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いつかあの背中を追い越せるように。磐田U-18MF小林篤毅が携える“信じ続ける心”

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ジュビロ磐田U-18のオールマイティー、小林篤毅

[2020シーズンへ向けて](※ジュビロ磐田の協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 中学の頃から一緒にプレーしてきたアイツに、少し先を行かれてしまった感覚はあるが、自分もいつかという想いは常に心に秘めている。「プロになるタイミングは人それぞれなので、いつか追い越せるように、自分は自分のストロングポイントを生かして努力したいと思いますし、良い仲間であり、良いライバルですね」。いつかあの背中を追い越せるように。ジュビロ磐田U-18のオールマイティー。小林篤毅(3年)は“信じ続ける心”を携えて、今日もボールを追い掛けている。

 2年生となった昨シーズンは、高円宮杯プレミアリーグEASTでも開幕戦から左サイドバックの定位置を確保し、粘り強い守備で劇的な勝利に貢献。以降は右サイドバックにポジションを変えながらも、世代最高峰のリーグで経験を積み重ねていく。ただ、それまで全試合に出場していた第10節を最後に、小林の名前はメンバーリストから消える。

「左肩脱臼の反復ですね。中学校3年生の時に初めてやってから何回も外れていて、次にやったら手術というのは決めていたので、そこで決断しました」。癖になっていた肩の脱臼を治すため、戦線離脱を受け入れた上で手術を決意。半年近いリハビリの日々と向き合うこととなる。

 将来を考えた上で何より大事な3年間だと捉えていた高校生活に、これだけサッカーのできない期間が待っているとは想像もしていなかった。だが、その難しい日常の中で、自身の新たな側面に気付いていく。「本当に毎日毎日のトレーニングの質を何より大事にしていて、少しでも昨日より量が少なかったり、質が意識できなかったりすると、夜もグッスリ眠れないというか、ちょっとした所で昨日より今日、今日より明日という意識でずっとやっていました」。

 さらに同じ境遇を強いられた仲間との絆も、より深まっていく。「(馬場)惇也とは2、3か月ぐらいは一緒にリハビリしていたので、正直愚痴を言い合ったりしてストレス解消もしましたけど、結局は『オレらが頑張らないとな』と。『一番苦しい想いをしたからこそ、一番成功するはずだ』ということは2人で信じてきました。今もほぼずっと一緒にいますね。学校とかでも一緒にいます(笑)」。周囲も羨むようなホットラインが、馬場との間には出来上がっている。

「早くサッカーしたいとか、ボールに触りたいとかあったんですけど、復帰した時に自分でも『変わっているな』と思いましたし、毎日毎日コツコツと長所や短所をしっかり見つめてきて、本当に良かったなと感じています」。地道な日常を確実にこなしていくことの大事さを知っている男が、強くならないはずはない。

 もともとは愛知県出身。小学生時代は三浦弦太(現・G大阪)や白井康介(現・札幌)も輩出しているFC豊橋リトルJセレソンでプレーしていたが、「自分が今どのくらいのレベルにいるのかを知りたくて」参加したセレクションでジュビロアカデミーの合格を勝ち獲り、U-15時代は1時間近く掛けて電車で磐田まで通っていた。

「中学の頃は、今から思えば本当に子供だったなと。練習の質も『昨日より落ちてるな』とわかっていても、『まあ明日やればいいや』とか、サッカーに対する想いも『楽しければいい』というのが強くて、上手くなることの優先順位は楽しくやることの次だったんです」。サッカーはもちろん、生活面でスタッフに怒られることもしばしば。当時を知る世登泰二監督も「中学の時は“ちゃらんぽらん”でしたね」と笑いながら振り返る。

 だが、指揮官の続けた言葉が印象深い。「最近は入ってきたばかりの1年生にプレーのアドバイスをしたり、凄く面倒見がいいですし、フィールドの中で一番声も出ますし、トレーニングの時も雰囲気を締めてくれたりとか、そういう所では凄くリーダーシップや自覚が出てきました。人間的にだいぶ落ち着いてきたのかな(笑)」。

 世登をはじめとしたスタッフ陣へ対する感謝は、強すぎるほどに感じている。「結局自分自身がサッカーに本当に向き合わないと変われないということに、気付かせてもらえたのはスタッフの方々のおかげなので、人として凄く成長させてもらったなと感じています。コツコツやれば絶対に結果が出るとわかったので、それを信じ続ければもっといろいろなことが変わるんじゃないかなと思いますし、今はまだ小さな結果ですけど、これを続けることが大きな目標です」。“信じ続ける心”がもう揺らぐことはない。

 どのポジションも水準以上にこなせるが、一番やりたい場所は決まっている。「中にカットインしたりとか、何でもできるポジションなので、左サイドバックが一番楽しいですね。緩急あるドリブルで相手を外しながら、パスも使って前に進むのが得意な部分で、守備の面でも1対1の対応は負けない自信があります」。イメージはレアル・マドリーのマルセロ。彼のプレーを笑顔で語る姿に、サッカー好きな普通の高校生の一面が覗く。

 一足先にプロの扉を叩いた“同級生”の存在が、さらに自分の決意を深めてくれている。「(鈴木)海音は中学の時から凄い選手で、自分のプレーを信じながらブレずにずっとやってきた選手なので、今まで頼っていた部分はたくさんありました。でも、プロになるタイミングは人それぞれなので、いつか追い越せるように、自分は自分のストロングポイントを生かして努力したいと思いますし、良い仲間であり、良いライバルですね」。少し先を行かれてしまった感覚はあるが、自分もいつかという想いは常に心に秘めている。

 コツコツと積み重ねていく日々は、決して遠回りなんかじゃない。いつかあの背中を追い越せるように。ジュビロ磐田U-18のオールマイティー。小林篤毅は“信じ続ける心”を携えて、今日もボールを追い掛けている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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