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[プレミアリーグEAST]0-9を経験した男たちの変化の兆し。市立船橋が粘って粘って今季初勝利!

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市立船橋高は終盤にFW松井達誠(12番)が決定的な2点目を挙げる

[5.2 プレミアリーグEAST第5節 横浜FMユース 1-2 市立船橋 保土ヶ谷]

 タイムアップの瞬間。歓喜を爆発させるというよりは、静かに勝利を噛み締めるような選手たちの表情が印象的だった。「もう単純にホッとしました。今までそれこそ吐き気もしていましたし、『ああ、もう寝れねえや』みたいな日もありましたから」と波多秀吾監督も安堵の表情を浮かべる。2日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第5節の横浜FMユース(神奈川)と市立船橋高(千葉)の一戦は、市立船橋が2-1で勝利。今シーズンのプレミアリーグ初勝利を飾っている。

 ここまで4戦未勝利。第2節では青森山田高(青森)に0-9と屈辱的な敗戦を喫するなど、どん底の状態を味わった市立船橋。前節もスコアレスで迎えた後半45分にCKから失点を許し、シーズン3敗目を突き付けられる。「『もう“魂”の部分しかねえぞ』と。『それがまず大前提にあって、技術や戦術を積み上げていかないとダメだよ』ということで、今週1週間の練習に臨んでいました」と波多監督。選手もスタッフも背水の陣を敷いて、このアウェイゲームに向かっていた。

 その勢いは立ち上がりから現れる。前半2分。前線からのプレッシャーで相手のミスを誘い、CKを獲得。MF郡司璃来(1年)が右から蹴り込み、こぼれを叩いたMF山本大輝(3年)のボレーは枠を外れるも、この試合への気合をファーストチャンスに滲ませると、結果を出したのは1年生アタッカー。

11分。ここもサイドでプレッシャーを掛けて奪ったスローインから、左SB大我祥平(2年)の投げ入れたボールを、MF平間陸斗(3年)がクロス。こぼれを拾ったMFイジェンバ・リチャード(2年)が縦に速いパスを付けると、巧みにトラップした郡司は左スミのゴールネットへシュートを送り届ける。「彼はそれこそ1年生ですけれども、物怖じせずに堂々とプレーできますので、だんだんプレミアの強度に慣れてきて、自分の持ち味を発揮することができてきていました」と評した指揮官のスタメン抜擢に応える郡司の先制弾。5試合目にして今シーズンのプレミア初ゴールが飛び出し、市立船橋が1点のアドバンテージを得た。

 先制された横浜FMユースも19分には、U-18日本代表に飛び級で招集された右SB舩木大輔(1年)のクロスに、最後はMF松村晃助(2年)のシュートが枠を襲うも、市立船橋のGKドゥーリー大河(2年)が気迫のファインセーブ。33分は市立船橋。MF武藤寛(3年)が左へスルーパスを通し、FW松井達誠(3年)がフリーで抜け出すも、やや置きに行ったシュートは横浜FMユースのGK木村凌也(3年)ががっちりキャッチ。お互いに攻め合うゲームは、市立船橋がリードして後半へ折り返す。

 2試合勝利から遠ざかっている横浜FMユースも、ハーフタイムを挟むとアクセルを踏み込む。後半4分には左SHの佐藤未来也(2年)がサイドチェンジを送り、舩木が好トラップからクロス気味のシュートを枠の左へ。20分にも舩木の右クロスを、ファーで収めた佐藤のシュートはドゥーリーが気合のセーブ。

 24分に途中出場のFW内野航太郎(2年)が右から仕掛け、エリア内のFW横溝広太(3年)に入り掛けたボールは市立船橋のDF金子光汰(3年)が弾き出し、直後にMF島田春人(2年)が狙ったミドルは、ここも市立船橋のディフェンスリーダーを任されたDF小笠原広将(3年)が体でブロック。「市船は走るチームですから」とキャプテンのFW平良碧規(3年)が口にしたように、押し込まれる中でも中盤の山本、武藤、MF坪谷至祐(3年)を筆頭に、全員が走って1つずつピンチを潰していく。

 するとワンチャンスを生かしたのは、またもアウェイチーム。後半途中から降り出した雨が勢いを増した40分。小笠原のクリアを自陣で拾った松井は、40メートル近くを独走しながら、「前半に1本外していて、あそこで決めないとチームに迷惑を掛けちゃうかなと思って、ここは振り抜こうと」右足一閃。DFに当たったボールは、綺麗な弧を描いてゴールへ吸い込まれる。「苦しい状況での得点で、なおかつあれだけ頑張っていた松井が獲ってくれたので、良かったなと思います」と指揮官も認める、ハードワーカーが殊勲の一撃。2-0。大きな1点が市立船橋に入る。

 諦めないトリコロール。45+3分。右サイドでのスローインから、途中投入されたMF篠原佑岳(2年)が中央へ折り返し、前線に上がっていたCBの西田勇祐(3年)が豪快なシュートを叩き込み、1点差に迫ったものの、程なくして聞こえたタイムアップのホイッスル。「練習試合でも勝てていなかったですし、プレミアでも勝てていなかったので、『勝った!』という喜びがこみ上げてきました」と平良。市立船橋が喉から手が出るほど欲しかった勝ち点3を、ようやく第5節で手にしてみせた。

 リーグ開幕から1か月。苦しい日々を過ごしたきた市立船橋だったが、波多監督はこの時間を経て、選手たちの変化を感じていたという。「『自分たちでやらなければいけないんだ』と。与えられたりとか、やらされたりとかじゃなくて、自分たちでやっていかなくてはいけないんだという所の意識は、さらに高まったんじゃないかなと。でも、まだまだ甘さがある所は、その都度で話をしながらやっているので、良い方向に向かっているのではないかと思います」。

 スタメン落ちしながら、後半途中からピッチに登場すると、攻守に走り続けた平良の言葉も印象的だ。「水曜か木曜にスタメンではないのはわかっていましたけど、いかにスタート組のためにサブ組がどれだけやれるかも考えていましたし、途中から出るにはしっかりアピールしなくてはいけないと思って、チームのためにもそうですし、自分のためにも気持ちを切り替えて、練習からやっていました」。

 0-9という過去は変わらないが、未来はこれからいくらでも変えることができる。「監督からも『変わらないといけない』と言われ続けていて、まだチームとして完全に変われてはいないんですけど、今日こういうきっかけがあったので、これを機にもう1つ2つ変わっていけたらいいなと思います」(松井)。

 怒涛の1か月を経験し、変化の兆しが見えつつある市立船橋。この日の勝利をどう生かしていけるかは、今後の彼らの日常に懸かっている。

(取材・文 土屋雅史)
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