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名門のキャプテンはチームと個人の成長を期す。市立船橋FW平良碧規が抱える今季初勝利の感慨

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市立船橋高をまとめるキャプテン、FW平良碧規(9番)

[5.2 プレミアリーグEAST第5節 横浜FMユース 1-2 市立船橋 保土ヶ谷]

 キャプテンにもかかわらず、スタメンを外されたことが悔しくないはずがない。ただ、目指すのはチームの勝利のみだということも、十分過ぎるほどによくわかっている。「自分はスタートで出れなくて、凄く悔しい気持ちはあるんですけど、ようやく1勝できて率直に嬉しいです」。名門の市立船橋高(千葉)を牽引するキャプテン。FW平良碧規(3年=Wings U-15出身)の献身性も、この日の勝利には欠かせない大事なピースだった。

 4試合勝ちのない状況で迎える、第5節の横浜F・マリノスユース(神奈川)戦。次こそはと意気込んでいた平良は、週の半ばに自分が次節のスタメンに入っていないという事実を知る。

「平良も惜しいチャンスが今まであったんですけど、なかなかゴールを決め切れなくて、彼自身も悩んでいたというか、落ち込んでいた部分もあったと思うんですけれども、『ここは何か1つ変えなきゃいけないな』という所で、思い切って彼を外して、他の選手にチャンスを与えて、競争を活性化させたいという所もありました」。波多秀吾監督は自身の采配について、真摯に明かしてくれる。

「水曜か木曜にスタメンではないのはわかっていましたけど、いかにスタート組のためにサブ組がどれだけやれるかも考えていましたし、途中から出るにはしっかりアピールしなくてはいけないと思って、チームのためにもそうですし、自分のためにも気持ちを切り替えて、練習からやっていました」。第2節は青森山田高(青森)に0-9と屈辱的な大敗。第3節は平良がPKを失敗して、チームは勝利を逃す。あるいは誰よりもゴールを渇望しているフォワードは、それでも自分を律して、ベンチからキックオフの瞬間を見つめる。

 前半11分にMF郡司璃来(1年)が、今シーズンのリーグ戦におけるチーム初ゴールをマークすると、最初の45分間こそ良い流れでゲームを運べていたものの、後半に入って負けたくない相手の攻撃が活性化。少しずつ押し込まれる時間が長くなり、指揮官は決断を下す。

 18分。ピッチサイドに9番が現れる。残された時間は30分弱。「自分は途中から入ったので、声も一番出せると思いますし、やっぱり走ることを強みとしてやっているので、いつもスタートで出ている時より、もっと走らないといけないという気持ちで臨みました」。雨脚の強まるグラウンドを、平良はとにかく走り続ける。

 40分には同じポジションで日頃から切磋琢磨している、FW松井達誠(3年)が追加点をゲット。アディショナルタイムには1点を返されたものの、ピッチの中で勝利を告げるホイッスルの音色を聞く。「練習試合でも勝てていなかったですし、プレミアでも勝てていなかったので、『勝った!』という喜びがこみ上げてきました」。ようやく手にした白星の味を、チームメイトと共有する。ほんの少しだけキャプテンとしての重圧を下ろせたことも、試合が終わると改めて実感した。

 とはいえ、今度はまたスタメンに返り咲くための競争が、トレーニングのピッチで待っている。「ずっと勝ちも獲れなかったですし、自分も結果も出ていないですし、今回はスタートで使われていないという所もあって、今は非常に苦しい想いをしていると思います。でも、ここで勝てたことは凄く大きいですし、他の人たちが結果を出している分、良い刺激をもらって、キャプテンとして次の試合はしっかりスタートから出て、チームのために結果を出したいです」。

 大きな喜びと、もちろん小さくない悔しさと。名門のリーダーという重圧を引き受けつつ、1人のサッカー選手としての意地を見せるため、自らのゴールを期す男。今年の市立船橋には、平良碧規という献身的なキャプテンがいることを忘れてはいけない。

(取材・文 土屋雅史)
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