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大卒5年で欧州CL出場…日本代表MF伊東純也を支えた“積み重ね”「速いだけって思われたくなかった」

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 長かった中断期間を経て、ベルギーでの3シーズン目に挑む日本代表MF伊東純也(ゲンク)。昨季は新型コロナウイルスの感染拡大により不本意な形で幕を閉じてしまったが、日本代表としてW杯予選デビューを飾り、念願だったUEFAチャンピオンズリーグにも出場するなど、大きな飛躍の一年となった。そんな27歳に今回、欧州で感じた自らの武器や、日本代表でのポジション争い、今後の成長ビジョンを聞いた。

◆「テレビで見ていた」欧州CLという舞台に
—ベルギーリーグがプレーオフを行わずに打ち切りとなり、長い中断期間がありました。当時はどんなふうに過ごしていましたか。
「試合がなくなった後、2週間くらいベルギーにいたんですが、三好(康児)の家にずっといました(笑)」

—インスタグラムを見ていても仲が良いですよね。日本人選手が近くにいるのはやはり大きかったですか。
「その時は小池(龍太)もいて、康児と龍にしか会ってなかったですけど、家にずっと一人でいたら鬱になるくらいの感じだったのでよかったです。ご飯もレストランもやってなかったので自分でつくらないといけなかったんですが、康児の家に行ってつくってもらったりして。あと最後のほうはシェフを雇ってる(小林)祐希の家にも行っていました。康児の家から祐希の家は近いので、午前中は康児のところに行って一緒にトレーニングして、それから夜に祐希の家でご飯食べたりしていました」

—近くにそういったコミュニティがあるのはいいですね。
「日本人がいて助かりました。俺だけ家が遠いはちょっとあれでしたけど(笑)」

—ベルギーに移籍して約1年半、現地の生活には慣れましたか。
「慣れたといえば慣れましたね。でも特に変わらないです。言葉は難しいし、食生活も難しいけど、特に自分から無理やりコミュニケーションを取るようなこともなく普通に過ごせています。選手同士でメシに行くとかはないんですが、サッカー面ではもう大丈夫です」

—昨季はサッカーの面でも充実していたことと思います。欧州CLにも出場しましたが、この1年間で最もインパクトが大きかったのはどのようなことでしたか。
「やっぱりチャンピオンズリーグに出られたのはテレビで見ていた世界なのでうれしかったですね。ただ1勝もできなかったのは悔しかったです」

—規模の大きなクラブを相手にしても随所で持ち味を発揮している印象がありました。
「8割くらいボールを握られる展開だったので難しかったですけど、何回か特長は出せたと思います」

—相手のレベルの高さもあったと思いますが、うまくいかなかった部分はどのように捉えていますか。
「もちろん相手のこともあるんですが、雰囲気にのまれてミスした部分もあったと思います」

—雰囲気はどのようなところが違いましたか。
「熱気がすごかったです。楽しかったは楽しかったんですが、多少緊張はありましたね」

—いままでのサッカー人生よりも緊張しましたか。
「普段はあまり緊張しないので(笑)。自分ではあまり緊張しているつもりはなかったけど、普段ないミスもあったので多少は硬くなっていたんだと思います」

—話で聞いていたCLと、実際に出たCLは違いましたか。
「そうですね。でも、もっとできたと思っています」

◆「『速いだけ』って思われたくなかった」
—神奈川大を卒業してヴァンフォーレ甲府からプロキャリアをスタートし、約5年間で欧州CL出場まで辿り着きました。ご自身のキャリアを振り返ってどう思いますか。
「大学を出たらもう22歳なので、そこで早く活躍しても遅いくらいですよね。順調に来ているとは思いますが、そんなに早くはなかったなと思っています」

—逗葉高時代、このようなキャリアは見えていましたか。
「高校の時は選手権で神奈川県のベスト32とかで負けていて、夏過ぎにはもう引退していたので、プロは遠かったですね。大学は神大に推薦で行けたんですが、プロはまったく見えていなかったです」

—キャリアの中で、もっとこうしておけばよかったという思いはありますか。
「後悔はないですが、ここからさらにステップアップしていきたい気持ちはあります」

—もう一つ上のレベルということですね。
「そうですね」

—そのあたりはベルギーに来たときから描いていたビジョンですか。
「ベルギーに来たときはベルギーで活躍することしか考えていませんでした。ただ、ある程度やれるとなってから、次のレベルでもやりたいと思うようになりました」

—具体的にはいつくらいから思うようになりましたか。
「こっちに来てから半年でリーグ優勝したんですが、そのときくらいですね。もう1年やったら上に行きたいなと思いました。ただ、やはり簡単ではないですね」

—昨季はチームとしてレギュラーシーズン7位と苦しいこともあったと思います。そのあたりはいかがでしたか。
「リーグ戦は全然よくなかったですね。監督も代わりましたし。ただチームが平均年齢21歳くらいで若く、これからのチームなので仕方ない部分もあったと思います。獲ってくる選手もみんな20歳とか21歳だったので」

—その中でも伊東選手は期限付き移籍の立場から完全移籍を勝ち取りました。
「年齢的には上のほうになってしまっているんですが、実力の部分で評価してもらえたのでよかったです」

—クラブ関係者と話していて、高い評価を感じることはありますか。
「いま少し怪我をしていたこともあって、練習試合もほぼやっていないんですが、痛みがないならスタメンで使うよって言ってくれていて、そういったところで信頼を感じています」

—リーグ全体にも若い選手を優先して使う文化があると思いますが、現在27歳の伊東選手が信頼を勝ち得た要因はどこにあると思いますか。
「同じ実力なら日本人というだけで使われないし、同じ実力なら若いほうが使われます。そうした中で練習から実力の違いを出していかないといけないと思ってやっていました」

—ポジション争いの相手を上回っているという自負はありますか。
「右サイドハーフの部分で負けているところはないと思っています。若くて良い選手がいますし、みんな足が速かったり、テクニックがめっちゃあったりはするんですが、満遍なくやれるのが自分の強みですかね」

—日本ではスピードが最も注目されていましたが、代表ではクロス精度の高さも発揮しています。昔からそういった選手だったんですか。
「もともと右足のキックは得意なほうだったので、そこには自信を持っていました。あと『速いだけ』って思われたくなかったので、そこだけはずっと意識していました。『速いだけで足元ない』って言われるのが本当に嫌だったので。だから高校の時はスピードをあまり使わなかったです。トップ下やっていたんですが、ずっとさばいてました(笑)」

—そういった積み重ねが活きているのはすごいことですね。
「あといろんなポジションもやってきました。前なら全部やってきましたし、プロに入ってからはサイドバックもやりました。どこでやっても……というのはプラスになったかなと思います」

◆今季の目標はリーグ優勝&10ゴール
—現在、日本代表でもポジション争いのトップグループにいると思いますが、自身の立場をどう捉えていますか。
「いまは全然気にしていないです。ただ、(堂安)律とかタケ(久保建英)、(中島)翔哉もそうですが、年下の選手が海外で頑張っているので、彼らに負けないようにしないといけないなとは思っています」

—他の選手とは持ち味も違うと思いますが、どのような心持ちでポジション争いをしていますか。
「律とかタケがいて左利きの選手が多いので、4-4-2の右サイドをやるとしたら、縦への突破とかクロスは右利きの強みです。そのあたりは自分の持ち味かなと思っています」

—もっと高めていきたい部分はありますか。
「やっぱりもうちょっと得点を取れるようにしていきたいですね。アシストは毎年多いけど、得点が少ないかなと思っています」

—以前はドリブルで大外を抜いていく印象が強かったのが、近年は相手に向かって突っかけるプレーも増えてきた印象があります。そこは得点への意識によるものですか。
「あまり意識はしていなかったんですが、ゴール前に入っていこうという意識はしています。前はチャンスをつくっていればいいやって思っていたんですが、アシストだけじゃなく得点を取んなきゃダメだなってベルギーに来てから思いました。もちろんチームはアシストも評価してくれるんですけど、結果だけ見られると名前が載るのはゴールだけなので」

—所属クラブでの今後の目標はありますか。
「また優勝できるようにしたいですね。あと個人としては10点は取りたいなと思っています」

—サイドアタッカーで二桁ゴール取れると大きいですね。
「右だとけっこう難しいですけど、去年はテル(仲川輝人)がめっちゃ取ってましたよね。右から点を取り続けるのは難しいと思うので、テルは凄かったと思います」

—仲川選手は反対側からのクロスに入って行く形も多かったですね。
「最近はそれも意識しています」

—日本代表でもそこは大事ですよね。
「逆サイドからのボールには入っていかないといけないと思います」

—ちなみに仲川選手とは……。
「大学の選抜で一緒でした」

—そうでしたね。ライバル意識はありますか。
「いや、ないですね(笑)。タイプが違ったので。テルはもとからめっちゃ点取るタイプで、大学の時も(3年次の2013年に)得点王になったりしてましたが、俺はどちらかというとアシストするタイプだったので違うなと思っていました」

—伊東選手にとっては、今後は仲川選手のような持ち味も発揮したいという意識でしょうか。
「サイドだとゴールから遠い部分はあるので難しい部分はあるんですが、両方できればいいかなと思っています」

—ちなみに日本代表での目標はありますか。
「予選が再開したらまずは試合に絡んで、得点にも絡んでいけたらなと思っています」

—W杯の最終予選は初めてですが。
「まだそんなに意識していないですね。あまり先のことは意識しないタイプなので、目の前のことをやっていこうと思います」

—ありがとうございました。最後に新しいスパイクについて教えてください。今季は新モデルの『ULTRA(ウルトラ)』を着用しますが、スパイクに求めるものはありますか。
「履きやすさですね。フィットするものが良いです」

—軽さも特長だと聞いております。そのあたりはいかがですか。
「軽いに越したことはないですね。軽いほうが速く走れる気がします。そういう気持ちの部分でも大事です」

—見た目はどうですか。オレンジのカラーが映えます。
「見た目は好きですね。派手めで明るいものがいいです」

—軽さやスタッドの形状を見ると、スピードのある選手に合っているように思います。育成年代のプレーヤーもそういった意識を持って選ぶと思いますが、同じモデルを履いてほしいという気持ちはありますか。
「自分に憧れて履いてもらえるのはうれしいですね。軽いスパイクで速い=伊東ってなったらいいなと思います。サイドアタッカーで流行ってほしいです」

(インタビュー・文 竹内達也)
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