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「天皇杯決勝」誰からも好かれる柳沢

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終了間際、ペナルティーエリア内でボールをキープした柳沢は、シュートチャンスもある位置にいながら、左サイドにスペースがあると見るや、ゴールを見る間も惜しむかのように、すぐにパスを選択した。「より確率の高いプレーを」という彼のサッカー哲学が貫かれたプレーだった。
さすがにその瞬間は、スタンドのあちこちに「ンッ?」と息を飲む緊張が走ったが、左サイドから上がってきたダニーロがこのパスを受けてとどめの2点目を決めると、アウェー側ゴール裏は大歓声に包まれた。
スタンドでは由香里夫人がピッチで記念撮影をする夫の姿を熱心にカメラに収めていた。
オリヴェイラ監督は「サポーターだけでなく、関係者もみんな彼が好き。個人的には好きな選手だし、気持ちとしては残って欲しい」と話すが、東京V、京都からオファーを受けている柳沢の移籍の決意は固そうだ。
オリヴェイラ監督が言うように、柳沢は本当に誰からも好かれる人柄の持ち主である。
以前はチーム内が「本田泰人派」と「秋田豊派」に分かれていたが、柳沢は本田からも秋田からも可愛がられた稀有な存在。2トップを組む歴代のブラジル人FWからも評判がよかった。02年日韓W杯のときは、中田英寿氏から「俺の中ではヤナギが日本のMVP」と絶賛され、06年ドイツW杯では骨折明けにもかかわらず、ジーコ監督に重用された。番記者にも非常に好かれている選手で、何より、サポーターに愛されている。
鹿島の11冠すべてを経験している唯一人の選手となった柳沢は、移籍するとなれば、鹿島での「ラストプレー」はいかにも彼らしい「エリア内でのパス」ということになる。この頑固さも愛される理由なのだろう。
(取材・矢内由美子)

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