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ユース取材ライター陣が推薦する選手権注目の11傑vol.2

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土屋氏が推薦するMF日野翔太(堀越高)

特集企画「ユース取材ライター陣が推薦する『全国高校選手権注目の11傑』」

 ゲキサカでは12月31日に開幕する第99回全国高校サッカー選手権の注目選手を大特集。「選手権注目の11傑」と題し、ユース年代を主に取材するライター陣に選手権注目の11選手を紹介してもらいます。第2回は(株)ジェイ・スポーツで『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当する傍ら、東京都中心にユース年代のチーム、選手を取材、そしてゲキサカコラム『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』も連載中の土屋雅史氏による11名です。

土屋雅史氏「今回も11人全員を3年生の中から選出しました。今年の高校3年生は想定もしなかった事態を突き付けられ、各種大会の中止のみならず、自チームでの練習もままならない時期を過ごしてきただけに、高校選手権という最高の舞台で全国のピッチに立つ選手たちには、予選で敗れていった多くの選手たちの分まで、この1年間のすべてをぶつけて、悔いのないゲームを戦い切ることを願っています」

GK長崎勇也(米子北高3年)
1年時から名門のゴールマウスに立ち続けてきた守護神が、いよいよ3度目となる最後の選手権を迎える。一昨年度はスタメン起用された国士舘高との初戦で、後半終盤に訪れたピンチで超ビッグセーブを披露し、勝利にきっちり貢献。昨年度の大会は2回戦で優勝候補筆頭の青森山田高と対戦し、0-6という屈辱的な大敗を喫したが、最後まで折れることなく相手の攻撃に向かい続ける姿勢は感動的ですらあった。最大の特徴は最後の瞬間まで我慢できるシュートストップの技術。絶体絶命のシーンで経験に裏打ちされたポジショニングと勇気で、チームを救うセーブを披露するシーンは何度も目にしてきている。米子北としても、鳥取県勢としても、選手権での最高成績はベスト8。その壁を打ち破るためのカギは、長崎のパフォーマンスが握っている。

DF内田陽介(青森山田高3年)
近年の高校サッカー界ではロングスローの名手を揃えるチームが多くなってきている傾向がある中で、その“投球”の質を最も結果に繋げているのがこの男であることに異論はないだろう。2年生だった昨シーズンから右サイドバックの定位置を掴み取り、数々のロングスローで貴重な勝利を引き寄せてきた。ただ、それだけで試合に出続けてきた訳ではない。「練習からずっと対人のことを監督に言われていて、意識して強くなってきました」と本人も語るように、対人守備での強さも全国トップクラス。高校の先輩でもある室屋成(ハノーファー)を目標に、攻守で戦える選手を常に目指してきた。5年前の選手権で注目を集めた原山海里はクマガヤSCの先輩でもあるが、今大会でその先輩を超えて『青森山田史上最強のロングスローワー』となる可能性も決して低くはない。

DF中島駿乃介(桐蔭学園高3年)
昨年度のインターハイで日本一に輝いた桐光学園高と激突した予選決勝では、攻められる時間の長い展開を強いられながらも、右サイドバックとして粘り強い1対1の対応で相手の攻撃を封鎖しつつ、決定的なピンチに身体を投げ出して阻止する場面も。「守備の粘り強さで試合に出してもらっている」と自己分析できているストロングポイントを遺憾なく発揮した上に、相手ディフェンスラインの裏に落とす素晴らしいフィードで貴重なアシストも記録。神奈川制覇を達成したチームをキャプテンとして力強く牽引した。また、決勝の試合後は歓喜のあまりピッチになだれ込んできたベンチメンバーたちに、早く引き上げるように促すなど、しっかりリーダーシップを発揮していた光景も印象的。神奈川県勢にとって悲願の初優勝を成し遂げるべく、2番の右サイドバックがピッチ内外で存在感を発揮する。

DF菅谷暁輝(市立船橋高3年)
思わずピッチ上で溢れる涙を止めることができなかった。プレミアリーグ2020関東の第5節。ジュニアユース時代のチームメイトも数多く在籍する横浜F・マリノスユースとの一戦。
ユースへと昇格できなかった古巣との試合に「気合いは入っていたし、ワクワクしながら」臨んだものの、試合は1-4と大敗。「試合に負けたというよりも、この3年間でレベルの差を付けられたことが悔しかった」と号泣した。このままでは終われない。自分もこの3年間で成長した姿を、改めて最後の冬に証明したい気持ちは強い。「以前は守備にそこまで自信がなかったですけど、イチフナに来て守備を徹底的に教わって、1対1の強さとか、ヘディングが自分の武器になりました。選手権ではもう見せますよ、絶対。マリノスに負けたからじゃないですけど、『オレたち強くなったぞ』というのを見せたいです」。テレビの画面越しに見守る旧友たちへ、プレーで力強いメッセージを送ってみせる。

DF弓氣田葵(関東一高3年)
元々は攻撃性の顕著な左サイドバックとして、1年時は最も早くトップチームでの出場機会を獲得したが、インターハイでは全国大会のメンバーから外れ、選手権予選でも定位置は確保できず。以降も苦しい時間を過ごしながら、「自分はディフェンスなので、絶対にゴールは与えないという気持ちを持ちつつ、いつもゴール前では自分もキーパーのつもりで立っています」と守備面での意識向上に着手すると、「アイツは今、凄く成熟していると思います」と小野貴裕監督も高評価を与え、ようやく今回の選手権予選で再びレギュラーに返り咲いた。とはいえ、やはり一番の魅力は果敢なオーバーラップと一発で局面を変え得る左足のキック。「得点に絡むパスが自分の持ち味」と言い切るだけあって、予選決勝では完璧なスルーパスでゴールをお膳立てする場面も。真剣勝負の舞台に帰ってきたレフティから目が離せない。

MF上野一心(帝京長岡高3年)
新潟県勢初のベスト4進出を果たした昨年度の選手権でピッチに立つことは叶わず、「ベンチから見ていて負ける気がしないなと感じていたけど、個人としては試合に出ることができずに悔しい思いをしました」と1年前を振り返る。それぞれが強烈な個性を持つ帝京長岡の中で、圧倒的なスピードを1つの武器として携えながら、左右のサイドバックとサイドハーフを遜色なくこなせるユーティリティさも大きな魅力。「セカンドストライカー的に使えると面白いかな」と谷口哲朗総監督も期待を寄せている。好きな選手は「1人でゴールを奪えて、相手にとって脅威になれる選手だから」トッテナムのソン・フンミン。「自分が思うままに生きるように」と名付けられた“一心”という名前のように、ブレない心を芯に持ち続ける上野の活躍は、昨年度の成績を超えるラストピースになり得るかもしれない。

MF日野翔太(堀越高3年)
選手主導のボトムアップ方式を採用する堀越において、このキャプテンの存在はチームに大きな安心感を与えてくれている。「ぶつかることも大事だと思いますし、そのぶつかり合いで出てくる答えもあると思いますし、言わないと変わらない部分もあると思うので、そこは自分の中で覚悟を決めてやろうと思います」と言い切るメンタルを携えて、時には衝突も辞さずにグループを創り上げてきたことが、29年ぶりの全国大会出場に繋がったことは疑いようがない。ピッチの中でも中盤で受けて、捌いて、走って、と常にボールに関わり続けられるタフガイ。選手権予選でも後半終了間際に追い付かれる嫌な展開の中、アディショナルタイムに決勝ゴールを叩き込み、10番の仕事を果たしてみせた。「自分も全国は初めてなので、良い準備をして、楽しむことが一番ですね」。さらりと紡いだ言葉の裏に、ベスト4進出への固い決意を潜ませている。

MF柴圭汰(昌平高3年)
須藤直輝小川優介(ともに鹿島内定)、小見洋太(新潟内定)といったアタッカー陣に注目の集まる昌平でも、最もパフォーマンスの波がなく、常に一定以上の安定感をチームにもたらすことのできる最強のバイプレイヤーだ。ユニフォームの裾は常にパンツイン。「中学生の時に部活のコーチから『シャツはインしてやれ』と言われていたので、高校になって『変わったな』と言われないように、初心を忘れないようにというか、そこは大切にしています。入れた方がしっくりきますね」と笑顔で話すあたりに、実直な性格が垣間見える。選手権に向けても「本当にたくさんの大人の方々の尽力のおかげで選手権が開催できていることには本当に感謝していますし、もっとサッカーをできることに感謝して、全力で取り組んでいきたいと思っています」と決意を新たに。主役級の“バイプレイヤー”が最後の冬に躍動する。

MF岩崎雄永(創成館高3年)
初めての全国を戦う創成館の絶対的な支柱。キャプテンであり、中盤の要として、常にチームの中心に立っているのが岩崎だ。中学時代には鳥栖U-15のレギュラーとして日本一も経験しながら、長崎の新鋭校へ進学。1年時から出場機会を得続けてきた3年間の集大成となる今大会の予選では、決勝で延長後半アディショナルタイムに劇的な先制点をヘディングで記録し、悲願達成を自らのゴールで成し遂げる結果となった。持ち味は「キックには自信があります」と自ら語る長短を織り交ぜたパスを駆使できるキック精度と、攻守に動き回れる運動量。目標にしている選手には、2年前にボランチでコンビを組んでいた赤川凜太郎(中央学院大)の名前を挙げており、尊敬する先輩の想いも胸に抱き、創成館サッカー部に新たな歴史の1ページを書き加える覚悟で、憧れ続けた晴れ舞台のピッチを駆け回る。

MF坂本治樹(前橋商高3年)
昨シーズンから10番を背負ってきたエースが輝いたのは、予選決勝の後半アディショナルタイム。土壇場で追い付いた勢いそのままに、華麗なダブルタッチでマーカーを外すと左足一閃。奇跡的な逆転勝利を呼び込む決勝ゴールをマークし、16年ぶりとなる全国切符を力強く手繰り寄せる。だが、それ以上に衝撃的なプレーはその1週間前にも見せていた。桐生一高との準決勝。後方から流れてきたボールを、絶妙のコントロールでそのまま前へトラップしすると、一気に加速して縦へと突破。その一連には“超高校級”という表現を使いたくなるようなスムーズさがあった。中学年代でプレーしていたFCおおたの先輩には日本代表の鈴木武蔵(ベールスホット・ビルレイク)も名前を連ねている。久々の晴れ舞台に臨む上州のゼブラ軍団が上位進出を果たすためには、“武蔵先輩”の系譜を継ぐスピードスターの活躍が必要不可欠だ。

FW寺田聡(神村学園高3年)
昨年のインターハイでは2年生ながらフォワードのレギュラーとして躍動。初戦で國學院久我山高相手に2ゴールも記録しており、本人も「前線からプレッシャーを掛けて、相手のミスを誘うのが僕の仕事です」と言い切ったように、丁寧なパスワークが魅力的なチームの中で攻守に走り続けられるキャラクターが目を惹いた。今シーズンはU-17日本代表にも選出されているスーパールーキーの福田師王が1トップに君臨しているため、本来のポジションで起用される可能性は高くないが、どのポジションで起用されることになってもその献身性は変わらない。好きな選手に挙げている元クロアチア代表のマンジュキッチも、ユベントス時代にはストライカーながら左ウイングで守備に奔走し、大事な試合でゴールを決めるとチームメイトから大いに祝福されていた。“神村学園のマンジュキッチ”が今大会でも結果を出せば、きっとチームは大いに勢いづくことだろう。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。Jリーグ中継担当プロディーサーを経て、『デイリーサッカーニュース Foot!』を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。ゲキサカでコラム、『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』を連載中。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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