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前橋育英MF櫻井辰徳が敗戦直後に見せた気丈な振る舞いと、神戸で「みんなを笑わせられるように」の誓い

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試合直後、涙のチームメートを励ます前橋育英高MF櫻井辰徳

[10.18 選手権群馬県予選3回戦 前橋育英高 2-3 桐生一高 太田市運動公園]

 ピッチで泣き崩れるチームメート1人1人の下へ駆け寄り、抱き上げて頭を抱え、撫でて、また次の選手のところへと向かう背番号14。前橋育英高の神戸内定MF櫻井辰徳(3年)は、夢が潰えた直後のピッチで下を向くことなく、挨拶を終えるまで仲間を励まし続けていた。

 名門・前橋育英で2年時からエースナンバー14を背負う逸材MF。ダブルボランチの一角を担った昨年は、インターハイで名を上げてU-17日本代表候補に選出され、今年9月には来季からの神戸加入内定が発表された。一方で昨年度の選手権は群馬県予選で活躍しながらも、怪我のために全国大会は欠場してチームも初戦敗退。それだけに、今年の選手権は特別な思いを持って臨んでいた。

 この日はよりゴールに近い位置でプレーし、スルーパスなどの強みを発揮するためにFW起用。「一週間しっかり準備してきて、周りと合わせようという気持ちでやってきて、練習では良い崩しとかできていた」という。味方のアクシデントもあって前半途中からは本来のボランチへ移行。前半34分に左足ミドルを枠へ飛ばし、スルーパスで相手の背後を突いた。

 だが、チームは後半3分までに3点のビハインド。心が折れそうな展開でも櫻井は「落とすな!」と必死に声を上げ、MF熊倉弘貴主将(3年)らとチームを鼓舞し続けた。そして、優れたゲームメーク能力を強みとする櫻井は随所で巧さを見せ、ゴールへの姿勢も表現。1点を返して迎えた後半29分には、右中間から右への動きでDFを外して放った右足シュートがポストを叩いた。

 だが、思うように点差を詰めることができない。後半アディショナルタイムにFW鈴木雄太(3年)が追撃ゴールを決めたものの、あと1点が遠かった。今年、前橋育英は新人戦で早期敗退したために選手権予選は1回戦からの登場。1回戦の翌日にプリンスリーグ関東の昌平高戦を戦い、その6日後に選手権予選2回戦を戦うスケジュールだった。

 この日の試合前、山田耕介監督は例年ならばプリンスリーグ関東と選手権初戦との間にあった強化時間が十分に取れなかったことを残念がっていた。特に後半は迫力のある攻撃を見せていた前橋育英だが、連覇は6でストップ。櫻井は「何もできなかった」と悔しがった。

「14番として何も仕事できなかったです。自分のせいです。自分がもう少し、声がけとか戦う部分とかしっかりやらなかったから、それがここに表れたんだと思います。何か結果で勝たせなかったなと。去年からずっと言い続けてきたことが口だけになっていたので、それで結果が出なかったのが悔しいです」。自分の力不足を認め、唇を噛んだ。

 試合直後、ピッチ上で櫻井が涙を見せなかったのには理由があった。「全国優勝という目標を持って育英に入ってきたんですけれども、それは達成できなかったんですけれども、オレはこれからサッカー人生が続くんで……もう少し、この仲間とやりたかったという気持ちがあったんですけれども……自分が泣いていたら他のみんなも先に進めないと思ったので我慢して声を掛けていました」。全力で戦ってくれた仲間のため、全力で応援してくれた仲間のためにも「14」は自覚を持っての振る舞い。だが、仲間のことについて語る櫻井の目からは涙が溢れ出し、止まらなくなった。

 選手権で前橋育英を勝たせることができなかった。期待に応えることができなかった。櫻井は前橋育英の代表として、次のステージで仲間たちのために戦うことを誓う。「1年目からヴィッセルで活躍できるように、今日はみんなを泣かせてしまったんですけれども、これから自分がプロとして『みんなを笑わせられるように』やっていきたいと思っています」。逸材MFは、仲間たちの涙、予選敗退の悔しさを胸にプロのステージで活躍をする。

前橋育英高MF櫻井辰徳は随所で攻撃力を発揮していたが……


(取材・文 吉田太郎)
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