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書籍発売記念! 遠藤保仁とツジトモ氏とのスペシャル対談をゲキサカ独占公開

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『GIANT KILLING』作者のツジトモ氏(右)と、読者だった遠藤保仁(左)

3月16日に発売される書籍『GIANT KILLING 名シーンで振り返る 戦い抜くメンタル』。大人気作品の名シーンに絡めて、遠藤保仁(ジュビロ磐田)のサッカー人生をさまざまな角度から振り返る。巻頭では遠藤と『GIANT KILLING』作者のツジトモ氏とのスペシャル対談も実現。初対面とは思えないほどおおいに盛り上がり、二人の話は途切れることがなかった。書籍には収まり切らなかった対談の模様を、今回、ゲキサカ独占で特別掲載する。

遠藤 『ジャイキリ』を読んでいると、「ツジトモさんは、よく選手の気持ちがわかるなぁ」と感心するんですよ。

ツジトモ そういっていただけると、本当にありがたいです! 選手や監督の経験もない僕がサッカー漫画を描いて、この世界で生き残ろうとするなら、キャラクターの発する言葉や人間関係を丁寧に描いていくしかないと思っていて。選手も人間ですから、どう言われたらグッとくるのか、やる気が出るのか、その言葉とは何なのかをとことん考えます。チーム全体の空気を変えたいという時は、どんなことをすれば雰囲気がよくなるのか、辿り着きたいところを思い描いて、そのプロセスを逆算していくようなかたちで、ストーリー展開を考えます。

遠藤 たとえば「やる前からひるんでどうすんだ。試合前に有利も不利もねぇ。スコアは常に0-0から! 誰に対しても平等だ」(#04)という達海(猛)のセリフ、まさにその通りだと思うんです。僕も「試合はいつだって0-0から始まるのに、最初から『勝てるわけない』と思う感覚が、よくわからないので。

ツジトモ 達海のメンタリティとヤット選手のメンタリティは、とても近いんでしょうね。「歯を食いしばって頑張っているところを見せたって、しょうがない」という考え方や、物事や試合を俯瞰で見る視点など、各々の中にある美学は似ているんじゃないかな。

遠藤 僕が『ジャイキリ』の世界に入ってETUと対戦したら、達海には僕の考えていることがバレると思うんです(笑)。似ているような気がするから。

ツジトモ ははは! 確かに、そうかもしれないです。

遠藤 「この試合のカギを握っているのは、本当はコイツだ」って、達海にはすぐ見抜かれてしまう気がします。そういう鋭い観察眼や分析力を持った監督が主人公だから、サッカーをよく知っている人ほど『ジャイキリ』にハマってしまうんでしょうね。

ツジトモ 僕の印象ですが、ヤット選手って、自分に嘘をつかないイメージなんです。世間の期待を受けて、張り切るというのもなさそう。

遠藤 はい、ぜんぜんないです(笑)。もちろん自分のMAXを出す努力は常にしていますが、実力以上のものは出ませんから、「僕はこれしかできません」とも思っています。もう歳ですから走れないし、「走るのは大嫌い」と言っていますしね(笑)。

ツジトモ でもそう言いながら、実はかなり走っているじゃないですか。

遠藤 ははっ。うーん、やり始めたら、負けん気が出ちゃうんですよ。

ツジトモ アスリートはみんな、負けず嫌いですよね。でなければ、ここまで選手を続けるなんて絶対に無理だと思います。

遠藤 ですね。そういう面は、あまり人には見せないようにはしていますけど。

ツジトモ 僕は選手や監督のインタビュー映像、記事などを見ては、その言葉の裏にある本音を一生懸命想像するんです。「この人、こんなふうに言っているけれど、本音はこうなんじゃないかな」って。

遠藤 ユニークな着眼点ですね。

ツジトモ 人の“裏”にある物語に、興味をひかれるんです。とくに自分の思い入れの強い選手に関しては日頃からあれこれ想像していて、ヤット選手もその一人。今日、初めてお会いできて、イメージどおりの方だなとテンションが上がりっぱなしです。

遠藤 ありがとうございます!

ツジトモ 僕にとってヤット選手は、青春そのもの。自分と歳の近い黄金世代の選手が、日本代表として世界の舞台で戦っている姿を見ては刺激をもらっていました。小野伸二選手や稲本潤一選手がバッと世間の注目を集めたタイミングから少し後、(イビチャ・)オシムさんの監督就任などで日本のサッカー界が戦術や組織というものに目を向けはじめたじゃないですか。その時期と重なるように、パスワークで試合を組み立てていくヤット選手のすごさが多くの人の知るところとなり、日本代表としての存在感を増していく。あの快進撃は見守ってきた自分にとっても痛快でしたし、とてもカッコよかったです。

遠藤 僕自身の中では、プロ入りした10代の頃から今まで、サッカーに対する想いは何も変わっていないんですけどね……。「サッカーが好きだから、やる」、それだけです。

ツジトモ その変わらない部分もまた、ヤット選手の魅力ですよね。たとえば一発でスパーンと空気が変わるシュートとは違って、ヤット選手のプレーは一見、何をしたのかがわからない。でも試合の流れが変わった、そのプレーの2~3手前を遡ってみると、実はヤット選手が起点になっている。僕はそこに、サッカーの面白さが詰まっていると思います。

遠藤 試合を陰で操る存在でいたいなとは、ずっと思っているので、そう言っていただけると嬉しいです。

ツジトモ ヤット選手のそういったテクニカルなプレーが、多くの人にサッカーの醍醐味を教えてくれたように、僕は感じているんです。

遠藤 そうだとしたら、とてもありがたいです。



遠藤 漫画のキャラクターについてお聞きしたいと思っていたのですが……、椿(大介)って誰かモデルがいるんですか?

ツジトモ 性格的な面でモデルの選手はいませんが、スパイクなどは浦和の時の長谷部(誠)選手です。

遠藤 あぁー、そうなんですね(笑)。

ツジトモ 椿は基本的に“スーパー”なキャラクターなので、海外の試合ですごいプレーを見たりすると、「これ、椿にやらせたいな」と考えたりします。

遠藤 ほかのキャラクターで、モデルにした選手というと?

ツジトモ 杉江(勇作)と黒田(一樹)というデコボコのCBコンビは、(マルコ・)マテラッツィと(ファビオ・)カンナバーロのシルエットをイメージしています。ジーノには、ちょっと(フランチェスコ・)トッティのイメージを重ねていたかな。それから花森(圭悟)には、中村俊輔選手と香川真司選手の要素を組み合わせています。

遠藤 こういう話を聞くと、読むのがさらに楽しくなりますね(笑)。

ツジトモ 漫画でも実際のチームでも、さまざまなタイプの選手がいますが、ヤット選手のように無駄に走らず、そのぶん頭を使い、選手それぞれの個性を考えて、最適な戦術をいち早く採れる人は、周りから好かれ、慕われるリーダーになると思います。これはサッカーに限ったことではなく、一般社会でも同じことが言えると僕は思うんです。ほかにも生まれ持った才能に、年齢や経験に応じたスキルが加わって、個々のプレーに“人生”を感じられるようになったり、サッカーには一般社会とリンクする部分がいろいろあります。それもまた、サッカーというスポーツの魅力だなと。

遠藤 なるほど。そういう視点で考えると、面白いですね。

ツジトモ 『ジャイキリ』を描き始める際、「監督を主人公に」と言われて最初は「うまくいくかな?」と思っていたんです。でも、進めていくうちに、その設定が描きやすいと感じるようになりました。

遠藤 どういう点でそう感じられたんですか?

ツジトモ サッカーにおいて、チームという集団のリーダーは監督。どういうふうに試合を運ぶかは監督の采配にあり、そのうえで選手が絡んで、意外性が生まれると思うんです。ですから『ジャイキリ』のようにチームを描くことがテーマの作品は、監督が主人公というカタチでもしっくりくるなと。

遠藤 サッカー選手が主人公という作品は多いですが、監督目線の漫画は珍しいですよね。僕もそこにまず興味をひかれましたし、試合は俯瞰で見るほうなので、作品を達海と近い感覚で楽しんでいます。日本のサッカー界にも、達海のように自由な発想の監督が出てきたら、面白くなるでしょうね。

ツジトモ 僕はこの先、ヤット選手が監督になったらどうなるか、誰が右腕になるんだろうとか、そういうことも考えてワクワクしてしまいます。だいぶ気が早いですけど(笑)。

遠藤 僕が監督になったとしたら、ふざけてしまって、めちゃめちゃ真面目なヤツを横に置かれているかもしれません(笑)。

ツジトモ ぜひ、僕らの想像を飛び越えるような采配をしてほしいです! 予想を超えるフォーメーションを見て、観客が「この戦術の意図はなんだろう?」と考える。それも、サッカーの面白さのひとつだと思うので。

遠藤 選手も頭を使うから、経験を重ねるごとに賢くなっていくと思うんです。賢いプレーができる選手がもっともっと増えたら、きっと面白くなる。近い将来そうなればいいと思うし、近くでその面白さを感じたいとも思いますね。漫画家さんはサッカー選手より現役が長そうですね。将来についてはどう考えていますか?

ツジトモ そうですね…もちろん年を重ねると体力的な衰えはありますが、僕自身は死ぬまで現役の漫画家でいたいなと思っています。ヤット選手はどうですか?

遠藤 一度はピッチを、サッカーを離れたとしても、結局は「勝負の世界に戻りたい」と思うんでしょうね……。

ツジトモ やっぱり、そうですよね(笑)。勝負の世界って、僕らの想像もつかないほどハードな環境なんでしょうが、取り憑かれるほどの魅力があるんだと思います。ヤット選手の今後のご活躍も、楽しみにしています!

遠藤 僕も『ジャイキリ』の今後の展開を楽しみにしています!

(取材・文 木下千寿、撮影 井上孝明)

<書籍概要>
■書名:GIANT KILLING 名シーンで振り返る 戦い抜くメンタル
■著者:遠藤保仁、ツジトモ
■発売日:2021年3月16日
■価格:1,430円(税込)
■発行元:講談社
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