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身近なライバルとの切磋琢磨が生み出す好循環。横浜FCユースGK深宮祐徳はチームを勝たせる守護神へ

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横浜FCユースのビッグセーバー、深宮祐徳

[2020シーズンへ向けて](※横浜FCの協力により、オンライン取材をさせて頂いています)

 トップチームの公式戦が醸し出す雰囲気を肌で体感したからこそ、何が一番大切かということも、よりクリアになった意識の変化を感じている。「以前より少しは見られる立場になったということも含めて、ミスはまずなくさなくてはいけないですし、自分がうまくやることも大切だと思うんですけど、最終的にはチームを勝たせられるようになりたいので、そこに向けて1つ1つ地道にやりたいですね」。横浜FCユースのビッグセーバー。深宮祐徳(3年)は自身がチームを勝たせる守護神であると証明する機会を、静かに待っている。

 多くの高校生がサッカーをする場を奪われた春先からの数か月。深宮も例外なくもどかしい気持ちを抱えていた。しかも、ゴールキーパーというポジションの特性上、なかなか1人での練習もままならない。「フィールドの人たちは足元の練習も多くて、たとえばパスコンは公園でもできると思うんですけど、キーパーはトレーニングを土でやるのもケガのリスクもあって、難しい部分がありました」。

 何より、あの感覚は1人では味わえない。「シュート、受けたくなりますね。『シュートを止めた時の快感が欲しい』みたいな感じになるというか。アレはキーパー特有のモノなんじゃないですかね」。ゆえにチーム練習が再開した時も、一番嬉しかったのはあの感覚を取り戻せたことだったという。「やっぱりシュートを止めた時は凄く気持ち良かったですね。『キーパーって楽しいな』と」。笑顔で振り返る姿に、根っからのゴールキーパー気質が垣間見える。

 7月17日にクラブから発表された2種登録のリリース。以降、ずっと参加しているトップチームでのトレーニングは、刺激に満ちている。「ユースとはシュートの質やプレスの速さが全然違いました。それでも、やっていくうちに少しずつ慣れてきましたし、自分の中でシュートストップは得意な方で、思っていたよりもシュートを止められるシーンは多くなってきていて、そういう自分の強みが通用する部分もあったので、『やれるな』という感覚も持っています」。

 ただ、プロとの違いを痛感する部分も少なくない。ある選手のプレーレベルには常に驚かされてきた。「一番凄いなと感じたのはロクさん(六反勇治)ですね。見てる場所が全然違うんです。ビルドアップはもちろん、それ以外でも『そこまで見えているんだ!』というのは試合の時でも、練習を一緒にやっていても感じますし、吸収できるものは吸収しようと思っているので、いろいろ聞きに行くように意識していますね」。J1の守護神という国内最高峰の“お手本”から学べる経験は、高校生にとって何物にも代えがたい。

 8月5日。JリーグYBCルヴァンカップ。アウェイのサガン鳥栖戦で、深宮は遠征メンバーに指名された。スタメンではなかったものの、試合前のアップで緊張は最高潮を迎える。「でも、緊張したのはアップの最初の所ぐらいで、そこから先は自分が試合のピッチに立っても、しっかりやれるように準備していました。かなり新鮮な体験でしたね」。

 出場機会は訪れなかったが、プロの公式戦を間近で体感したことで、「この舞台に立ちたい」という気持ちが以前より強まったことは言うまでもないだろう。だからこそ、課題も自分の中ではっきり見えている。

「一番気になるのはビルドアップの所ですね。試合になったらはっきり蹴る所も出てきて、多少はできる感じなんですけど、練習では全然できていないので、いろいろな人の話を聞きながら、自分が苦手とするビルドアップを克服して、自分の強みにできたらと思っています」。弱みを、強みへ変える努力。偉大な先輩たちに揉まれつつ、日々自分と向き合っている。

 今年のユースの3年生にはゴールキーパーが2人いる。1人は深宮。もう1人は浅野大輝。彼らのライバル関係は6年目に突入している。「中3の最初の方までは自分がずっと出ていたんですけど、途中から浅野が出るようになって、そこから自分がずっとベンチになったりしたので、ジュニアユースの時は正直バチバチでしたね。仲良くなかったです(笑)」。

 だが、最大のライバルは、最大の理解者でもある。「ユースに上がってからは自分が試合に出るようになって、『浅野に抜かれないように』というのは意識してきました。今は本当に仲が良くなって、2人で遊びに行ったりしますしね」。少し突っ込んで尋ねると、微笑ましいエピソードも飛び出した。

「冬になるとシーズンが終わって休みに入る時期があるんですけど、そこで2人だけで自転車で江の島まで行くというのは毎年やっています。絆は相当ありますね。映画1本作れるんじゃないかぐらいの(笑)」。特別なポジションを争う関係性だから、お互いにわかり合える部分は少なくない。まさに切磋琢磨を好循環に変えながら進んできた2人にとっても、チームにとっても、ようやく今まで溜めてきたものを爆発させる時期がやってくる。

 ここからの4か月を見据える深宮の言葉が力強い。「最後のシーズンは悔いなく、チームが勝っても負けても自分たちが出し切ったと感じられるような試合をしたいですし、そのために日々の練習を全員でモチベーション高くやっていきたいと思っています」。さらに続けた言葉に、最も大切にしたい意識の“核”が滲む。

「以前より少しは見られる立場になったということも含めて、ミスはまずなくさなくてはいけないですし、自分がうまくやることも大切だと思うんですけど、最終的にはチームを勝たせられるようになりたいので、そこに向けて1つ1つ地道にやりたいですね」。横浜FCユースのビッグセーバー。ハマブルー躍進のカギを握るキーマン。深宮祐徳は自身がチームを勝たせる守護神であると証明する機会を、静かに待っている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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