マルチプレーヤー、田中芳拓

[2020シーズンへ向けて](※清水エスパルスの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 守備的なポジションなら、どの位置を任されても水準以上のレベルを誇る選手だが、自分の中でやりたいポジションははっきりしている。「攻撃が好きなのでサイドバックが一番楽しいです。守備の時に1対1をして、相手からボールを取って、そこから一気に攻め上がる、みたいな。それが一番好きですね」。清水エスパルスユースの闘将系マルチプレーヤー。田中芳拓(3年)は強気を前面に押し出して、ピッチをどこまでも駆け抜け続ける。

 その瞬間は意外な形でやってきた。昨年4月。高円宮杯プレミアリーグEAST開幕戦。3バックの中央を務めていた西島隆斗(現・青山学院大)が負傷し、ハーフタイムでの交替を余儀なくされると、後半開始からピッチに登場したのが田中。プレミアデビューに加え、途中出場でディフェンスラインに入るという難しいシチュエーションの中、2番を付けた2年生は堅実なプレーで守備陣をより安定させていく。

「前半に隆斗くんがケガして、急に出ることになったんですけど、あの後半は自分自身でもシーズンを通じて一番良いパフォーマンスというか、それぐらいのレベルのプレーができたんです。それがベースになって、1年間自信を持って戦えたなと」。終盤には追加点の起点にもなるなど、攻守に渡って好パフォーマンスを披露。以降は平岡宏章監督の信頼を勝ち獲り、リーグ戦17試合に出場するなど、完全な主力として1年を過ごすことになるが、開幕前の立ち位置からその未来は想像できなかったという。

「開幕する前はいろいろあって、Aチームの遠征にも行けなかったんですけど、“残り組”でやっている方で試合がたくさんあって、その中で『頑張るなら今だ』と自分自身で決めて、そこでアピールして、開幕戦のベンチにやっと入れたような感じだったんです」。訪れたチャンスを手にするのも、手放すのも実力のうち。そういう意味では田中が“チャンスの神様”の前髪をしっかり掴んだことも、また確かなことである。

 初ゴールも印象深い。プレミアEAST第8節。ジュビロ磐田U-18と対峙した“静岡ダービー”。この日は4バックのセンターバックでスタメン出場を果たすと、開始9分で歓喜の瞬間を迎える。左から青島太一(現・立正大)が入れたFK。マーカーと競り合いながら、田中がダイビングヘッドで合わせたボールは、左ポストの内側を叩きながら、ゴールネットへ吸い込まれていった。

「自分は毎試合『点獲るぞ」と思って試合に入るんですけど、あの試合だけ不思議とそういう気持ちがなくて、『入っちゃった』みたいな感じで(笑)、実感が全然なかったです。でも、あのゴールがあってからは、自信を持ってセットプレーに臨めるようになりました」。シーズンを振り返れば、リーグ戦のゴールはその1点のみ。彼が持つ“星”の強さを感じずにはいられない。

 シーズンを通じて試合に出続けたことは、大きな経験になった。「間違いなく自信になりましたし、フィジカル面でも体重が増えて、筋肉がアップできたことが数字的に見れました。あとは、センターバックもやって、サイドバックもやるようになって、『ここでもできるんだ』と感じたことでプレーの幅も広がりましたし、多くの選択肢が自分の中にできて、いろいろな所で挑戦したいと思うようになりました」。

 守備的なポジションなら、どの位置を任されても水準以上のレベルを誇る選手だが、自分の中でやりたいポジションははっきりしている。「センターバックも楽しいといえば楽しいですし、得意なポジションではあると思うんですけど、攻撃が好きなのでサイドバックが一番楽しいです。守備の時に1対1をして、相手からボールを取って、そこから一気に攻め上がる、みたいな。それが一番好きですね」。口を衝いた『相手からボールを取って』というフレーズに、強気な性格が見え隠れする。

 自信を付けたがゆえに、以前は選ばれていた年代別代表へ“復帰”したい想いも高まっている。「去年も1年間通して試合に出られたので、自分の中でも『代表に選んでくれないかな』と思っていた時はメッチャありましたね。ただ、相手が世界なので、そこを考えた上で足の速さだったり、キックの精度を上げていかないと、入れないのかなと思います」。はっきりと意識する同年代のライバルも多いという。

「ナル(成岡輝瑠)とジュビロの(鈴木)海音がワールドカップのメンバーに入ったのは凄く刺激になりますし、サンガの中野桂太や鹿島に入った荒木遼太郎も仲が良いので、そういう選手が活躍しているのを見ると、『自分も負けてられないな』と感じます」。再び青いユニフォームに袖を通すため、やるべきことは少なくない。

 今年は背番号も2番から13番に変わっている。より大きな番号を背負うことになった理由は、ある先輩の意思を汲んでのことだ。「去年の13番は林航輝(現・法政大)くんだったんですけど、航輝くんに『継いでほしい』というようなことを言われたので、『だったら13番に行こうかな』と思って決めました」。いろいろな人からの想いを携えて、勝負の年へ歩みを進めていく。

 好きな選手はバルセロナの闘将として名を馳せたカルレス・プジョル。その人選に理由はいらないだろう。2020年への意気込みを尋ねると、言葉が熱を帯びる。「この期間で1回1回の練習が凄く大事だということに気付かされましたし、ジュニアユースから6年間みんなで一緒にやってきているので、この1年間は集大成として日本一を獲りたいと思います。個人としても1年間ケガなく過ごして、公式戦に全試合フル出場したいです」。

 清水エスパルスユースの闘将系マルチプレーヤー。田中芳拓は憧れているスペインの英雄の如く、強気を前面に押し出して、ピッチをどこまでも駆け抜け続ける。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

TOP