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活動自粛も乗り越えた鳥栖U-18が悲願の初タイトル!! “中高制覇”の田中監督「難しい状況でたくましく成長してくれた」

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[12.30 日本クラブユース選手権U-18大会決勝 FC東京U-18 2-3 鳥栖U-18 敷島公園サッカー・ラグビー場]

 サガン鳥栖U-18が悲願の初タイトルを獲得した。第44回日本クラブユース選手権(U-18)大会は30日、群馬県の敷島公園サッカー・ラグビー場で決勝戦を開催。FC東京U-18(関東1)と対戦した鳥栖U-18(九州1)は、激しいシーソーゲームを3-2で制した。鳥栖は今冬、U-15世代も日本一に輝いており、育成組織の強さを印象づけるダブル優勝となった。

 鳥栖アカデミーを初めて全国制覇に導いた世代が、またしても新たな歴史を切り拓いた。

 サガン鳥栖は3年前の2017年、U-15チームが高円宮杯全日本U-15サッカー選手権を含む2冠を制し、クラブ史上初のタイトルを獲得。現在U-18チームを率いている田中智宗監督は当時の指揮官で、エースのFW田中禅(3年)、副主将のDF末次晃也(3年)、MF西村洸大(3年)、DF中野伸哉(2年)らも当時の主力選手たちだ。

 そうした鳥栖育ちの選手たちに県内外からの外部組が加わり、再び全国の頂点に立った。試合後、選手たちに胴上げされて3度宙に舞った田中監督は「付き合いの長い選手もいて、彼らだけが特別というわけではないが、どうしても思い入れは出てくる。彼らがうれし涙と笑顔で締めくくってくれたことが何よりもうれしかった」と感慨を語った。

 試合は土壇場の同点ゴールでPK戦に持ち込んだ3年前の高円宮杯U-15選手権と同様、楽な展開にはならなかった。対戦相手も3年前と同じFC東京の育成組織。リベンジに燃える相手に対し、序盤は苦しい状況を強いられた。

 鳥栖は前半2分、西村の決定的シュートが惜しくもゴールマウスを外れると、直後の相手ゴールキックから大ピンチ。GK西山草汰(1年)のフィードをDF永田倖大(3年)がヘディングで後ろにそらし、カバーリングに入ったDF岡英輝(2年)もMF谷村峻(3年)に振り切られ、早い時間帯に先制点を与えてしまった。

 準決勝の鹿島ユース戦に続き、鳥栖は追いかける展開。それでも前半11分、すでにJ1リーグで主力を務め、準決勝でも同点弾を演出した17歳の一振りが戦況を変えた。自陣左寄りでボールを持った中野がドリブルで攻め上がり、バイタルエリアで切れ味鋭くカットインすると、ミドルレンジから右足を一閃。低い弾道のボールがゴール左隅に突き刺さり、鳥栖が同点に追いついた。

 このゴールで追いついた鳥栖は再び試合の主導権を奪回。アディショナルタイムにMF坂井駿也(1年)のセットプレーから訪れた決定機では、MF楢原慶輝(1年)との波状攻撃でFW兒玉澪王斗(3年)の放ったシュートが右ポストに弾かれる不運もあったが、シュート数では10対2で上回って後半に持ち込んだ。

 そして迎えたハーフタイム、田中監督はすでにJ1リーグで得点も記録しているMF相良竜之介(3年)を準決勝に続いて投入。さらに飲水タイム明けには、準決勝で決勝ゴールをアシストしたFW石原央羅(3年)も起用し、逆転に向けた舞台を整えていった。

 すると後半28分、鳥栖がついに均衡を破った。最終ラインでのビルドアップからGK倉原将(3年)がロングフィードを送り、相手のクリアボールを坂井が拾うと、坂井はすかさず相手の最終ライン裏に浮き球のスルーパスを配給。これに抜け出した石原が角度のないところから右足を振り抜き、ハーフボレーシュートを突き刺した。

 優勢が続いていた鳥栖にもたらされた勝ち越し点。FC東京はそれまでなかなかシュートまで持ち込めない展開が続いていたため、一気に厳しい状況に追い込まれたかのように思われた。しかし、これは3年生の高校生活最終戦であり、日本一をかけたタイトルマッチ。MF常盤亨太主将(3年)を中心に再びギアを上げ、球際でのデュエルを制して再び布陣を前進させていった。

 そして後半36分、FC東京が意地を見せた。右からのスローインをMF小林慶太(3年)がFW青木友佑(3年)に預け、リターンをもらって中央にカットインすると、谷村とのワンツーからペナルティエリア内右を打開。グラウンダーでのクロスに合わせたMF梅原翔琉(3年)のシュートはクロスバーに阻まれたが、浮き球をMF佐藤恵介(3年)がつなぐと、ゴール前に動き直していた小林がヘディングで押し込んだ。

 勝利を目前に崩れ落ちる鳥栖守備陣とは対照的に、ベンチに向かって歓喜を分かち合うFC東京の選手たち。これでスコアは2-2、再び試合は振り出しに戻った。

 ところが、最後は鳥栖のエースがさすがの働きを見せた。後半45分、鳥栖は倉原のパントキックからボールを敵陣に進め、右サイドでスローインを獲得すると、クイックリスタートからのパス交換で石原がボールを受け、左足ボレーで意表を突いたクロスを配給する。これに反応したのが田中。ファーに流れながら胸トラップでピタリと収め、左足ボレーシュートをファーサイドネットに突き刺した。

 田中は準決勝の鹿島ユース戦に続き、後半終了間際の勝ち越しゴール。また3年前の高円宮杯に引き続き、またも準決勝・決勝連発となった。再びリードを奪った鳥栖は直後、指揮官が「絶大な信頼を寄せている」という副キャプテンの末次を守備固めで投入。そのままリードを守り切り、準決勝に終わった昨年に続く2度目の決勝挑戦で悲願の大会初制覇を果たした。

 試合後、田中監督はコロナ禍で過ごした今季の厳しさをしみじみと振り返った。

「僕らだけでなく世界的にすごく難しい年になったけど、新しい生活スタイルが確立される中で、サッカーとどう向き合っていくかを本当に考えさせられた。全寮制でやっているので選手を預かっている身として、ものすごい恐怖、そして責任の重さを感じていた。ただ選手もそれを分かってくれて、隔離状態になった中で我慢しながらやってくれた」。

 鳥栖U-18は今季、本来であれば高円宮杯プレミアリーグWESTに初参戦する予定だったが、感染防止のため大会自体が中止。代わりに出場したプリンスリーグ九州では、8月にトップチームで発生したクラスターによりアカデミーもトレーニングを自粛したため、活動再開直後の開幕2試合で1分1敗という苦しい船出を強いられた。

 それでも結果的には、これが最初で最後の足踏みとなった。プリンスリーグの残る3試合を3連勝したチームはその後、クラブユース選手権の九州予選でも3戦全勝優勝。全国大会では1回戦のヴァンフォーレ甲府戦(○2-0)、2回戦のジェフユナイテッド千葉U-18(○2-0)をいずれも複数得点の完封勝利で勝ち抜くと、準々決勝の横浜FC戦にPK戦で勝利し、準決勝と決勝では接戦をくぐり抜けて大会を制した。

「どうなるのという状態から、1回も負けずに全勝で来ることができた。彼らも難しい状況の中でたくましく成長してくれた」(田中監督)。世界中が未曾有の危機に瀕した2020年、全国クラブユースの頂点に立ったのは、その恐ろしさを間近で体感し、困難をチーム全体で乗り越えてきた九州王者だった。

(取材・文 竹内達也)
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