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天へ掲げられた喪章。京都橘は先輩MFとともに全国へ

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前半35分、先制点を挙げた京都橘高イレブンは喪章を天に掲げた

[11.15 選手権京都府予選決勝 京都橘高 2-1 東山高 サンガスタジアム by KYOCERA]

 先制点を決めた木原励(2年)は左腕に巻いた喪章を外し、駆け寄った仲間たちと共に天へ掲げた。

 今大会、京都橘高の選手たちは喪章を巻いてプレーしている。昨年度で卒業した湊麟太郎さんが、10月に事故で亡くなったのだ。スピードやキレのあるプレーが魅力のアタッカーで、最終学年の昨年は背番号8を身に付け、府内三冠を達成したチームの一員として活躍。沖縄開催のインターハイ準々決勝・北越高(新潟)戦では、決勝点をあげて脚光を浴びた。今春からは京都橘大に進学し、学生生活やサッカー部の練習に励んでいる矢先の出来事だった。

 京都橘のOBで、現在は京都橘大サッカー部を率いる橋詰広太郎監督は「最初に一報を聞いた時は訳がわからなかった。『何を言ってるんだ』と…」と当時を振り返る。通夜には昨年、一緒に活動した2・3年生が参列。西野太陽(3年)は「顔を見るまで実感がなく、顔を見たら涙が止まらなかった」と話し、中には現実を受け止めきれない様子の選手もいたという。

 米澤一成監督は「一緒にプレーしたり、世話になったりした、身近な存在だった者が亡くなった。何かしてあげたい、という思いがチームにありました。麟太郎も決勝を見に来ると思う。僕個人としても、去年の選手権では何もできなかったので『彼ら(湊を含む去年の3年生)の分まで』という思いが強いんです。一緒に戦えたら、と思います」と試合前に話していた。

 試合は接戦の末に2-1で勝利し、全国大会への切符をつかんだ。試合後、選手たちは「麟くんのために勝ててよかった」(西野)、「これで優勝を報告できる。全国でも優勝して、いい報告をしたい」(金沢一矢、3年)とそれぞれ思いを口にしている。

 この決勝を特別な思いで見ていたのが、湊の中学時代の所属クラブであるVervento京都FCの倉田旬監督だ。創設10年目ながら、サンライズリーグ(中学生年代における関西の最上位リーグ)を戦う府内の強豪を率いており「当時からサッカーの実力は間違いなかった。うちのクラブを押し上げてくれた選手で、サンライズリーグ昇格決定戦では彼が決勝点を決めているんです。すごいスピードで敵陣を駆け抜けて、角度のないところから左足で決めたゴールは今でも印象に残っています」と当時の様子を話してくれた。

 京都橘には、湊の一学年下のDF小山凌(3年)も送り出している。「凌に必要以上のものを背負わせたくなかったので、この件に関する話はしていません。でも決勝戦で立派に戦う成長した姿を見れて嬉しく思うし、(喪章などの取り組みにも)感謝しています」と急逝した教え子の後輩が、プレーで示した哀悼の意に胸をつまらせた。

 家族には「卒業後もサッカーを続けられるように、大学でがんばる」と話していたという。志半ばでこの世を去った先輩の想いも胸に、京都橘は選手権に挑む。

(取材・文 雨堤俊祐)
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